蝉、冬、砂浜






「うわっ、やっぱ寒ぃーな冬の砂浜は、あれなんか...店立ってる、『ハウスオブスカイ』......せめてそこはハウスオブシーにしろよ! 何だ空の家ってラピュタか!まあ暇だし行ってみるか」





◇◇◇





ガラッ



「いらっしゃいませこんにちは!」


「あ、どうも〜やってる?」


「やってるやってるぅ!」


「うわ気持ち悪っ!ジミー大西かよ!」


「おふとり様ですか?」


「おひとり様だよ!! 失礼な奴だな! 普通何名様ですか、だろ」


「ああそうだった、何様ですか?」


「お客様だよ!! うわやべえ店引いちまった!! こんなやつが店員なの!?最悪だよ...」


「すいませんちょっとまだ慣れてなくて...」


「慣れる慣れないの話かよ...しかも店スカスカ! 誰もいねえじゃねえか」


「うち今日開店したばっかりなんですけどね」


「あ〜そうなんだ、チラシとかちゃんと配ったの?」


「いや、配ったんですけどね...ちょっと店の住所間違えちゃって」


「チラシに書く住所間違えたの!? そりゃ誰も来ない訳だわ」


「ああいえ、店を建てる住所を間違えちゃって」


「店を建てる住所!? どうやって間違えんだよそんなの!」


「すみませんちょっと慣れてなくて...」


「慣れる慣れないの問題じゃないだろ!! まあ良いけどさ、どこ座ってもいいの?」


「全然大丈夫です、お好きな席どうぞ! 今案内しますね!」


「どっちだよ!! 」


「こちらのお席どうぞ! 今おしぼりお持ちしますね」


「はいはい、ふぅ〜何食おうかな」


「こちらおしぼりになります!」


「どうも、いや冬だけどさ、結構厚着してたら汗かいてきちゃったよハハ」


「アッハッハッハッハッ!!ちょっと何言ってるか分からないですね」


「何で何言ってるか分かんねえんだよ!」


「それにしてもお客様珍しいですねこんな時期に...冬眠ですか?」


「ヒグマか俺は!? デカくて毛深かったら皆ヒグマに見えてんのお前!?」


「あ!!」


「うおっびっくりした急になんだよ!」


「お客様それおしぼりじゃなくて雑巾でした」


「汚ね!!! 顔まで拭いちまったわ!!早く言え馬鹿野郎!」


「すいません、今替えの雑巾持ってきます!」


「おしぼり持ってこいよ!!何でまた雑巾持ってこようとしてんだよ!」


「すいませんちょっと慣れてなくて...」


「お前それ言えば何やっても許されると思ってんのか!? 慣れる慣れないの問題じゃないって言ってんの!!」


「おしぼりとメニュー持ってきました!」


「さっさとしてくれよ...ん? え、何これ『蝉の抜け殻の素揚げ』? 」


「ああ、うちゲテモノ料理専門店になります」


「え、そうだったの!? うわ、完全に入る店間違えたわ」


「今日は結構活きのいいのが入ったんですよ〜」


「今日が開店初日だろ! まあ入っちまったもんはしょうがないか、どんな料理なんだ?」


「フグの肝です」


「殺す気か!? ゲテモノ料理でホントに毒混ぜちゃダメだろ!?」


「ちょっと変化球投げてみようかなって」


「魔球だけどな!?打つ側の気持ちになれよ!ちょっとさ...他のオススメとかないの?」


「そうですね、えっとこちらの捕獲レベル16の」「捕獲レベル!?」


「ちょっと待って捕獲レベル? トリコでしか聞いた事ないんだけど」


「捕まえるの結構大変だったんですよ」


「あ、自分で捕まえてるんだ!16ってガララワニより上だけど何捕まえてきたんだよ?」


「アヒルです」


「アヒルか...ん? アヒルを捕まえてきた?」


「はい」


「それどこにいたやつ?」


「その辺の池にいたやつです」


「許可は?」


「取ってないです」


「それって犯罪じゃ?」


「犯罪です」


「何こいつ怖っ!! 普通隠したりするもんじゃねえのそういうの!!」


「だから書いてあるじゃないですか捕獲レベルって!」


「え、あ! これ自分が警察に捕獲されるレベルって事!? 訳分かんねぇ!!」


「ドキドキしますよね!」


「気色悪! もうゲテモノ料理屋じゃなくてイロモノ店主屋にした方がいいんじゃねえの!?」


「そうですねぇ...あ、お客様! アヒルよりもっといい鳥がいたのを忘れてました!」


「何かちょっと気になる言い方だな、ゲテモノ料理だし...オウムとかか?」


「閑古鳥です」


「お前よくそのボケで言ってやったぜ感出せるな!? 店の店主が笑えないボケ出してくんじゃねえよ!!もういい、出てくわこんな店!」


「ちょっとお客様出ていくんだったら席料払っていってくださいよ!!」


「払うわけねえだろ席料なんてよ!!馬鹿じゃねえの!?」


「SEKIROじゃなくて席料ですよ!!」


「言ってない言ってない!!何と勘違いしてんだお前!?」


「払わないって言うなら、お客様の事料理にしますよ!!」


「お前が言うとホントにやりそうでクソ怖いんだよ!! 分かった払うから落ち着けって!!いくらだよ?」


「316円です!」


「良心的!! 何も食ってないけど落差大きすぎて良心的に感じるわ! ほら丁度!」


「ありがとうございます! こちら16円のお返しになります!」


「300円じゃねえか!!何で余計に払わせたんだよ!!」


「またのお越しをお待ちしております!」


「二度と来るかこんな店!!」






◇◇◇





「いや〜やっぱり地球人との会話は難しいな...でもいつまでも慣れてない、なんて言い訳もできないし...これからも頑張るか!」


店主は独り言を呟くと厨房にあるボタンを押し、店を宇宙船へと戻した。


「次は場所を変えてみよう!」


ハンドルを操作すると、やがて宇宙船は空の彼方へと消えていった。


これからも彼は手を変え品を変え、店を商い続けるだろう。


ひょっとしたら貴方の近くでも───。


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