第6話 魔女とお酒①

 ジリリリリリリ!

「・・・・・・ん。朝か」

 スマホのアラームを消し、私はベットから起き上がった。

 気分は優れない。体が重いというか、心が重いというか。

 原因は分かっている。昨日はあの不思議な居酒屋から帰宅後、珍しく晩酌をしてしまった。ようは二日酔いだ。

 月曜日の午前5時40分。出社まで残された時間は少ない。

「んん。慣れないことをするものじゃないな」

 こめかみを揉みほぐし、鈍痛を紛らわすが気休め程度だ。

 晩酌した理由はあの魔女っ子少女がニマニマした顔で私に言い放った一言が原因だった。

 距離感読むのが得意じゃない。そう、私自身が得意だと思っていたことを指摘されて、年甲斐もなく考え込んでしまったのだ。

 デスクの上にはプレミアムなビールに、飲んだらハイになれるよと有名な缶酎ハイの空き缶が無造作に置かれていた。

 結局答えは見つからなかったし、私はいっそのこと部下の皆に聞いてみようと決意して意識を失ったのだ。

「何か腹にいれなくてはいけないが・・・・・・これは昨日買ったやつか」

 冷蔵庫を開けると昨日コンビニで購入した豆腐があった。あとは買い直した新品の味噌。

 口の中で思い出すのはあの豚汁の味だった。まぁ、豚はないが豆腐の味噌汁でもこの欲望は少しは抑えられるだろう。

 私は鍋に水を入れて、コンロの火を着けてて煮だたせていく。まな板の上に豆腐を置き、少し大きめなサイコロ状になるように切っていく。

 豆腐を鍋に入れ、少ししたら出汁入り味噌を入れる。

「いい匂いだ。このぐらいーーーーあづ!?」

 胃もたれする体は食べ物を受けつけそうになかった。かといって飲むゼリーは少し味気ない。

 そう思いつつお玉で味噌汁の味を確認して、あまりの熱さに1人で悲鳴を上げてしまう。

 コンロの火を消し、沸騰しかけた味噌汁に涙目になる。気分を入れ替えて、私は鍋の味噌汁をお玉でお茶碗によそい、お茶碗を持ってデスク前に座る。

「いただきます」

 手を合わせ、少し酒焼けした自らの声に苦笑して味噌汁を口に含んだ。

 口。

 喉。

 胃。

 熱く、深みのある液体が落ちていく。するとどうだ。一気に体がぽかぽかしてくるのだ。

 次に豆腐を箸で掴み、口に含む。豆腐の表面は汁でコーティングされて、本体はツルンとしたのど越し。あと、熱い。熱しすぎたな。

「まさか自炊をするなんて思わなかった。まぁ、母さんにこれを自炊と言ったら鼻で笑われるな」

 私はちびちびと味噌汁を飲み干し、「ご馳走様」と呟く。

 残った味噌汁は夜に飲もうか、と鍋に蓋をしているとスマホから着信音が聞こえ出す。

 スマホの画面には『営業部 木村』が表示されていた。

 

 

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