第5話 魔女とお茶漬け④
「ごちそうさまでした」
「・・・・・・私もごちそうさま」
「お粗末様でした。どうどう? 美味しかったでしょ?」
ニヤニヤする魔女っ子少女の声にサクラさんはコクリ、と頷く。
私は空になった茶碗を見下ろし、自らの腹に中に入ったくわひゃらんの味を思い出す。
嘘はつけない。
「旨かった。食材についてはあれだが、確かに旨かった」
「そ。満足いただけたようで何よりよ」
「っ」
満面の笑顔で応える魔女っ子少女の表情に息を飲んでしまう。何というかここまで無防備な笑顔を向けられると、心臓に悪い。
鼻歌を歌いながら厨房で片付け始める魔女っ子少女を見て、私は息を吐く。
今まで食べ物でこんなに満たされたのはいつ以来だろう。腹を摩っていると視線を感じて隣を見る。
じっと伺うように見ていたサクラさんと視線が合ってしまう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
どうやらあちらから話しかけてくる気はないらしい。
「あ、と。貴方もいつもここで食事を?」
当たり障りない言葉を選ぶとサクラさんは少し迷いながらも応えてくれる。
「私は、たまにです。ここへはどちらかと言うと仕事で来ています」
「仕事?」
私が問いかけると口を紡ぐサクラさん。どうやらここから先は踏み込んでほしくない、ということだろう。
これでも会社では課を任されている身だ。距離感を掴むのは私の特技だ。
帰り支度をして席を立とうとした矢先、洗い物を済ませた魔女っ子少女が会話に入ってくる。
「ああ。サクラは幻想狩りなのよ」
「ちょ、ちょっとアウラ!?」
「別に隠すことないでしょ? この人、ここに来たのは二回目なのよ。少なくとも普通の人よりはこっちよりだと思うわ。ね?」
ウィンクされても私はどう帰せばいいのだろうか? 三十四歳の私はウィンク返しするべきか? いや、絵面的に駄目だな。
「その。幻想狩りというのは?」
「ドラゴン。魔獣。悪魔。天使といった人外系の悪さをする幻想を刈り取ることを生業にする仕事よ。私の貴重なお仕事仲間ね」
「魔女も本来は対象です」
「あら? なら私も狩られちゃう?」
「・・・・・・貴方は規格外だから対象外です」
「仲がいいんだな?」
表情がコロコロ変わる二人。少なくとも単なる仕事仲間だとは思えない感じだ。
だがそれはどうやら失言だったらしい。
じっと再びサクラさんに観察されてからサクラさんは溜息を吐く。立ち上がり、カウンターに乗せられたのは五百円玉だ。
「帰ります。お茶漬けは美味しかったです・・・・・・今日は少し疲れましたので失礼します」
腰の長剣を揺らし、サクラさんは店を出て行く。
その後ろ姿を見ていた私に魔女っ子少女は呆れ声で呟くのだった。
「貴方、もしかして距離感読むの得意じゃない系でしょ?」
・・・・・・え? まじか。
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