パペッティア
武者走走九郎or大橋むつお
第1話『バイト最後の日』
パペッティア
001『バイト最後の日』 夏子
ダン! ダダン! ダダダン! ダン!
あちゃ~~~(=°д°=)
やってしまった。
一段だけ飛び降りて、次の瓦礫にジャンプしようと思ったら、勢いで5メートルは下りてしまった。
このテラスのようになっている瓦礫を器用にジャンプしたら、時間を稼げると思った。
稼げると言っても、ほんの十秒かそこいらなんだけどね。
「ナッツぅ、だいじょうぶぅ……?」
崖の上から気遣いの声。
今日でお別れのバイトモの幸子。最後だからって途中まで付いてきた。
幸子の配達区域は一つ手前の送電鉄塔跡のとこで曲がらなきゃいけない。それを遠回りして付いてきたのは、第一に友情。第二は、幸子にとってはバイトは小遣い稼ぎ。稼いだ分が全部自分のお金になるという気楽さ。
ちょっとしたお嬢さんなんだけど、鼻に掛けたりしない。それどころか、バイトで生活費を稼いでるわたしを尊敬的な親しみで接してくれる。
リスペクトって、されてみると、ちょっとウザイんだけど、幸子のは『ともだち』って冠が付いてるから気が楽なんだ。こないだのネット番組みたいに、健気に自活する戦災孤児的な眼差しで見られんのはイヤ。
わたしもね、性格のいい幸子を褒めたいんだけど、きっと様にならないからやらない。
「だれか、人呼んでこようか?」
「だいじょうぶ、いま、そっち行くからぁ!」
ハンドルを立て直し、前かごの新聞が無事なのを確かめる。
バイトと言っても仕事だ、商品は大事にしなきゃね。
ヨッ……ホッ……ホッ……ホッ……セイ!
我ながら器用にバランスをとり、小刻みな瞬発力で崖の上まで自転車ごと上がる。
「いつ見ても、ナッツのテクはすごいねえ……」
「すごかったら、勢いにまけて落ちたりしないよ」
「でもさ……ふつう、谷底まで落ちて死んでるよ……」
幸子につられて谷底に目を落とす。
ゾワァァァァァァァァ
「ウッ、ケツ穴がしびれるぅ」
「JKが、そんな例えしちゃあ、メだよ」
「だって、そうならない? なるよ、これはこわいよぉ」
この穴は、ここいらに有った公団住宅のど真ん中に落ちてきたナンチャラバスターって、バカげた爆弾。そいつが三つも連なって落ちてきて出来た人工の大渓谷なんだ。
ゴーーーーーー
くぐもった音に顔をあげると、200ぐらいの高さをパペットが飛んでいく。
「いいよなあ、パペットに乗れる大人は……」
「でも、事故が多いっていうよぉ……」
「たしかに、払い下げのポンコツだけどさ、効率がぜんぜん違うよぉ」
「そうねぇ……みんな好きにカスタマイズして、あれでデリバリーとかしたらラクチンだよねぇ」
パペットっていうのは、オンボードタイプの戦闘ロボット。
理不尽戦争の時に大量に作られ、半分は戦争で失われたけど、残ったのが払い下げられて建設や輸送業務に就いている。
あれに乗れればギャラはいいんだけど、18歳以上でパペッターの免許を持ってなくちゃならない。
まあ、新聞配達のバイトも今日が最後。
生活が変われば、将来の自立を目指した勉強とかもできるだろう。
16歳ってのは、そういうこと真剣に考えなきゃって年だしね。
なんたって、実の父親が見つかったんだ。
戦災孤児のJKとしては、少しは前向きにもなるさ。
たとえ、お母さんと、あたしたち兄妹を捨てた父親でもさ。拾いなおして面倒を見てくれるっていうんだ。
古典アニメのロボット少年みたいにひねこびてはいられない。
「さ、残り十件、さっさと行くかぁ」
「わたしも配達行くねぇ。明日は見送りに行くから、さっさと一人で行ったらダメですよぉ」
「「じゃあね!」」
同じ言葉をかけあって、アハハと笑いながら、ナッツは最後の配達にペダルを踏んだよ!
☆彡 主な登場人物
舵 夏子 高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
井上 幸子 夏子のバイトともだち
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます