第40話 終わりよければ全てヨシ!

「芦屋川葉鳥、強盗傷害及び窃盗、詐欺、通貨偽装罪で逮捕する!」

「余罪に関しては、お仲間と一緒に署で話を聞かせて貰おうか」

「ううう……このうちが、あんな乳臭いジャリガキに負けてまうなんて」

「ほら、ちゃっちゃと歩かんかい!」


 芦屋川葉鳥は妖怪警察に捕縛され、既にやって来ていたパトカーに仲間と共に押し込まれた。梅園六花は今一度少女の姿に変化し直して、その様子を見守っていたのだ。いかな変化術にたけた鵺と言えども、雷獣たる六花の雷撃アタックはやはり効果があった。

 今は意識を取り戻して警察に憎まれ口をたたいている彼女であるが、一時的とはいえノックダウンして伸びていたのだから。未だに変化の解けた白いレッサーパンダ姿(尻尾は三本だった)というのも、まだまだ本調子ではない事の証拠であるようにも見えた。


「梅園さん……」


 何処か申し訳なさそうに呼びかけるのは、鳥塚先生だった。彼は班員の牧野に見つかってこちらにやって来たのだが、葉鳥が襲撃してきた際に、教師として生徒たちを護ろうと尽力してくれたらしい。

 それでも彼は、申し訳なさそうな表情で六花を見ていた。

 六花はだから、明るく笑い返して彼の肩を叩いた。


「悪いやつならアタシがびしっと引導を渡してやったんだ。だからさ、鳥塚先生はうじうじ考えなくって大丈夫だって。

 それはそうと、不意打ちとはいえ三尾の鵺をアタシはやっつける事が出来たんだ。嬉しいしめでたい事だと思わないかい? 祝い事って事で、月姉に連絡してお赤飯でも炊いてもらおうかな。あ、でも、月姉も鵺だから、あんまいい顔はしないよな……?」


 いつの間にか自分語りになっていたが、六花は浮かれていたので特に気にしていない。悪妖怪をとっちめた事、その相手が自分よりも格上でしかもだった事に、六花は興奮してしまっていたのだ。雷獣は鵺から分岐して誕生した種族であると言われている。そのため、雷獣の中には鵺をライバル視する者もいるのだ。六花のように。

 梅園さん。もう一度、六花は鳥塚先生に呼びかけられた。ふと思い出して視線を向けると、鳥塚先生は微妙な笑みを浮かべていた。喜んだり褒めたりして良いのか、少し戸惑って困っているような笑顔だった。


「まぁ君のマイペースな所はちと気になりはしたけれど……だけど今回は、君の腕っぷしの強さがとても役に立ったんだ。ありがとう、梅園さん」


 鳥塚先生の笑みは相変わらずぎこちなかったが、心の底から感謝している事が六花には感じ取れた。だからこそ、照れくさくなってしまったのだ。


「本当は、先生もきちんと闘えた方が良かったと後悔しているよ。米田先生だって頑張って、しかも大変な目に遭ってしまったんだから……」

「鳥塚先生に梅園さん。私なら大丈夫ですよ」


 またも困り顔になった鳥塚先生の傍に、米田先生が歩み寄って微笑んだ。葉鳥に捕まっていた時は狐の姿に戻っていたのだが、今はもう普段見せる人型に変化していた。彼女を拘束していた縛妖索ばくようさくをほどいたのは宮坂京子であり、その彼女はどさくさに紛れて米田先生の腕にしがみついている。

 京子が米田先生に恋心を抱いている事も六花は知っている。しかし今のように、ここまであからさまな態度を見せる事は珍しかった。

 米田先生も京子を振り払うでもなく、優しく微笑みかけながら肩をそっと撫でていた。その間にも京子の面に浮かぶ表情はころころと変わっていく。申し訳なさそうな表情だったのが、米田先生に微笑みかけられて無邪気な笑みを見せていたのだ。狐なのに犬の仔のようだった。


「とはいえ、私も油断していた事には変わりありません。生徒の皆様もいましたし、本気で闘って皆を怖がらせてはいけないと……そんな事を思っていたのかもしれませんわ。いえ、一時的とは言えども私も負けてしまった事には変わりありません。そこで何か言い訳をしても見苦しいだけですよね」

「米田先生! 先生は何も悪くありません」


 米田先生の腕にしがみついていた京子が、真剣な表情で言い切った。


「結局のところ、悪いのはあの芦屋川って言う悪妖怪なんですよね。米田先生は僕たち生徒の事を思って立ち向かってくださったんですから……だから悪い事なんて何も無いんです」

「そうですってば米田先生」


 六花もまた、笑みを浮かべながら京子の言葉に追従した。


「鳥塚先生にも言いましたけど、結局芦屋川のオバハンはアタシがやっつけて、それで警察とか退魔師が身柄を拘束しちゃったんすよ。だからその、米田先生は特に気に病まなくて良いんだってば」

「それに米田先生。今度は僕が米田先生をお助けする事が出来たんです。だからその……僕は……」


 宮坂京子はそう言うと、頬を赤らめながら米田先生に更にすり寄っていった。今もなお腕にしがみついているというのに、だ。この行為が何を意味しているのか、恋愛事に疎い六花でも何となく察しはついた。

 六花はだから、笑いながら京子に話しかけてやった。


「おいおい風紀委員サマよお。普段は人様に恋愛事だとかに色々口出しするのにさ、どさくさに紛れて米田先生といちゃつこうとするんじゃあねぇよ。しかも相手は先生だろ~。鳥塚先生、牧野さんたちもなんか言ってやれよう」

「あ、まぁアレはいちゃついている範疇に入らないから大丈夫じゃあないかな、梅園さん」

「米田先生はイケメン女性教師として有名だから仕方ないにゃ」

「私はむしろ宮坂君といちゃつきたいんですけど」

「ちょっと、最後の方とか何か変な意見が出てたよね。誰かなそんな事を言ったのは」


 さて、その後六花たちもまた軽く事情聴取を受けたり退魔師の面々から注意とお褒めの言葉を貰ったりしたのだが、それはまた別の話である。

 ともあれ、はからずとも波乱に満ちた校外学習と相成ったものの、その後は何事もなく平和に終わったのだ。終わりよければ全て良し、である。


           私立あやかし学園 シーズン2:嵐を呼ぶ? 校外学習 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る