ホラーな洋館を物理で突破する

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 二十歳、独身、サラリーマン。

 趣味は体を鍛える事。

 あだ名はケンちゃん。


 名前にケンジとかケンタロウとかがあるからではなく、見た目が健康そうだからケンちゃんと言われるようになった。


 そんな俺は、困っていた。


 迷子だ。


 山の中で。


 しかし神は俺を見離さなかったようだ。


 目の前に影。


 それは三階建ての建物だった。


 山の中をさまよっていたら、目の前に不思議な洋館があった。


 この山に、そんな洋館があるなんて聞いた事はないけれど、渡りに船だ。


 実は今、遭難している。


 空はもうすぐ、雨がふってきそうな感じだったので、どこかで雨宿りしたいと思っていたのだ。


 だから、この洋館の中に住人がいるなら、雨宿りさせてもらおう。


「ごめんくださーい。誰かいませんかあぁぁぁ!!」


 元気に声をかけた。

 よく人から体育会系っぽい声だねとよく言われる大声で。


 しかし返事はない。


 仕方なしに屋根のある玄関先で雨宿りしていると、きいいと音が。


 背後で玄関が開いていた。


 しかし人の気配はない。


 シャイな人間が開けてすぐ隠れたのか、もしくは無施錠だった玄関が何かの拍子に開いてしまったのか。


 判断に困ったが、中に入らせてもらった。


 住人を探す中、上から何か降ってきたから、反射的に殴りつけてしまった。


 素早く逃げていったそれは、ネズミか何かだろう。







 久々の獲物が我らの洋館にやってきた。


 ガタイのいい成人だ。


 しかしいくらと力があろうと心は鍛えられない。


 その目にうつした非日常の光景で、すぐ我らに心地よい悲鳴を聞かせてくれるだろう。


 ……と思っていたら何かおかしい。


 最初の脅かしにと、玄関でネズミの化け物を投入してみたが、一撃で撃退されてしまった。


 バシンと中々良い音がなった。


 ネズミの化け物は哀れなことに、悲鳴をあげて逃げ去っていく。


 これでは立場が逆だ。


 そのあとも、落とし穴で地下に落とそうと思ったが、うまくいかない。


 ターゲットは、驚異的な身体能力を発揮して回避した。


 宙に浮いた板切れの上に飛びのってさらにジャンプ。二段ジャンプとかゲームの中だけの存在だろう。こいつ人間じゃないのでは……と思った。


 お次は、厨房。切れ味の鋭い食器たちが襲いかかっていった。が、やつはこれもひょいひょいと寝ぼけ眼でかわしていった。


 眠気に襲われているとはいえ、そこは驚いたりするところだろう。


 やつはずっと右手で目をこすりながら、左手に仕事をさせていた。食器がぺしんぺしん、手で払われていく。その間、奴はすごく余裕そうだった。


 そのあとターゲットが、客間のソファーで爆睡し始めたので、先ほど不発に終わった罠を発動。床をぱかっと開けて、地下に落とそうかと思ったけど、これもダメだった。


 ベッドごと下に落としてやろうと思ったのに。


 鼻提灯をふくらませながら、ベッドの上からとびすさった。


 こうなったら直接的に危害を加えてやると、西洋鎧が剣を振り回しにいったが、数秒後にべこべこになって逃げていった。


 勘弁してくれ。


 これは普通の人間じゃない。

 我々はもう、この時点で悟ってしまった。


 しかし人を脅かしてきて、何十年。


 我々にもプライドというものがある。


 とっておきのアレだけは、実らせたい。


 そういうわけで屋敷の構造をいじって、地下への階段を玄関前に配置した。


 ぐっすり眠って数時間。


 起床した奴は、帰り際にその階段を発見。


「こんな、階段あったかな」といいながら、降りていった。





 一晩しっかり眠った俺は、お礼の書き置きを残して、洋館から出ようと思った。


 しかし、なぜか階段があったので、気になって降りていったのだ。


 こんなところにあった気はしないが、疲れていたので見逃したのだろう。もしかすると、住民は地下にいたのかもしれないな。


 それなら人がやってきた気配に気づかなくても仕方ない。


 お礼を言うため、階段を降りていく。


 その先にあった地下室の扉を開けると、そこには棺に入った大量のミイラがあった。


 そのミイラを確認した俺は、声を上げて驚……かなかった。


 変わった趣味の住人だな。

 と思った。


 世の中には変わった趣味の人がいる。

 今までに何人も見てきた。

 だから、これくらいで驚くのは失礼だ。


 古代文明の住人か何かだろうか。


 俺は部屋をそっと閉じて洋館を後にした。


 玄関から出る前に、いきおいよく動いてきた棺が俺の足をすくうところだったけれど、腰を落としてがっちりキャッチ。


 地下室に運んでおいた。


 最近の棺は凄いな。


 コロコロがついてないのに、なぜか動くんだから。


 




 そんなわけで一仕事終えた俺は洋館を出ていった。


 一晩立つと、冷静になってきたからか、道が分かるようになってよかった。


 俺はその後、無事に帰宅する事ができた。


 昔、何かの大会で優勝した世界王者の祖父が「心配したぞ」と言って俺を出迎えたが、笑いながら「大げさな」と言っておいた。


 たった一晩遭難しただけにすぎない。


 年を取った今は自重してくれているが……。


 幼い頃祖父と遊んだ時は、これくらいじゃすまない目にあったからな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホラーな洋館を物理で突破する 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