第13話 警察署の地下ダンジョン
(12)警察署の地下ダンジョン
武が留置所のベッドで寝ていると、猫語が聞こえた。
白猫のムハンマドが来たのだろうか?
猫は夜行性だから元気だけど、武は眠くてしかたがない。
「お前、何したんだ?留置所に入れられて。」暗闇から猫が笑いながら言った。
武が暗闇に目を凝らすと猫が立っていた。暗くて色が確認できないが、多分白猫のムハンマドだろう。
それにしても、猫の指示に従って留置所に入っているのに、何て言いぐさだ・・・。
「ナカムラに連れてこられたらこうなった。『ナカムラに会え』って言ったのはお前じゃないか。それにしても、ナカムラが猫なのを教えてくれても良かったんじゃないか?てっきり警察官の名前だと思ってた。」武は猫にイライラしながら言った。
「俺は猫だぞ。猫が紹介するのは猫だと思わなかったのか?」と猫は当然のように言った。
「ナカムラで猫を想像する方が難しい。完全に人の名前だろ?」と武は猫に食い掛る。
「ああ、元々はナカムラがいた家の名だ。あいつは豊臣秀吉の家臣だった中村和氏(かずうじ)家にずっといた。」
「中村和氏って聞いたことないけど、由緒ある家だったんだな。だから家名を使っているのか。それにしても、ナカムラが400年も生きている間に、当の中村家は消滅してるかもしれないな・・・。」と武は言った。
「俺は中村家がどうなったかは知らない。ナカムラは知ってるかもしれないけど。興味あったら聞いてみたら?」
「興味ねーよ。中村家知らないもん。」
「それにしても、檻(おり)の外にいる猫が、檻の中の人間と話してるって、面白い展開だな。」と猫は笑いながら言った。
「うるさい!」武は猫に怒鳴った。
「怒った?冗談だ。まあ、ここはセーフルームというくらいだから、団地より数倍安全だ。」
「そうだけどさ・・・。僕が泊まるのは留置所じゃなくても良くないか?警察署に仮眠室くらいあるだろ?」
「そう言うなって。そう言えば、お前、暇じゃないか?」と猫は言った。
「暇?お前は暇かもしれないけど、こっちは眠くてしかたない。」
武は睡魔と戦っている。いつもなら熟睡している時間帯だ。
猫のムハンマドは武の返答を無視して、留置所の壁を指さして言った。
「その2番目の青いタイル、見えるか?」
「これか?」と武は壁のタイルを指して言った。
「そう、そのタイル。そのタイルを外すとボタンがある。面白いことが起こるから押してみな。」と猫は言った。
武は猫が寝させてくれないので、諦めて青いタイルを外した。すると、タイルの中から黒い小さなボタンのスイッチが出てきた。
見るからに何かが起きそうなスイッチだ。
武には嫌な予感しかしない。
スイッチを押したら爆発しそうだ。
押したくない・・・
武がスイッチを押すのをどう断ろうかと考えていると、猫は「どうした?」と言った。
猫はスイッチを押してほしい。
武はスイッチを押したくない。
どうしてもスイッチを押したくない武は猫に言った。
「お前が押したらいいじゃないか?」
「そうしたいんだけど、無理だ。スイッチは人用にできているから、猫の力では奥まで押せない。」
猫はスイッチを押す力がないから、人間の武が押すしかない。
「本当に大丈夫なボタンだろうな?」
そう言った武の声は明らかに動揺している。
「大丈夫だよ。爆発はしない?」白猫のムハンマドは言った。
「爆発は?何が起こるんだよ?」
「死なないから大丈夫だって。何かが起きるけど。」
「何かって、何だよ?」
「ははー。お前怖いんだな?」猫は武を煽った。
「怖くねーよ!」
武は猫への怒りから反射的にボタンを押した。
“ごごごーー”
留置所の壁が動いて、下に降りる階段が出現した。
例えるなら、冒険者がダンジョンに入るような階段だ。
「冒険者になった気分だろ?」猫は自慢げに言った。
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