天空よりのマレビト2

 マレビトの中には、先住民である「人間」の存在を快く思わない者もいた。

 すらりと均整のとれた体躯に雪のような白い肌と髪、そして深紅の瞳を持つ、その男は「ニクス」と呼ばれていた。

 彼は、マレビトたちの中でも最も強い力を持ち、また様々な技術を生み出してきた天才でもあった。

 ニクスにとって、「人間」は姿かたちこそ自分たちに似てはいるものの、脆弱で愚かな、虫けら程度の生物に過ぎなかった。

 そして、愚かな「人間」たちは、やがて、この「楽園」を汚染し食い尽くしてしまうだろう──それが、ニクスによる未来予測だった。

 ニクスは、「人間」を殲滅し、自分たちマレビトが「楽園」を永遠に清浄なまま管理すべきであると主張した。

 他のマレビトたちが、彼の主張を受け入れることはなかった。

 マレビトたちの考えは、自分たちは間借りさせてもらうだけの存在でしかなく、この地は、あるがままにされるべきというものだった。

 ニクスも、他のマレビトたちも「楽園」を愛することに変わりはなかった。

 ただ、その扱いについて意見が対立してしまっただけだった。

 しかしニクスが、その力を以て「人間」を殲滅しようとする事態に至り、ついに「人間」を守ろうとするマレビトたちとの間に争いが起きた。

 大地が裂け海の一部が干上がるほどの壮絶な戦いののち、マレビトにも数多あまたの犠牲を出しながらニクスは「討伐」された。

 ニクス討伐の後、マレビトたちの多くは、惑星の大地と一体化し自然の一部となることを望んだ。そして、中には「人間」とつがい、子を成す者もいた。

 「彼ら」の血と力は「人間」たちの中に受け継がれた。


 かつて、人間を滅ぼさんとする悪神を、他の神々が討伐し、地上に平和が訪れた──

 「楽園」において、はるか後世に伝わる神話の一つである。



※この物語の舞台になっている惑星は、重力や大気の組成、気候条件、太陽にあたる恒星の周囲を公転しているとか月にあたる衛星があるなど、諸々が地球とほぼ同じと考えていただいて問題ありません。

また、人間以外に生息している動植物なども、特に記載がない限り、地球上にいるものと同じだと思ってください。

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