「智の女神」の回想1
私は、かつてプルムと呼ばれていた。
今となっては、どうでもいいことだけど。
私には愛する人がいた。
あの人──ニクス様が愛するのは、自分自身と、自らが生み出した「作品」だけ。
他の誰かに感情を向けることなど無い、孤高の人。
同胞たちの中で最も強く賢く、美しい──そんな彼が、どのような理由であれ私を傍に置いてくれる、それだけで十分だった。
私は、彼の手足となって働いた。都合のよい道具としてでも構わない。あの人に必要とされることが誇らしかった。
でも、私は少しだけ欲深い考えを持ってしまった。
自分も、あの人の「作品」になったなら、愛してもらえるのではないか、と。
ニクス様は、自律思考する「完璧な」人工知能を作ろうとしていた。誰かが、その都度操作しなくても、自ら何が必要か判断し実行する、「考える
もう不要になった
それは、彼が生み出した技術や、これまでに貯えた知識を収めるデータベースの役割も兼ねていた。
私から見れば、完成されたもののように思えたけれど、あの人にしてみれば不完全な代物なのだという。
機械に足りない、曖昧さの部分を補うものが欲しいと言う彼に、私は私自身を人工知能の一部として組み込むのはどうかと提案した。
技術的には可能だが、一度そうなれば、君は元に戻れなくなる──ニクス様はそう言った。
それでも構わない、貴方の役に立ちたいと私が訴えると、あの人は少し考えていた様子だったけれど、最終的には自分の研究を完成させたいという意思を貫いた。
生体ユニットとして、
ずっと欲しくてたまらなかったものを、私は手に入れることができた。
これでニクス様は永遠に私を愛してくれる──そう思った矢先。
ニクス様と、それ以外の同胞たちの間に不穏な空気が生まれた。
「楽園」の先住民である「人間」を殲滅するべきというニクス様と、それに反対する同胞たち──どちらも譲らず、やがて一触即発の状態となった。
あの人は、過酷な旅路の末に辿り着いた「楽園」を愛した。
私たちの故郷とは全く異なる、美しく穏やかな世界を。
それだけに、「楽園」を汚染するであろう「人間」の存在を許せなかったのだ。
私自身は、「人間」になど興味はなかった。
ただ、ニクス様が「人間」を滅ぼさなければならないと考えているのなら、それを叶える手助けをしたかった。
「考える
でも、ニクス様は、「私」が破壊される可能性を考え、休眠状態で隠しておくことを選択した。
「作品」としてではあっても、あの人に大切にされるのが、「私」は嬉しかった。
奴らを殲滅したら戻る──そう言って、ニクス様は「私」を眠らせた。
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