第3話 中国内戦始まりし

1925年 


「コミンテルンは共産党を支持したため、遂に汪兆銘政権による北伐が始まりました」


「本当は嫌なことですが仕方ありません。社会主義の浸透を防ぐためには些か強行的にならねば」


 中華民国は不安定な状態だったため北方に共産党を名乗るソ連の傀儡が存在した。ソ連は社会主義の世界革命を標榜してコミンテルンを結成すると各地に政治工作を行っている。これを素早く察知した日本は中国を守るため中華民国に多種多様な支援を送り国力と軍事力を高めさせた。そして、同年に孫文氏が病死されると予め指名されていた後継者である汪兆銘氏が首相に就任する。汪兆銘氏は孫文氏の路線を継承して対ソを念頭に置きアジア体制の一員として戦う意思を示した。


 しかし、コミンテルンが快く思うわけがない。ソ連は大会を開いた際に極東地域から日本へ進出する旨を宣言し明確に敵対した。大会規模のためあっという間に情報は届き日本はソ連を仮想敵国とおいて中国との協力関係を一層深めるが、目の上のたん瘤と化した共産党を除去しなければならない。以前から中華民国の国民党は共産党と敵対関係とあったため表向きは中国統一を掲げて北伐と言う改善を開始した。なお、先んじて社会主義勢力の一斉検挙を行って後方の安全を確保してある。


「大藁さん、どうですか。何とかなりますか」


「中国には長い戦いの歴史があります。彼らに任せるが吉でしょう。ただ、我々も出兵しますがやることは後方の支援です。補給路を確保し続け対ゲリラを担い北伐を援護すべし。前線では武器弾薬が不足しますから国内から割安で輸出し、少なからずや疲弊した工業を復興させます。二木さんの仰った民間企業の中国工場建設も順調で汪兆銘氏のお墨付きを受け拡大を続けている。中華民国空軍向けの軍用機を納入しますので技術も蓄えられる」


「目論見通りに進んでいると」


 北伐は基本的に中華民国軍が主役だ。日本軍も一定数を義勇軍として派遣しているが補給路の維持が主な行動であり戦闘行為はあまりない。千年以上の歴史がある中国には中国の戦い方があるため、海を隔てた外様の日本が戦闘に入っても良いことは何も無かった。よって、現地軍の要請を踏まえて後方支援活動に従事するだけである。要請の中には対ゲリラもあるだろうから貴重な経験を積みたかった。


 同時に中国国内では民間の軍需工場が建設される。政府からお墨付きを得た企業が工場を置いて現地軍に武器弾薬を提供した。中国は有数の資源大国で産出される大量の資源を現地で加工して送っている。工業の発展が見込め日中で相互に成長を続けるのだ。そして、以前の会議で提案された航空機メーカーの進出も完了している。中島・川西航空機と三菱重工業が研究所を併設した工場を多数設置して英仏から招いた技術者と中国の新進気鋭とみんなで輪になって励んだ。機体丸ごとのライセンス生産から抜け出し国産機の開発が着々と進んでいる。しかし、エンジンは未だにライセンス生産を続けながら共同開発を行い半歩遅れていた。こればかりはどうしようもないが運命の開戦39年までには陸海軍共に世界と戦える機体が投入されるだろう。それまでの辛抱と思われる。


「満州にも工業地帯があり軍へ武器弾薬が潤沢に供給されていますから、補給路さえ維持できれば共産党はあっという間に潰滅すると思われます」


 中国は中華民国の他に共産党と軍閥が存在する。共産党はコミンテルンの保護を受けていたが、汪兆銘氏の政権が成立した上にソ連による対日敵対方針によって合作は破算に追い込まれた。対して、軍閥は各地に点在していたが日本の融和政策が甲を奏して内戦後は中華民国に加わり、構成国として日本の支援を受けて発展を目指していくことで合意する。したがって、共産党は完全に包囲された形であり敵を誘い込む戦術を採用しても物量によってすり潰される運命が待った。反コミンテルンの戦いは裏でイギリスが加担し、アメリカも資本主義大国を自称する以上は支援を余儀なくされている。各国の思惑が集中するが中国内戦の主役は日本に変わりなかった。


