魔術師学校異聞録

霞(@tera1012)

第1話 モグラと歌姫

1-1 特殊技能生テオ

 その歌声こえを聞いたとき、彼の身体を電流が駆け抜けた。

 年端もいかない少女が歌う、呪いの歌。その甘くきしんだ声は、彼の臓腑を震わせる。

 ブレスの間の、一瞬の艶めかしさ。低く抑えたビブラート。

 この子のどこに、そんな力が。

 彼は陶酔に目を閉じる。



*************



 魔術師学校の生徒が、重傷を負い王宮の医務所に運ばれた、という報せに、王宮勤務日だった魔術師学校主任教官のケインはすぐさま医務所に駆け付けた。

 数人の医務所付きの魔術師に囲まれたベッドの上には、小柄な青年が横たわっている。状態が良くないことは一目でわかった。

 魔術師学校4年生のテオだ。


「……ひどいな。何にやられたんだ」

「分からない。かなり毒の入った傷で、相手は人間ではないだろう。ほぼ意識のない状態で、魔術師学校の運動場に現れたところを発見された。結界内に逃げ込んできたところを見ると、追われている可能性もある」


 魔術師学校は、基本的には生徒と関係者以外は入り込めない特殊結界が張り巡らされている。


「この生徒は、テオ。属性は土。探索と攻撃中和の特殊技能生だ。……多分、解毒が効きにくい」


 ケインの説明に、テオの胸に手をかざしていたやや年かさのひょろりとした魔術師が軽くうなずく。


「道理で。解毒魔術と治癒魔術をかなり入れているが、麻痺が進んでいる」


 彼の額には、汗がにじんでいる。


「一時的には、呼吸が止まるかもな。……頑張れよ、テオ!!」


 その時うっすらとテオの目が開いた。何かを必死につぶやいている。


「何だ、どうしたテオ」

「……ニーナが、……西の、森」


 西の森。いやな予感がケインの胸をよぎる。


「連れがいたのか。西の森にいるんだな」


 テオはかすかに頷くと、糸が切れるように目を閉じる。


(西の森。広すぎる)


 ケイン教官は、医務所を飛び出しながら唇をかむ。テオの傷からは、どす黒い怨念がにじみ出していた。


(悪霊か、あるいは地底の精霊。かなりの強さだ)

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