師匠に追放された騎士見習い〜最強ではないけど強い方です〜

YA-かん

騎士見習い カイ 序章

 「戦えないのなら、去れ」


 剣の師であり親代わりの師匠は冷たく言い放った。デューク伯爵。師匠は王国の東に領地を持つ貴族だ。王国最高の騎士とまで言われるほどの力を持ち、数多くの強力な騎士を育て上げた先生に運良く弟子入り出来た僕、カイは幸せ者だろう。外敵から国を守ってきた英雄である先生が王家の使いを切り捨て宣戦布告をしたことにより幸せな時間は終わってしまった。領地の民が先生の元一致団結して王家との戦いに臨む中、人と戦うことを恐れた僕は追放されるに至った。


 「……」


 姉弟子のルーモ姉は一瞥しただけで何も言わなかった。


 「ホント、カイは臆病だね。まあ、魔獣相手にも足が竦んでるくらいだし。使えない先輩の分はオレが頑張りますよ。バイバーイ」


 弟弟子のグリには嘲られた。


 実の兄で兄弟子のベータ兄は今領地に居ない。


 屋敷の皆に別れを告げ旅に出ることにした。先生の元を追い出されたなど両親に言えるわけがない。路銀はある。せっかくだし王国中を物見遊山してみよう。


 そう簡単に思っていた時期が僕にはありました。


 領地をでてまず驚いたのが物価の高さだった。先生が起こした内乱だけでなく、南の帝国から伝えられた銃という武器により王国中が荒れ物資不足になっていたのだ。


 「はぁ。これからどうしよう」


 なんとか王国南の地方までこれたが路銀が尽きてしまった。道端にあった岩に座り途方に暮れる。


 「なかなかいい身形してるじゃねーか。金出しな」


 男達に囲まれ声を掛けられる。先頭の男は銃をこちらに向けている。またか。南地方は本当に治安が悪い。


 「お金無いです」


 無い袖は振れない。諦めてもらおう。


 「はあああ。よく見たら腰に剣を差してるじゃねーか。お貴族様だからって調子に乗るなよ。コレが見えねーのか。コレが!さっさと出せや」


 王国で剣を常備出来るのは貴族なる騎士階級のみである。国の最強戦力である騎士の扱いが南地方では妙に軽い。銃の影響だろう。今まで魔力を用いて戦えるのは騎士階級のみだった。銃は誰でも魔力弾を撃つことが出来る。


 「ああ、もういい。身ぐるみ剥がした方が早え。動くなよ」


 「待ちなさい!」


 男達が数人こちらに近寄って来た最中、声が掛けられる。声の方を向くと銃を構えた少女がいた。


 「あなた達。銃を使って強盗なんてやめなさい」


 少女は語気は強いが手が震えている。明らかに荒事に慣れていない。まずい。男達の銃が少女に向けられる。僕はすでに魔力で強化した身体ですぐさま立ち上がり男達の腕を剣の鞘で叩いて銃を手放させた。


 「痛えーーーー」


 男達は腕を押さえて地面を転がる。まずい、加減を間違ったか。骨を折ってしまったかもしれない。


 「すごい!あなた騎士なの?」


 少女に詰め寄られる。周りにはのた打ち回る男達。懐にあるのは空の財布。溜息が出た。


 「へえ。あの噂になってる領地から。騎士見習いだったのに追放されて」


 盗賊達を近くの村に突き出し、互いに軽く自己紹介と身の上話をした。少女の名はアナ。帝国から王都まで旅をしているらしい。騎士に興味があるようだ。いろいろと聞いてくる。


 「お金が無いの?……丁度いいわ。私の護衛やってみない?」


 提示された報酬はなかなかの金額だった。見ると身形も良いしお金持ちのお嬢様なのかもしれない。良く今まで無事に一人旅してこれたものである。銃を持っているから大丈夫かと思ったのだけれど思ってたより物騒で困っていたのよと可愛らしく笑いながら話していた。こちらとしても助かる。王都にも行ってみたかった。


