となりの席の読めない羽生くん
ねじまきねずみ
第1話 席替え
4月末のある日
「うちの学校で一番かっこいいのって、やっぱり
「
「えー私は
「えー渡辺ちょっとチャラくない?」
「そこがツボなの、実は。」
「
「え…うーん…」
「…そうだなぁ、私も三宅先輩推しかな。」
「だよね〜!」
(正直、
葉月は愛想笑いを浮かべながら、そんなことを思っていた。
葉月はいわゆる“きれいめ”で“大人っぽい”女子高生だ。ワンレンロングにゆるいパーマをかけた黒に近いダークブラウンの髪に、制服のスカートは短め、メイクもしている。騒いだりするのを好むタイプではないが、本人の意思とは関係なく自然と派手なグループに属しているタイプだ。
———ガラッ
「
30代後半の担任教諭が
「みんなそろそろクラスにも慣れてきたと思うんで、今日は席替えをします。」
「「えー!」」
4月に進級して、自席の周辺の生徒たちがなんとなくグループになり始めているタイミングなので、一部の生徒から不満そうな声があがる。当然、担任としてはわかりきっていた反応なので気にもとめない。
「くじで決めるぞー。出席番号順に出て来てー。」
こういう場合、名字が「あ行」の葉月は早々にくじを引くことになる。
(あ、8番…)
8は葉月にとってラッキーナンバーだ。
(まぁでも…)
とくに希望の席も隣になりたい人もいない葉月からすれば意味の無い数字だ。
担任が黒板に書いた席順によれば、最後列の窓側から二番目の席らしい。
「葉月の席どこー?」
クラスメイトの
「8番。」
「8番…え、一番後ろとか最高じゃん。」
「え、そう?逆に目立ちそうじゃない?」
全員がくじを引き終わると、席の移動が始まった。
(一番後ろだとコンタクトしなきゃ、かな…)
葉月は裸眼でもぎりぎり黒板の字が読める程度の視力のため、メガネやコンタクトをした方が良いとは思っているが、メガネはあまり好きではなく、コンタクトは面倒だと思っている。
黒板を
目に被りそうな長い前髪に、銀色の
(この人は…たしか…羽ってつく…えーっと
「何?」
羽生に怪訝な顔で質問されて、葉月は自分が羽生を睨んだようになったことに気づいた。
「あ!ごめんっ!羽生くんを睨んだわけじゃないの。」
「………」
羽生は何か言いたげな顔をしたが、そのまま席に座って黒板の方を見た。
(隣は羽生くんかぁ。誰でもいいって思ってたけど、羽生くんは全然話したことないんだよなぁ。)
「あの…」
葉月が羽生に声をかけると、羽生はまた葉月の方を見た。
「隣、よろしくね。」
「………」
羽生は無言で軽くペコッと頭を下げて、また前を向いた。葉月の愛想笑いが行き場を無くした。
(別にいいけどめちゃくちゃ無愛想…別にいいけど…)
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