第34話 ダイヤモンドみたいな朝
ふと何か冷たいものが頬をすり抜ける感じがして、
「う……?」
足のほうが温かい。いや、熱い。その熱さのせいで、足にはじっとりと汗をかいている。
「うん……」
肩のところまで毛布を掛け、頭はふかふかの枕の上に載せている。
その温かさのせいで、背中にも汗をかいている。その暖かさで、また眠気が増してきた。
もうちょっと寝ようか。まだ眠い。
まぶたを閉じようとすると、天井の、笠のついた円い蛍光灯が見える。
いまは消えている。その上の天井には、一本、棒が通っていて、その上は斜めの天井で……?
何かへんだ。
「はっ!」
ここはまりもの家だ!
勢いよく息を飲み込んで、そのはずみで身を起こす。
「あ? 起きちゃった? ごめんねー」
半分まだ眠そうだ。
まりもは、薄い
ふりふりの縁取りのついたピンクの寝間着で、足首のところまできゅっと縁取りがついていて、かわいいのだけれど。
こいつが大きく開けている窓から冷たい空気が入り込んでくるのだ!
ストーブもつけないで。
バカ!
「あんたねー……っ」
もっときっぱりと怒りたいのだけど、眠気のせいで間延びしてしまう。
「ああ、閉める閉める。閉めるし、ストーブもつけるけど、でももうちょっとだけ」
あんたの「もうちょっと」なんか信用できるかっ!
そんな気分をバネに、満鶴は、胸のところに載っていた毛布を取り、こたつから出てばねのように立ち上がり、窓辺のまりものところに向かう。
こたつのなかで汗をかいた足が冷たい! 眠気が吹き飛んだ。
ぴしゃん、と、窓を閉めてやるつもりだ。こんなので風邪を引いたらどうするんだ?
でも、窓で、まりもの横に並んで、そんな気もちは一瞬で消えてしまった。
「わあ! まっ白だねぇ」
その声といっしょに、息がくっきりと白いかたまりになって、雲のようになって、上がって行く。
「ほんとにねえ」
答えたまりもの息も、やっぱりそうやって上がって行く。
下にはふわっとふくらんだ雪が積もっていた。その向こうの竹垣も雪に覆われていた。その向こうの道も、車の通ったところが中途半端に飴のように半透明になっているだけで、やっぱり白い雪で覆われていた。そして、その向こうの田んぼも、そのずっと向こうの山まで……。
田んぼのなかの高い杉だけが、雪に覆われずに黒く突き立っている。でも、その高いところの枝は、やっぱり帽子のような雪に分厚く覆われている。
そして、空は、いまは雲一つない青い空だ。その青が深い。
その青い空の明かりを反射しているのか、雪はあちこちできらきらと光っている。その色は白くて透明で、でも、その小さい光一つひとつが違う色できらめいているように見える。
ダイヤモンドみたいだ。ダイヤモンドなんて見たことないけど。
「きれいだね」と声を立てそうになる。
でも、その前に、まりもは顔の前にスマートフォンをかざして、かしゃんと写真を撮った。そして、満鶴の前に無遠慮に右手を伸ばすと、ぱん、と思い切りよく窓を閉めた。
窓ガラスは半透明ガラスなので、外の様子は見えなくなる。
もう!
まりもの意地悪!
そう言おうとして振り向くと、まりもはスマートフォンをいじって、何かやっている。
「何やってるの?」
きく。まりもは笑って満鶴を見上げた。やっぱり身長差があるのだ。
「お姉ちゃんに見せてあげようと思って」
おもしろそうに、照れたように、笑う。
「お姉ちゃんだって、こんな雪、見たことないと思うから、きっと驚くぞ」
「ああ、そうだねー」
満鶴も、そのまりものお姉ちゃんというひとを昔から知っているような気もちになって、そう相づちを打った。
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