第105話 奇想天外!空飛ぶ戦車敵飛行場を急襲す!

 ドイツ軍のバルジ攻勢は初動こそヴァイパー軍団の快進撃に代表される連戦連勝を掲げた。しかし、連合国軍は迅速な対応を図り突出部を包囲した。北部のベルギーは一部アメリカ軍が混じるが日本軍とカナダ軍が北進を許さない。他にも、山下大将が機甲師団をケルンとボンに差し向けてライン川渡河を整えた。


 一連の動きに対し、ドイツ軍は航空戦力の一挙投入で制空権の奪取を試みた。いわゆるボーデンプラッテ作戦である。空軍は僅かな熟練兵と新鋭機を贅沢に注ぎ込んでBf-109とFw-190が連合国軍機に襲い掛かった。飛行場に留め置かれる機材を片っ端から破壊したが、高性能なP-47やP-51が迎撃に出ると返り討ちに遭う機体も多くある。


 山下大将の懸念が見事に的中すると独自に敵飛行場の無力化作戦を始動した。


 ドイツ空軍の前線飛行場は地獄を見ることに。


「敵影無し。穴が開いている箇所があるため、着陸地点を乙に変更する」


(了解)


(こちら強襲輸送一番機。全機通達の上で了解した)


 ベルギーの飛行場を発したのは日本陸軍の飛行場強襲隊だった。彼らは約15分前に友軍の爆撃を受けた敵飛行場を強襲する。ベルギーとオランダは日本とカナダの複合航空隊が制空権を死守し、定例爆撃という爆撃を繰り返した。カナダ空軍はイギリス軍のタイフーンやハリケーンを使用するが、中には臨時調達で余剰となった日本機を運用することもあり得る。


 最先鋒を飛ぶ戦車は阿吽の呼吸で一斉に突入した。


「全車突入せよ!」


 隊長が叫ぶと同時に低高度を飛行する戦車隊は高度を下げた。敵飛行場に強行着陸を敢行し成功した。今まで過酷な訓練を数え切れない程に行った成果が出た瞬間である。多少のズレは生じても一様に着陸すれば敵兵は仰天せざるを得なかった。右往左往と逃げ惑うが砲塔の連装機関銃が無慈悲に撃ち抜いた。


「予備の航空機を優先的に撃て」


(輸送機、強行着陸する!)


 戦車隊はガソリンエンジンを唸らせて重機関銃を乱射する。敵機は出払っているようだ。よって、居残りの予備機や故障機を端から端まで叩いた。航空機に装甲は無いため12.7mmの機銃弾で簡単に壊れてくれる。しかし。ガソリンは入れていなかったようで炎上しなかった。


「帝国の機甲師団ばかり見ているから、こうなるんだよ」


 飛行場を急襲したのは世にも奇妙にして奇想天外な空挺戦車である。


 大日本帝国陸軍は敵の前線飛行場を制圧する手段に空挺降下を置いた。概して、飛行場は周囲を頑強に固めても、航空機を運用する都合で内部は脆弱な事が多い。対空機銃を設置するのが精一杯でコンクリート製のトーチカは置けなかった。したがって、精鋭空挺部隊が浸透して速やかに制圧するが、降下中は無防備となり冷静に対処されると怖い。


 これに対し、車両を空挺降下させることを考案した。具体的には、敵兵に心理的な圧迫感を与え持ち前の火力で圧倒する。戦闘車両であれば機銃程度を防げる防御力を有し後続の歩兵を守れた。敵が対戦車砲を持ち出す暇もなく浸透し、歩兵と共に瞬く間に制圧する。


 しかし、車両を空挺降下させることは困難を極めた。重量がトン単位の車両をパラシュート降下させるのは不可能である。イギリス軍は妥協点として輸送機を用いる方法を採用した。輸送用大型グライダーに軽量のイギリス軍テトラーク軽戦車又はアメリカ軍M22ローカスト軽戦車を積載する。もっとも、この方法はグライダーから降りる手間を要して迅速な展開は出来なかった。


