曖昧、それでいい。

すべてが一つの流れとして繋がっていて、読み終えたときに“ああ、これは全部必要だったんだ”と気づかされる。どこが良かったかを一言で語るのは難しい。それこそがこの物語の魅力。

物語は、主人公の一人リオンが海に身を投げる衝撃的なプロローグから始まり、「どうなるんだ?」という緊張感のまま、神話の語りへと移る。この神話の完成度が高く、読み応えがある。
その後、第一章でリオンがもう一人の主人公レナートと出会い、物語が動き出す。視点は章ごとに切り替わりながら、登場人物たちの心の奥にあるものが少しずつ浮かび上がってくる。
後半は視点が一つに絞られ、登場人物の内面に深く潜っていく構成が印象的。「流れ着いた先で出会う縁」とは、海という神の導きなのだろうか。
同じ源から生まれた二人が、まったく違う環境で育ち、違う価値観を持ちながらも、どこかで「似ている」と感じる。その違いと共鳴が、夜明けの海辺で溶け合う場面の美しさ。
忘れたいのに、忘れきれない。傷つけられたのに、愛された記憶もある。その矛盾を抱えたまま、誰かに優しくなれる者の姿に、人間の複雑さと美しさを感じる。
苦しみの中でもがきながら、それでも自分の人生を生きようとする登場人物たちの姿に、作者の魂が重なって見えるのだ。

物語は広がっていく。広がりながら、同時に収束していく。

この物語には余白がある。その曖昧さは、この物語のテーマと深く結びついているのだ。
自分自身の生き方や、命との向き合い方を問うてみたくなる。優しくも力強いメッセージが込められた物語だ。
「これが俺の人生だ」と受け容れることの難しさと尊さが深く心にしみた。

これは、誰かを救う物語だ。

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約束の還る海