グッド騎士

袴田一夜

第1話 ①天使も恋をする


「神父様」



早朝の教会。


朝の日差しが降り注ぎ、すがすがしい雰囲気の中で、マリアは神父と話をしていた。


彼女の金色の髪が、光にあたってまぶしい。



「天使も、誰かに恋をするのでしょうか?」



今日はマリアの結婚式。


マリアはこの国、ウェインライトの王女だ。


幼なじみ、『北の皇帝』との結婚。


緊張して落ち着かないマリアは、朝早くに城内にある聖堂に足を運んだ。


式場になるこの場所には、この世界の神...『創造の女神クレエ』の像と、四大天使の像が立っている。


マリアは四大天使の像を見上げながら、神父に質問をした。


四大天使の一人、天使長ミカエル...マリアは何故か、幼い頃からこの天使像に惹かれていた。



「ええ・・・もちろんですとも・・・」



神父は笑顔で答える。


しかし、その笑顔はどこか怪しい。


神父は言葉を続けようとしたが、突然の来訪者に邪魔されてしまう。



「姫様ーーっ」



シュヴァリエだ。


彼はこの国の将軍の一人で、マリアを護衛する側近でもある。




シュヴァリエは十七年前に、マリアの父親であるこの国の王に拾われた。


取り憑かれたように、闘技場に毎日出場している剣士だった。


圧倒的な強さで敵を倒す姿は美しく、たちまち有名になり、ついには王もその姿を見に闘技場へやってくる程。


彼は不思議なことに、過去の記憶は一切なかった。


記憶喪失だったのだ。


それが真実かどうかは、彼自身にしかわからないが、この不思議な美青年を王は気に入り、ウェインライト軍に入れた。


そして今、将軍の位にいる。


シュヴァリエという名は、王がつけたもので、本当の名前ではない。


唯一の手がかりは、ウェインライト人特有の金色の髪と青い瞳を持っていることだ。




しかし彼にはもう一つ、不思議なことがあった。


それは城にやってきてから十七年...姿が変わらないことだ。


老いることのない不思議な男を、気味悪く思う者は少なくなかった。


だが王は彼を『女神が遣わした守護天使』と信じるようになり、愛する娘を彼に守らせることにした。


そしてマリアも、幼い頃から側にいるシュヴァリエを『グッド騎士』と呼び、彼を心の底から信頼している。




「こんな所にいたんですか。探しましたよ、もう」



息をきらしながらシュヴァリエはマリアの元へ駆け寄る。



「ごめんね、シュヴァリエ。なんだか落ち着かなくって。聖堂に来たら、神父さんとすっかり話し込んじゃった・・・。あのね、今日の式を担当する神父さんよ」



マリアは謝り、そして神父を紹介した。


神父は小さくお辞儀をする。


彼はウェインライト王国の神父ではなく、マリアが結婚する『皇帝』と共に北の国からやってきた神父だった。


ワインレッドの髪と、蛇のような瞳。


見た目は20代後半で、シュヴァリエと同じくらいの年に見える。


シュヴァリエは神父を見て、あからさまに嫌な顔をした。


彼はずいぶん前からマリアに好意を抱いていて、王女に近寄る男は全て敵だと思っている。



「ただの聖職者が、姫様に気安く話しかけないでください」


「シュヴァリエ...!」



シュヴァリエの失礼な態度に、マリアは困った。



「ごめんなさい。シュヴァリエは私の側近なのですが、過保護すぎるところがあって...」



急いで謝る。


神父はシュヴァリエの顔をじっと見ていた。


怒っている様子はなく、不思議なものを見るように見つめていた。


マリアはそんな神父の様子に、何か妙な感じがしたが、当のシュヴァリエは気にもしていなかった。



「さ、早く着替えましょう姫様。時間に遅れてしまいますよ」



マリアは側近に腕を引っ張られ、聖堂から離れた。



「ねえシュヴァリエ。あの神父さんって、誰かに似てると思うのよね」



前を歩く側近に言う。



「どこにでもいますよ、あんなの」



シュヴァリエは興味無さそうに返したが、マリアはもやもやしていた。


誰かに似ている気がする...それが誰なのか、どうしても頭に浮かばない。




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