第10話、アクロ

「いい感じ」


 ヒイラギの離水に対するメグミの感想である。

 波も読めてるし、離水距離も十分短い。


「センスかしら?」

「じゃ。ハリケーンの方へ飛んで」

「高度は低めにね」


「了解です」


 低めの高度を飛ぶ。

 遠くの方に、黒い巨大な柱がある。

 所々雷が鳴っていた。

 スーパーハリケーンである。

 もう少し近づいた。


「ここらでいいわ。垂直離着水モードでホバリングして」


「はい」

 ヒイラギの操縦でホバリング状態に入った。

 時々少しふらつく。


「キャノピー開くわよ」

 手動で横向きに開ける。

 開けた瞬間、大きくふらついた。


「おっと」

 すかさず、メグミが立て直す。


「す、すいません」


「ホバリングなんてそうそうしないわよね」

 観測用の双眼鏡と、メインモニターをデータ通信用の線でつなぎながら、シ―トベルトを外す。


「メ、メグミ中尉。危ないです」


 コックピットに立ち上がって身を乗り出すように、観測を始めた。


 「だいじょぶ。だいじょぶ」

 一人の時は、片足で操縦桿を操ってホバリングさせるのだ。

 しばらくして、双眼鏡を顔から外した。


「こんなもんね。ありがと。疲れたでしょう」

 キャノピーを閉じた。


「いえいえ。まだまだ未熟ですいません」


(初々しいわね~) 


「ハリケーンがここに来るまでに大体2時間」

「”文福茶釜”まで4時間くらいかしら」

「よしっ。操縦を寄こしなさい」


「はいっ」


 操縦をメグミに渡す。

 機体が空中でぴたりと止まる。


「・・・すごい」


「お尻よ。お尻で機体の動きを感じるの」

「ふふふ」

 舌で唇を舐めた。


「シートベルトしっかり閉めなさい」


「はいっ」


 前部ジェットを吹かして機体を垂直にした。

 メインジェットの推力だけでホバリングする。


「うわわわわ」

 ヒイラギが驚きの声を上げた。


 そのままゆっくりと機体をロールさせながら上昇する。

 ある程度上昇してから宙返りして、”文福茶釜”の方に向かう。

 ”文福茶釜”の近くまで戻ってきた。


「もう少し遊んでいいかしら?」


「はいっ」


「感覚を覚えておいてね」 

 メグミは、艦の周りで、思いつく限りの空中戦闘機動ACMを行った。


「全艦に告げる。手の空いてるものは外を見ろ」


 甲板に見学のための人だかりができた。


 シャンデルやインメルマルターン、スプリットsなど一通り飛んだ後、


「やってごらんなさい」

 操縦をヒイラギに返す。


「はいっ」

 ヒイラギがしばらく飛ばした。


 時々粗さが出るが


(やはりいいセンスをしてるわね)


 甲板の上で、見学者が拍手喝采していた。


 流石にホバリングして、キャノピーを開け手を振って礼をしたのは、我ながらやりすぎだと思った。


 艦に戻った後、カオリ大尉に


「ほんとに危ない真似をして」

「心配したんですからね」

 二人そろって涙目で怒られた。


 反省はしているが、後悔はしていない。

  

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