第9話 公爵令嬢は知りたい

「光の正体はお嬢さんかな?光の精霊かと思ったよ」


ずばり正解を言い当てられていてどきっとする。


「い、いえ!光の精霊ではなく、ちょっと火の魔法に失敗してしまって……。魔兎を倒そうとしているんですけど、なかなかうまくいかなくて……」


「なるほどね。魔兎を狩るコツは正面から魔法を打たないことだよ」


「どうしたら倒せるか教えていただけませんか」


(わしの教えは無視かえ?)


何か声が聞こえたが、今は人前なので無視をする。


「いいよ。出会ったのも何かの縁だからね!私は桜。よろしくね」


右手を差し出されたので、両手で握り返す。


「わたくしは、フィーナと申します」


「フィーナの職業は魔法使いであってるかな?」


手や腰に剣や盾が無いので、魔法使いと思われたようだ。その通りである。


「はい、魔法使いです」


「私がナイフを投げて、魔兎の視線を誘導するから、後ろから魔法を打ってごらん」


魔兎の後ろに回って、ナイフを投げたタイミングで兎がよけ、すかさず土球アースボールを撃ち込む。あんなに当たらなかった土球があたり、兎が気絶した。


「気絶してる間に解体するよ」


「解体……。したことないです」


「ナイフも持ってなさそうね……」


「魔法使いだとしても、短剣は持っていたほうがいいよ。素材を切るのに必要だからね」


「はい!」


兎のお腹を開き、手足を落として皮を剥ぐ。初めて見る解体に食欲が全くわかなかったが、お腹が鳴った。朝からご飯を食べていないので、体は目の前のお肉を食べたがっているようだ。


「兎の肉をここで食べていくかい?」


うさぎ肉は2銅貨にしかならない。食事が5銅貨なので、ここで食べるか悩む……。


「となりの町で売られていたおいしい香辛料を手に入れたところだったんだ」


「食べます!」


くい気味に答えてしまった。おいしく食べられるのなら何も迷うことはない。

 近くの木と適当な石を集め、火球ファイアボールを打ち込む。


「フィーナは土と火の魔法が使えるんだね」


「はい。他にも風と水と木も使えます」


「全属性じゃないか。お貴族様でもほとんどいないよ」


「えへへ。いやーそれほどでも」


実際に魔法学校で全属性だったのは私と王子だけだった。魔法に関しては自信があるので少し得意げになる。


「中級魔法は使える?」


「ええ。使えますわ」


「それなら土壁アースウォールを使えば魔兎なんて簡単に狩れたんじゃない?」


「中級魔法以上は魔法陣が必要なので、割に合わないと思い使わなかったんです」


「狩りの知識は全くなくて、魔法も魔法陣を使うって……。ほんとに、どこのご令嬢」


「えっえっとあーそれは……」


地方貴族の子爵や男爵なら話しても大丈夫だろうが、公爵令嬢とはさすがに言えずどもってしまう。とくに爵位や家名を気にしていないのか、違う質問をされた。


「お貴族様なら魔法陣は書けるよね?」


「はい」


「なら魔法陣を買わなくても地面に魔法陣をかけば、魔法を発動させられるよ」


「ええ!そうなんですか。学校では習わなかった……」


「お貴族様は魔法陣を買ったほうが早いからね。それに魔法陣は消されたり、焦って書き損ねると発動しないから獰猛な魔物相手に書くことはあまりないよ。ただ魔兎のように自分から攻撃してこない魔物に関しては有効かな」


「勉強になります」


土壁アースウォールも横一列に発動させてるでしょ?」


「ええ」


土壁アースウォール火壁ファイアウォールを兎が飛べない高さで四角に囲んだ後に、土球アースボールを打ち込めば簡単に捕まえられるよ」


「魔法を使う練習やテストはしたのですが、魔物と戦う練習をしたことが無かったので知りませんでした。私が魔物と戦えるようになるまで、、、もしよろしければ私の師匠になってくれませんか」


頭を下げて、お願いしてみる。


「私は初級の魔法しか使えないんだ。それで魔法使いの師匠はちょっと……」


苦い表情で答える桜師匠の腰には剣がある。見た目通り剣使いなのだろう。

剣使いに魔法での戦い方を教わるのはたしかに理に適っていない。だが解体・採取・討伐の基本的なことはどの職業も共通だと思い、冒険者として教えを乞うことにした。


「冒険者の師匠になってください。戦い方や採取のやり方などの基本的なことを教えてほしいです」


「困ったな。頼まれると弱いんだよ……」


「ありがとうございます」


「まだ教えるとは言ってないんだが……。フィーナがEランクの魔物と戦かって、解体できるようになるまでで良ければ引き受けよう」


「ありがとうございます」


「とりあえず、私はお肉を食べてるから、ここから見える魔兎3匹を土壁で囲って倒してごらん」


「はい」


魔法陣を地面に書き、土壁アースウォールを唱えて魔兎を囲い込む。土球アースウォールを打って魔兎を3匹とも倒した。気絶させた魔兎を渡し、解体方法を教わる。桜師匠の短剣を借りて、皮・肉・目と分け教わったことを実践した。


「町に戻ったら解体用の短剣を購入しておくんだよ」


「わかりました」


「もう日も沈む。そろそろ街へ戻ろうか」


「はい!桜師匠」


(返事は無駄に良いんじゃから)


変な声が聞こえたが無視をして師匠と街へ戻り、魔兎の素材を換金した。師匠に手伝ってもらったので素材を渡そうとしたら、ランク外の素材は安いから要らないと断られた。


「換金ですね。

魔兎の皮……8銅貨 × 4 = 32

魔兎の目……10銅貨 × 4 =40

魔兎の肉……2銅貨 × 2  =4

合計76銅貨です」


肉体労働をしてお金を稼ぐのは初めてだからか、76銅貨という微々たるお金をすごく嬉しく感じた。


食事処で魚料理を注文し、7銅貨を支払う。師匠と食卓を囲みながら明日の話をする。


「明日は狩りたい魔物はいる?まだFランクだから高ランクの依頼は無いかもしれんが」


「Eランクに上がれるように実績を積みたいです」


「そうだな。まずはEランクを目指そう。魔兎の依頼を達成したから、あとは薬草と魔木の採取をすればEランクになれる。明日は薬草と魔木の依頼を両方達成しよう」


「はい!桜師匠」


「明日のために今日はゆっくり休むんだよ」


今日は初めての経験をたくさんしたからか、体がへとへとに疲れていた。

ベッドに入ると気絶するようにすぐ眠ってしまった。

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