 「契約成立ね。改めまして、アナよ。敬語はいいわ。ねえよかったら私に魔力の使い方教えてくれない?」


 「カイです。……カイだ。誰でも魔力はあるけど……騎士になるなら本当に小さい頃から訓練しないといけなくて、つまり君は少し歳が、だから」


 彼女はまだ若いが騎士になるのは無理だろう。しどろもどろ説明していると彼女は大声で笑った。


 「別に騎士になりたいわけではないの。銃を使うのに魔力が高いと有利なのよ。それに上手くいけば簡単な魔術使えるようになるのでしょ?」


 確かに才能があれば火起こしや飲み水を出すなど生活に便利な魔術くらいなら出来るようになるかも。彼女の手をとって魔力を探る。あれ、思ったより多いな。


 「才能あるかも。屋敷で働いていた人達よりずっと魔力量が多い」


 「ホント!嬉しい」


 王都までの道中、朝と晩は僕も鍛錬していた。その時間彼女に指導することにしよう。


 2人で旅をしてから数日でアナは魔術が使えるようになっていた。指先から火を出して喜んでいる。本当に才能がある。騎士にもなれてしまうのではないだろうか。魔術は火、水、風、土、雷の5属性が基本だ。ある程度までは修練次第でどの属性も使えるが得意な属性は1人1つである。

 僕は火属性だが彼女の得意な属性は何だろう。全属性同じように使っているように見える。わかるのはまだ先か。物覚えの良い生徒を持ち、教えるのが楽しくなってきた。


 ある領地の街に立ち入った時、衛兵に止められる。


 「おい。お前、なかなか見た目がいいな。男爵様が喜ぶだろう。俺と来い」


 アナを見て言った。僕にではない。ないよね。この衛兵は何を言っているのだろう。アナは銃を取り出そうとしていたので止めて衛兵に質問した。


 「僕のいた領地ではそんなことまかり通らないんですけど、ここではそんな法があるのですか?」


 「当たり前だ。ここは男爵領。男爵様の言うことが全てだろう!」


 この男は本当に衛兵なのだろうか。騎士たる男爵がそんなことを?騙りか?とにかくアナをそんなところに行かせるわけにはいかない。


 「すみません。僕達急いでるんで失礼します」


 そそくさと立ち去ろうとする。

 

 「おい!待て!!」

 

 衛兵が手を伸ばしてきたので軽く払おうとした。


 バシッ!


 衛兵が吹き飛ぶ。え、軽かったよね。鎧着てるのになんでそんなに飛ぶの。


 「何事だ!」


 他の衛兵達が集まってくる。まずい。どんな理由にしろ衛兵を傷付けたら罪人だ。師匠に合わせる顔が…、師匠は反乱の首謀者で大罪人だった。ぎりセーフか?


 悩んでいる間にすっかり囲まれている。


 「逃げられる?」


 アナは心配そうだが見たところ騎士はいないようだし逃げきれそうだ。衛兵の練度も低いように見える。


 「男爵様!あいつ剣を持ってます」


 え。衛兵の後ろに男爵がいるらしい。なんでこんなところに。


 「貴様!どこの騎士だ。我が領地で無法を働くことは許さんぞ」


 「デューク伯爵の元騎士見習いです」


 男爵の迫力に素直に応えてしまった。


 「デュークだと!あの謀反者の近親か。捕らえれば王家からどれ程の褒美がでるか。ククク。それにそっちの娘も良いではないか。このムーノ。男爵になったばかりだが運に恵まれているな」


 なにやら浸っている。まずい。爵位持ちの騎士の相手は正直厳しいだろう。だが男爵本人に会ってますますアナを渡すわけにはいかなくなった。しょうがない。ダメもとでやってみるか。体内の魔力を練り剣を抜く。


 「剣を抜いたな!ふん。お前などこれで十分だ」


 懐から銃を出す。騎士が銃を?余裕の現われか。


 バン!バン!バン!


 銃が轟音を鳴らし魔力弾が放たれるが剣で切り弾き瞬時に男爵の目前まで迫る。あれ、男爵が反応しないぞ。このままでは斬ってしまう。慌てて剣を止めたが剣圧で男爵は飛んで行った。


 周囲の者達も事態に気付いたのか僕から距離を取り、あるいは男爵の元へと向かった。これなら逃げられるな。アナの手を取り走り出した。


 「ふざけた領主ね。ここは高潔な騎士が治める王国のはずでしょ」


 アナは怒っている。確かにそうだが、先程の男爵は本物だったのだろうか。騎士の力を少しも使っていなかった。騎士を騙るのは大罪だから街ぐるみでもないと無理だ。やはり本物か。


