便利屋ハンドマン-Rewrite-
椎名ユシカ
第1章 蒸気機関技師編
00「プロローグ」
全ての罪が神と子と聖霊の御名において赦されていた時代。
人類は、その時代の終わりと共に長い闇へと突入した。
召喚された「災厄の魔術師」たちによって文明は幾度となく滅び、数百年の間、再興と崩壊を繰り返していた。
これに対抗するため、人類は錬金術や霊術、呪術、白魔術を学び、それらを高度に発達した蒸気機関技術と組み合わせることで、ようやく魔術師たちに一矢報いる手段を得た。
だが、神の遺物である七体の魔術師は「魔導王イヴ」によって掌握され、再び天界を滅ぼす計画が進められていた。
地上では、魔族が「聖獣化」という病に苦しみ、人族は濃密な魔力に体が適応できず「魔獣化」に陥る。次第に地表は住めない環境となり、人類は地下深くへと逃れ、やがて幾層にも及ぶ地下都市を築き上げた。
時は流れ、地下都市アンクルシティ。
「スラム」と揶揄される五番街で、蒸気機関技師アクセル・ダルク・ハンドマンは、ポンコツホムンクルスの少女と出会う──。
だが、それはまだ物語の始まりにすぎない。
数年前、アクセルはアンクルシティの壱番街から五番街までを舞台に繰り広げられるホバーバイクレースに参加していた。
テンガロンハットを被った実況者が、スピーカー越しに熱狂する観衆を煽る。
『さあ、ゴールは目前! 今回で五度目の参戦となるアクセル・ダルク・ハンドマン! この若き天才が六連覇を成し遂げるのか、それともここで敗れるのか!』
ホバーバイクを駆るアクセルは、その言葉を無線越しに聞きながら険しい表情を浮かべていた。
ゴールまで残りわずか数十メートル──だが彼のバイクは限界を迎え、浮遊装置がオーバーヒートして足止めを食らっている。
ボンッ、ボンッ──煤煙を上げるバイクの音だけが虚しく響く中、後ろから追いついてきた他の選手がアクセルを嘲笑うように通り過ぎていく。
「じゃあな、アクセル。約束通り、この優勝は俺が貰っていくぜ!」
「お好きにどうぞ。ただ、報酬だけはちゃんと受け取ったから問題ないさ」
淡々と吐き捨てるように言うアクセル。しかし、その視線の先には、既にゴールフラッグを振ろうとしているレースクイーンが立っていた。
観衆の歓声の中、アクセルはバイクを降り、ため息をつく。
その後、女性の実況者が彼の元に駆け寄り、マイクを向けた。
「アクセル選手、今のお気持ちは?」
カメラが彼を捉える。アンクルシティ全域に生中継されていると知りつつ、アクセルは眉間にしわを寄せて一言放った。
「最悪の気分だね。家に帰ったら今日の優勝者を笑いの種にしてやるよ」
そう言うと、手渡されたマイクを乱暴に地面に置き、そのまま彼は立ち去った。
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