第9話 小さな森とカニ

 小さな森には途中に湧き水が出ていて、そこから沢が流れて市街地のほうへ流れていっている。


 今日もまた森探検にきているのだ。


 城壁内の北西側の丘が領主館、北東側の丘が女子修道院だ。

 丘の北側半分が未開拓の草原で、その北のさらに半分の城壁までが森になっている。

 森の中でも東側のほうから沢が流れて城壁脇を通って市街地のほうへ、という感じだろうか。


 今日はいつもの私トエ、サエナちゃん、シリスちゃん、そして勉強会以来仲良くなったミリアちゃんがいる。


「さて、ミリアちゃん、はい、これ」

「木刀にゃ?」

「そうだよ、どちらかというと木剣だね」


 木刀は片刃で斜めに反ってるが、木剣はまっすぐなだけの棒だ。

 竹刀とは違って断面が丸ではなく、ちゃんと諸刃のように尖らせてあるので、平べったい。


 まあとにかく、森だ。


「ここが、湧き水だね」

「そうだよ」


 過去にも森で遊んだことがあるのか、サエナちゃんはちょっとだけ詳しい。

 同じ歳だろうけど、孤児院に来たのはさらに小さいころからで、私よりは大分古株だった。


 湧き水の出る場所は、ちょっとした数メートルサイズのいわゆる「妖精の泉」とも言えそうな雰囲気だった。


 水は底まで見えており、相当綺麗だ。

 水草がゆらゆらしている。

 そして小魚が泳いでいる。

 ヤマメのような魚と、それからメダカのような魚がいる。

 さらによく見るとカニと、半透明のエビが見える。


「この魚とかカニとか取れないかな」

「うーん、どうだろう」


 湧き水の水深はよく分からないのだけど、1メートル半ぐらいはありそうだ。

 私たちは小さいので、万が一の場合、溺れてしまう。


「ちょっと深いから難しそうだね」

「そうだね」


 サエナちゃんとの議論の結果、魚やカニ取りは無理そうだ。


 しかし私は諦めの悪い女。


 湧き水には水が溜まっているけれど、当然湧いているので、溢れた水は沢となって出ていく。

 沢は水深が浅い。そしてそこにもよくよく見れば、カニとかがいるじゃないですか。


「よし、沢でカニ取りをしよう」

「わ、分かったわ」

「……カニ、カニ」

「カニ取りにゃ!」


 さて全員の了解が取れたようなので、沢の横を歩きながら、カニを探す。


 そっと近づいて、両手でえいやあぁ。


 カニが取れた。

 モクズガニみたいなカニで、10センチくらいある。

 魔法「鑑定」。


【カワイワガニ】


 色は茶色だ。ハサミが凶悪そうなので、挟まれないように注意しないと。

 名前の通り、甲羅がちょっと岩のような質感をしている。

 領主館ではそうだなぁ、5回くらい食べたことがあると思う。


「わわ、すごいすごい!」


 サエナちゃんがよろこんでくれる。

 なんだかやる気が出てきたぞ。


 さすがにカニ1匹では、少しの出汁しか出ない。


 みんなで沢に散らばって、カニを探す。


「えいにゃぁ」


 今度はミリアちゃんだ。

 獣人はだいたい俊敏で嗅覚や視覚、聴覚などが鋭い。

 こういう狩りは大得意なのだろう。


「やったにゃぁ、やったにゃ!」


 ほら、さすが。無事捕まえたようだ。


 私たちはその後もしばらくカニを探し、全部で7匹のカニを捕獲した。



 さてカニだけでは、ちょっと寂しい気もする。

 そこでキノコだ。


 さて今日は違うキノコを探す。

 サルノコシカケもなかなか良かったけど、倒木に生えるので、倒木がないといけない。

 それにサルノコシカケは食用ではないので。


 魔法「リソース・サーチ」。


 うーん。スライムは何匹かその辺にいるけれど、この前食べたブラウンシメジタケは生えていないようだ。

 キノコはいきなり生えて一週間しないで枯れてしまったりするので、タイミングを逃すと生えていないことも多い。


 サルノコシカケは小さいのが3か所くらい魔法に引っ掛かって反応がある。

 ただ小さいから、値段は期待できそうにはない。


 地面を慎重に見て歩く。


「スライムだあ」

「おう、ていやぁ」


 サーチの通り、スライムを発見、私が木剣でシバいて魔核を強奪する。


「おーおぉ」

「すごいにゃ」

「……スライム一撃」


 みんなも感心してくれるが、まあ慢心しないように気を引き締める。

 強い魔物が出てこないといっても、強盗や悪い冒険者がいる可能性はある。

 まぁサーチで引っ掛からないので、可能性は低い。

 もちろん隠密魔法、気配消去魔法などを使われると、私のレベルでは探知できない。

 何事にも例外はある。


「お、キノコ発見!」


 新しいキノコだ。魔法「鑑定」。


【キイロヒラタケ】


 その名の通り黄色をした、ちょっと毒々しいヒラタケっぽいキノコだ。

 ヒラタケはエリンギとシメジの中間みたいな感じのキノコ。言葉で説明するのは難しい。


「ねえ、黄色いけど」

「あ、うん。大丈夫、これも美味しいから。食べたことあるよ」

「そうなんだ。トエちゃんって色々知ってるし、色々食べたことあるんだね」

「まぁね、たまたまだよ。知らないことだっていっぱいあるよ」

「ふーん」

「……黄色いキノコ。毒っぽい」


 まあ、そう言わんでくれ。

 このキイロヒラタケは美味いんだ。本当。

 私も2回ほどしか食べたことがない。


 流通していないというよりも、そこまでして採ってくる人があまりいないのだろう。

 あとは売るよりも食べてしまう人が多い。美味しいから。


 一度見つけたら気配が分かる。

 キノコの気配とか、微妙過ぎてかなり頑張って集中して、大量にある反応を選別する必要があるが、魔力を放っているので、探知には引っ掛かる。


 魔法「リソース・サーチ」。

 心の中で唱えて、魔法を発動させる。


 無詠唱ともいうが、口に出していないだけで、発音する分の時間は掛かるので、厳密な意味での無詠唱ではない。

 これは言うならば、黙読詠唱だ。


 まあとにかく、こうしてまたキノコやスライムを見つけて、この日もホクホク顔で孤児院に戻りましたとさ。


「カニのスープだって、初めて食べた!」

「カニ美味しい! 出汁が出てるぅ」

「カニだぜ、カニ、いえぇい」


 その日の晩ご飯のカニ入りスープは、かなりの評判となった。

 惜しむべくは、沢のカニは取りつくしてしまうと困るので、何回も食べられるわけではないということだろうか。

 年に3回くらいなら、まあなんとか大丈夫かな。


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