第120話 新式自動小銃の開発

「これが五式自動小銃ですか。ドイツ軍のStG44を試した身ですが、とても模倣しているとは思えません」


「良くも悪くも、我ら日本人の職人気質が発揮された結果だが見事である。これでも試作品と言うのだから向上心は尽きなかったか」


「木が使われているのは…」


「資材の節約と現地で加工が容易なためらしい。この戦いで金属を使い過ぎた」


 満蒙国境の守備に当たる前線司令部では、つい最近に届いた試製自動小銃をじっくりと見定めた。赤い大国であるソ連は陸軍国家であり、苛烈なカノン砲の砲撃、スターリンのオルガン(多連装ロケット弾)、どっと押し寄せる戦車師団、短機関銃又は小銃を持って突撃してくる兵士と語り尽くせない強さを誇った。


 もちろん、暗黒の背景が存在するがここでは語らずにおきたい。


 派手な戦車戦や空中戦が行われても、結局は地上の歩兵戦が勝負を決した。歩兵同士の戦闘は携行する銃火器の性能に左右されるのは言うまでもない。ソ連軍はモシンナガン小銃(後期型)とPPSh-41又はPPSサブマシンガンを使用した。交戦距離を長距離と近距離に分けて、前者はボルトアクション式小銃、後者はサブマシンガンと設定している。


 日本軍も同様に長距離は九九式短小銃、近距離は百式機関短銃を使用した。例外的にアメリカから供与されたM1ガーランド及びM1カービンを携行する兵もいる。しかし、これは全体の中では少数派だった。なお、アメリカ供与品はセミオート射撃が可能なため、近中距離では圧倒的な火力で敵兵をすり潰す。


 しかし、戦いが末期に入るとドイツ軍は優れた技術力を以て、StG44という元祖アサルトライフルを投入した。中距離戦でセミオートライフルが撃ち負ける事態が多発する。


 StG44は連射可能なことに加えて小銃弾と拳銃弾の間に位置する『中間弾薬』の7.92mm×33mm弾を装填した。小銃には劣れど拳銃には勝る威力を有しながら反動は比較的に弱く制御しやすい。小銃の精密射撃と短機関銃の制圧射撃を両立させられた。

 まさに、現代のアサルトライフルに繋がる傑作の名銃と評して差し支えない。


 そんなStG44の鹵獲に成功して徹底的に細部まで調べ上げる。日本軍も突撃銃の威力に驚愕し機関短銃と小銃を埋める中距離用を欲した。セミオートのM1ガーランドやカービンを使い続けては国内産業が成長しない。ドイツ製StG44を参考にして開発を急いだが体格で劣る日本人のため、中間弾薬は取り回しを重視して短6.5mm弾を採用した。


「6.5mmを切り詰めた弾です。反動は弱めと聞きましたが連射し過ぎると抑えられません。余裕がある場合は3発ずつの射撃が最も好ましいと」


「StG44は7.92mm弾だったか」


「はい。切り詰められた7.92mm弾です。短6.5mmは短7.92mmに比べて威力と貫通力で劣ります。これは戦術で補うしかありません」


 6.5mm弾は三八式実包が有名であり三八式小銃と共に主力の7.7mm小銃よりも恐れられた。日本人の狙撃技術と相まって高初速・高精度の弾はドイツ兵を震え上がらせる。しかし、機関銃と共通化させる都合で7.7mmの九九式に主力を明け渡し、現在の生産数は狙撃銃向けに限られて少なかった。


 旧来の長6.5mm弾を切り詰めて装薬を減らすことにより、反動を抑えて制御を容易くしている。また、大量生産に際しては資源の節約や兵士一人当たりの携行量増加が見込めた。三八式と口径自体は一緒のため短期間の習熟訓練で慣れるが、九九式短小銃よりも有効射程が短いと不満の声が挙がる。


 短6.5mm弾を打ち出す自動小銃本体はStG44を参考にしたが、過酷な環境でも耐え得る性能が求められた。要求される性能は過酷を極めて日本単独では時間も技術も足りない。これに対して解放間もないベルギーのFN社が来日して共同開発に乗り出した。この共同開発は後のNATO標準装備FN社FAL小銃に繋がる。


「少し試射してみるか。適当に空き缶を並べて撃ってみろ」


「はっ。おい、用意を頼む」


 適当な盛り土を背に空き缶を並べて即席の的を設けた。試射のため想定交戦距離ではなく50mの近距離で一先ずは空き缶を一個ずつ撃ち抜く単発を試す。


ダン!ダン!ダン!


