気象観測員のメグミさん、地表の9割が海に沈んだ地球で、日々頑張っています。

touhu・kinugosi

第1話、スーパーハリケーン

「”スーパーハリケーン”が来るな~」

 

 メグミは、海面に浮かんだ”飛行艇、水無月ミナヅキ”の翼の上に立って、つぶやいた。

 

 ウェットスーツと飛行服の両方の機能を備えた、体にピッタリとしたフライトスーツ。

 約170センチの身長に、スタイルのいいしなやかな体が浮き出ていた。



 日本海軍、気象部所属、海水酸素水素分離式かいすいさんそすいそぶんりしきジェット推進式すいしんしき、飛行艇


 ”水無月ミナヅキ


 飛行艇のフロート部と本体は、流線型でなだらかに繋がる。

 翼は、機体上部から海面に斜めに降りていた。

 垂直尾翼が左右の翼に2枚。

 機首の左右にカナード翼がついている。

 

 (震電に、フロートを着けて、ジェットにした感じ)


 翼には、野営用のテントや移動用のマストを内蔵。

 整備士からは、”十徳ナイフ”のようと評される多目的飛行艇である。 


  

 視線の先には、黒い雲の柱がある。

 所々で雷も光っていた。

 

「ここまで来るのに、あと一時間くらいか。 仕方ないな」


 操縦席に戻り、気象観測基地に連絡を取る。


「こちら、ウオッチャーワン。スーパーハリケーンを発見。位置情報を送る」

「避難は難しいのででやり過ごす。 以上」


「こちらベース、了解した。幸運を祈る」

 

 コックピットに戻り、空気取り込みエアインテーク噴射口エキゾーストを閉鎖。

 シートを後ろに倒し、フロート部に海水を注入。


 静かに”水無月ミナヅキ”は、水中に沈んでいった。


「無事乗り切れますように」


 狭いコックピットに横になりながら、胸元から出した航海安全のお守りに願いを込めた。


 ”大異変”


 北極と南極の氷が溶け、地表のほとんどが海になった近未来。

 超特大台風スーパーハリケーンや、大自然の脅威と戦いながら、人類は、たくましく生き永らえていた。



 メグミは空を見上げた。

 白い雲が、空に見える。

 ”超特大台風スーパーハリケーン”が過ぎ去った後、ある理由でとてもでないが飛行艇を飛ばせない。


「電子機器が使えないな」

「しばらく様子を見るか」


 飛行艇の翼のハッチの一部を開いて、テントにした。

 竿を出してルアー釣りを始める。


 30センチ大のが釣れた。

 

 イワシのワタを抜いて串刺しにして、簡易コンロで焼く。


「レーションばっかじゃ嫌になるからな」


 突然、スコールが降り始める。

 慌ててテントに入った。

 しばらくすると雨は止んだ。

 一日待っても空の状態は良くならなかった。


「仕方ないな」

 飛行艇の真ん中に、ハンドルを回してエル字型のマストを出し、帆を張った。

 ”水無月”をヨット状態にして、基地の方向に進みだした。


「早く空に上がりたいなあ」

 メグミは一人ぼやいた。

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