 ならば、車両をグライダーにすれば全て解決する。


「随伴歩兵が到着した!漏らさず制圧する!」


 戦車のグライダー化は木組みに羽布張りの主翼を左右に設け、且つ後方にも翼を増設している。横方向だけで20mを超える長さのため、縦列で着陸することが厳命された。翼を持った戦車は味方の前線飛行場から爆撃機又は輸送機で牽引され、敵飛行場の前で切り離されては滑空で滑り込んだ。牽引母機には陸軍の百式、四式爆撃機に加えて戦略爆撃軍の山茶花、山梔子もある。


 その車両は当初試作軽戦車を基にしたが重量が嵩むため軽装甲車にスライドした。日本の豆戦車と言うべき九九式軽装甲車に決定する。軽戦車は37mm戦車砲を持つが砲だけで200kg以上もあった。対して、軽装甲車は12.7mm機銃を有し連装に束ねても60kg程度で軽い。その代わり、装甲は15mmと薄いが被弾経始を意識して機関銃弾は耐えられた。車内には車長・機関銃手兼用の1名と操縦手の2名であり省人化という軽量化が図られる。


 その他、空挺戦車への改造で「最新型無線機に換装」・「連装12.7mm重機関銃の搭載」・「100馬力ガソリンエンジンに換装」・「車体と履帯の間にゴムを挟む」が行われた。特にゴムはタイ王国やセイロン島で産出される重要な軍需の資源である。ゴムは安定的に供給されて不足は生じなかった。これらの改造で若干の重量増加を招き総重量は6t弱となっても軽量に収まる。先述のテトラーク軽戦車が7t程度であることを鑑みれば一般的だ。


 最終的に完成した空挺戦車は四式空挺戦車『クロ』と呼ばれた。


 とは言え、戦車と見れば軽装甲と低火力に変わりない。対戦車砲や対戦車擲弾発射機を持ち出されては堪らなかった。空挺戦車の奇襲で錯乱状態に陥れても全ての兵が混乱するとは限らない。冷静にして勇敢な兵も存在するだろう。したがって、随伴歩兵を求め強襲輸送機ことムカデ輸送機が兵を吐き出した。


「敵兵は任せられたし!」


「助かる!」


 彼らは潜伏する敵兵や機関銃を操作する敵兵を狙撃してクロ車を援護する。クロは機関銃の掃射を行う都合で細かな部分まで手が届かない。案の定で勇敢な兵士は2cm四連装対空機銃に乗り込み、主翼を放棄して暴れ回る敵戦車を撃破しようと試みた。12.7mmを辛うじて受け止める軽装甲のため20mmは貫徹されかねない。


「対空砲を排除しろ!弾を絶やすと戦車がやられるぞ!」


「無反動砲用意!」


「後方安全確保ぉ!」


 飛行場と雖もドイツ本土のため割と設備は整えられた。上空からの爆撃では破壊し切れなかった設備がある。ここは軽装の空挺兵でも携行できる短四十五粍無反動砲の出番だった。弾頭は対戦車弾に限らず粘着榴弾も用意され、建物に隠れた敵兵や内部の弾薬をふっ飛ばすに丁度良い。


「てっ!」


 バックブラストの危険から後方には障害物も味方も置いてはならなかった。禁忌を犯していないか入念に確認してから手順通り発射する。精鋭空挺兵のため照準は完璧で目標へ吸い込まれた。無反動砲はパンツァーファウストの例から誰でも簡単に扱えると誤認しがちである。それは誤りだ。無反動砲は訓練を積んだ兵士なら簡単に扱えるのだ。碌に教導を受けていない市民には到底使える代物ではない。実際にドイツ市民は扱いを誤って自爆する事故が発生した。


「突撃ぃ!」


 味方車両の支援を受けられることを前提に空挺兵は突撃する。滑走路を確保しても敵兵を掃討しなければ無効化したとは言えない。ヨーロッパの戦いは平坦な地形が多く長射程の小銃が主力を務めた。しかし、この場に限って近距離戦に移行し空挺兵の機関短銃が猛威を振るう。敵軍は航空部隊向けにMP-40を配備して互角でも戦車の登場を受け、忽ち恐怖心に包まれて手に取ることも覚束なかった。空挺兵にとっては同じ規格の9mmパラベラム弾の現地調達が可能である。


 戦車が降下した時点で勝敗は決まっている。


 奇手にして奇想天外に勝機を見出した。


続く

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