 「多分、アナの想像する騎士像であっているはずなんだけど」


 ……師匠は高潔だったが弟子の皆はそうでもなかったかな?でもまだ見習いだしなあ。


 その後も王都に行く道のり、たくさんの駄目な騎士に遭遇することになった。


 「……幻滅だわ。騎士ってなんなの」


 僕も同意見だ。騎士として力の弱い者、強い力を持っていても己が欲望により民を苦しめている者。それから銃を使う悪党達。まるで世直し旅の様にずっと戦闘続きだった。


 「それにしても、カイは強いのね!」


 一応、全てを倒し怪我もそれほどしていない。強いと言われても師匠どころか弟子にも届かない騎士達ばかりだった。アナはよほど綺麗なのだろう。目を付けられそれを倒すということの繰り返しだった。統治者をあれだけ倒してきては僕はもう王国南部では大罪人なのではないか。駄目かもしれない。王都に近づくにつれ治安は良くなっている。もうもめごとは御免だ。


 「カイじゃないか!なんでこんなところに」


 どうやら今回の標的はアナではなく僕の様だ。って、弟弟子のグリじゃないか。


 「それはこっちのセリフだよ。僕は領地を出てから南周りで王都を目指して旅をしてるんだけど。師匠と共にいるはずのキミがなんでここに?」


 聞き返すとグリは顔を真っ赤にして声を荒げて答える。

 

 「偵察さ。師匠から言いつけられた立派な任務だよ。それよりカイ!ボクに何かしなかったかい。お前が出て行ってから調子が悪いんだよ。前は出来ていた動きが再現できない。呪いでもかけたんだろ!!」


 騎士見習いが偵察?ただでさえ師匠の軍は手勢が少ないのだ。貴重な戦力を戦場から離すのか。呪い?そんな事はしたことはないが体の不調には気付いたことがあった。


 「それって魔獣と戦ったときの動きが出来ないってこと?キミは無茶するから心配で強化の魔術をかけていたんだよ」


 「な、なに言ってるんだ!他者への強化魔術なんて聞いたことないぞ」


 否定しながらも覚えがある為かグリの口調は弱くなった。


 「なぜか僕は出来るんだよ」


 グリは動揺していたがしばらくしてから体に魔力を纏い始めた。まずい。


 「アナ!出来るだけ遠くまで離れてくれ!!」


 アナに逃げるよう指示をする。彼女は素直に指示に従ってくれて走り出した。すぐに辺りに強風が吹き荒れる。グリの魔力の余波だ。強力な騎士は魔力を込めるだけで自然に干渉する。


 風の刃が空気を切り裂いて飛んでくる。魔力を込めた剣で防いだ。


 「カイのくせに!ボクに強化だって。ふざけるな!!」


 風を纏ったグリが斬り掛かって来た。高速な剣をなんとか耐える。グリは強い。彼は本気だ。中途半端な攻撃では互いの被害が酷くなるだけだろう。奥の手を使う。


 「えっ?」


 速さに自信があるであろうグリの後ろをとり、魔力の衝撃で彼の意識を奪う。ふう、なんとかなった。


 「だ、大丈夫?本当の騎士の戦いってこういうのなのね。すごい!」


 いっても見習いの戦いだが。グリから剣を取り上げ、念のため縛ってから起こす。


 「な、なんだよ。強いじゃないか。ボクを陰で馬鹿にしてたのか」


 グリは号泣している。別に馬鹿にしたことなどない。恐れを知らず、どんな魔獣にも向かって行く彼の勇気を尊敬していた。こちらも本心を告げ、なんとか和解する。


 「ボクはまだまだだね。調子の悪かった原因がわかったんだ。師匠に言ってまた鍛え直してもらうよ」


 どうやら師匠はグリの危なげな動きを心配して戦場から離したようだ。


 グリから戦況を聞いて驚いた。もう王都に近い所まで攻め込んでいる。師匠の力もあるが、兄のベータが獅子奮迅の活躍をしているらしい。あの優しい兄が師匠の反乱を止めるどころか前線で戦っているとは。想像できない。


 今後、無事王都にたどり付けるだろうか。アナとの関係は。王国の内乱の行方は。僕は騎士になれるだろうか。見上げた空は暗雲に覆われていた。

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