「問題はドイツの接近ですが」


「はい、こちらは既に対応済みです。武器の輸入などはありますが政治的及び軍事的な介入は阻止しました。商人間の動きも制御できており排除は容易です。ドイツの進んだ武器だけ貰っているので」


「ドイツ製の武器を得てこれを隅々まで研究し我が国の大砲とする。人が悪い二木さんだ」


「満州に侵攻される恐れがあれば手段は選べません」


 ドイツが擦り寄ってくることが実際にあったが適度に回避する。軍事顧問の派遣などは丁重に断る一方で武器の輸入は細々ながら進められた。民間の取引には介入できないが調整は可能であり高性能な武器だけ貰おうと画策する。貰ったら国内で研究してコピーするのを経て独自の兵器に昇華した。日本人の得意とするオリジナル化である。ソ連が明確に敵対した現在では少しでも多くの武器を得て備えたい。本土はともかくとして中国はモンゴル地域を挟み接する。つまり、陸軍が主役となるが問題は戦車だ。日本戦車については史実を知っている方ならば敢えて言うまでもないが、当時の国力で奮戦していたと褒めるべきである。


イギリスからはヴィッカース社、フランスからはルノー社を招いて戦闘車両の開発も進めています。前世の戦車を作るつもりはありませんが国力に沿う形で尽力させていただく」


「随分と先のノモンハンでは負けてはいけない。勝ちはせずとも撤退に引きずり込むには新型の対戦車砲と戦車が必要です。どうか、よろしくお願いする」


 日本の戦車開発はルノー社とヴィッカース社が大半を占め、国産化を図るため共同開発に移りながら継続された。まだ戦車自体が模索の段階にあるため開発自体は多岐に渡ったが終着点は考えてある。それは歩兵支援と対戦車戦闘を両立させた汎用戦車だ。各国では両種を分けて運用していたが日本の国力では多種多様な物を作ると耐えられないため一種類に統合した汎用戦車を選択する。それでは器用貧乏になりかねなかったが総合戦略研究所の陸軍は各所に余裕を設け、主砲の換装や車体流用を活かして生産性・整備性を確保しながら多様な任務に対応した。しかしながら言うは易く行うは難しであり、困難な開発となるからこそヴィッカース社とルノー社を招く。この二社以外にもFCM社やソミュア社、シュナイダー社とフランス企業が多数参加するが羽振りの良い国に靡くのは当たり前と言えた。


「海軍はどうですか。まだバレていない?」


「えぇ、先の震災で災害救援活動のため戦艦長門と試験中の陸奥に条約型の巡洋艦を敢えて目立つように使ったので」


「見せびらかすことで騙したと」


 数年前に関東大震災が起こり首都は甚大な被害を被ったが政府と軍が一致団結して国難に対応したため被害は大きくても復旧は早かった。海軍は戦艦などの艦艇を送り救援活動に従事したが、その際に各国の情報部門に主力戦艦や条約型巡洋艦を見られてしまう。しかし、それはダミーの外面で日本海軍は条約を遵守していることをアピールする宣伝だ。ひっそり隠れて条約破りの巡洋艦/駆逐艦/潜水艦/空母を建造しているが徹底的な機密保持も加わって暴かれることはない。仮に一部でも明かされた際は適当な理由付けの用意があり、中華民国海軍に輸出する用と言い訳も考えていた。


「安心しました。経済界の私が言うのも変な話ですが。あぁ、震災後の金融不安についてはキッチリ厳しく行います。世界恐慌までには地盤を固めておき、皆さんと協調して動けるようにね」


「我々軍人や政治は経済に疎くあります。経済はお任せしたい」


 総合戦略研究所は各方面の人間が集まって構成されている。したがって、餅は餅屋理論によって各員が専門とすることを分担していた。経済面の専門家も政治や軍はそれぞれに任せて自分は経済に集中する。震災後の金融不安を抑えて世界恐慌前の昭和恐慌を防ぎ、いざ世界恐慌の時にはメタを活かし素早く手を打った。ただ、時間はどう足搔いても加速されないため着実に一つずつを遂行する。


 当面は国力増強に努めるのが精一杯なのだ。


続く

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