便利屋ハンドマン-HandMan-

津名吉影

第一部 第1章 青年期 蒸気機関技師編

00「プロローグ」


 世界に現れた災厄の魔術師によって幾度か文明が滅びて数百年。人類は魔術に対抗する手段として錬金術を学び、高度に発達した蒸気機関技術と掛け合わせることで、魔術師たちに大きな打撃を与えた。


 それから数千年という月日が経つ。アンクルシティのスラムと揶揄される場所で、蒸気機関技師のアクセル・ダルク・ハンドマンは一人のホムンクルス娘に出会った。

 彼が彼女と出会う数年前、シティの壱番街から五番街までをレース会場としたホバーバイク大会が行われた。


 ウェスタン風の衣服に身を包んでいた実況者は、観戦者を煽るように実況をしている。

 

『ゴールは目前です。今大会、五度目参加のアクセル・ハンドマン。十歳にして五度のホバーバイクレースで優勝を果たした彼に、六連覇は訪れるのでしょうか!』


 アクセル・ハンドマンは、その男の実況放送を聴いていた。

 彼はオーバーヒートした浮遊装置を無理矢理に稼働させ、ゴールまで数十メートルというところで立ち往生していた。


 ゴールまで残り数メートル。

 アクセルが向けた視線の先には、ゴールフラッグを振り下ろそうとするレースクイーンの姿がある。


 ボンッボンッという音と共に、彼が乗っていたホバーバイクは排気口から煤煙を吹き上げる。

 すると、アクセルのすぐ傍まで追い付いたレース参加者は、彼を蔑むような言葉を吐き捨ててゴールへ走り去った。


「じゃあな、アクセル。約束通り、俺が優勝を貰っておくぜ」

「あっそ。依頼料は払ってもらえたから構わないよ」


 アクセルは悪態をつくように言葉を吐き捨て、走れるはずのホバーバイクをゴール直前で停め続ける。

 その間も、他のレース参加者は続々とゴールしていく。


 それから少しした後、アクセルの元に女性の実況者がマイクを持って近づいてきて、「今のお気持ちは?」と訊ねてきた。



 半切れ状態のアクセルは一呼吸置いた後、アンクルシティの全てに生放送されている状況のなか、「最悪の気分です。帰ったら優勝した奴をオカズにして三発ヌイてきます」と言い放ち、渡されたマイクを地面に投げ捨てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る