「この距離では必中が当たり前だが、撃ってみて、どんな調子であるか」


「確かに九九式と比べ反動が軽減されています。肩の痛みも和らいで長時間の撃ち合いに耐え得ると思いました。しかし、戦場では単発で悠長に狙っている暇は一寸たりともございません」


「やはり、自動射撃による制圧力が肝になる」


 三八式実包より弱装の6.5mmのため、肩への負担は一層に減じられた。日本軍が6.5mmを採用した理由に肩への負担軽減に伴う疲労の軽減が大きい。威力や貫徹力ばかり重視してはならないが、単発射撃の場合に限られて全自動の連射を行った場合は真逆だ。


ダダダダダダッ!


「機関銃同様に引きっ放しで全自動射撃を行える。便利と言えば便利だが」


「はい、肩への衝撃は相応です。ご覧の通りで必死に制御しても、着弾はバラバラでしょう」


「自動小銃でも軽機関銃と見るべきだな」


 弱装弾と雖も全自動射撃の反動は凄まじい。試射を行ったベテラン兵でも制御に苦しまざるを得なかった。最初期型の20発箱型弾倉を再装填しての撃ち尽くしは圧巻であるが弾痕は統制を知らない。懸命の制御により一定範囲内に収められたが、精密の文字はどこへやら消え去った。最初期の歩兵用自動小銃としては及第点を与えられる。本格的な制圧には軽機関銃を使用して市街地では短機関銃を使用するという適材適所を心がけた。


 余談だが、五式自動小銃はガス圧作動方式のショートストロークピストン式を採用している。これは部品数が多くなって作動不良を起こしやすかった。耐久性に難がある弱点を抱える。その代わり、反動に伴うブレと射手への負担が比較的に抑制されてアサルトライフルの基本形に定まった。ショートに対してロングストロークピストン式が存在する。こちらは長時間の制圧射撃が基本である各種機関銃に採用され、アサルトライフルではAK-47が有名だ。


 素材には金属と木材が見受けられるが、木材は金属の節約を重視している。生産性や耐久力を鑑みれば全金属製が好ましかった。しかし、金属は陸海空の全軍で引っ張りだこである。ここは僅かでも節約して悪い事は無く、世界各地で豊富に存在する木材で賄った。現地で木を手に入れて応急修理も可能だろう。様々なデメリットを承知で木材を入れ込んだ。


 なお、寒冷地では金属部が皮膚に張り付く恐れから安全な木が使われる。基本の金属部分はプレス加工が多用されて一定の生産性が確保された。まだ初期型の少数生産に留まるが、正規量産型は爆発的な勢いで生産される。


「弾薬が7.7mmと6.5mmに分かれて前線の補給は大変です。ここは満州工業地帯があるため迅速に送られますが、ヨーロッパ遠征となれば補給艦と輸送機は幾つ用意しても足りません」


「機関銃の弾は7.7mmでイギリス軍と融通が利き、6.5mmは三八式実包の生産設備を流用できると聞いた。それでも完全に揃うまでには暫くを要するだろう。おそらく、ソ連軍が攻め入る頃に行き渡ることはあり得ん。中国の守りは中華民国軍が主導して、彼らは装備の差を数千年の歴史で埋めた」


 戦場が中華民国の土地になる以上は中華民国軍が主導権を握った。ソ連軍の猛攻に対して数千年の歴史で培った戦術を以て対抗する。いかにソ連軍が物量攻撃を得意と雖も独ソ戦で消耗している。そして、日中連合軍へ米英が義勇軍と称して最新兵器を携えた兵士を派遣してくれた。


 十分に勝算はある。


「仮にソ連軍を撃退しても小競り合いは続く。一刻も早く自動小銃を全体に行き渡らせてほしいものだ」


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る