第8話 激闘の末に
ぼんやりとした意識の中で、いろんな声が聞こえてくる。
「とにかく村に運んで手当てをしようよ」
この声はアルだろうか? もしや、わらわを助けようとしているのか?
「また暴れ出したらどうするんだよ、村は全滅だぞ?!」
これはあの憎き女戦士の声だ。確かに、こいつの言う事も一理ある。ばかめ、わらわにはそんな力はもう残っておらんわ。
「そうなったらまた僕らで止めればいいじゃないですか」
ん、この声は誰じゃ? 男の
「無茶言わないで! もう懲り懲りだわ……」
これはあの魔女の声か。それにしてもあの攻撃は見事じゃった。ふんっ、わらわは負けたのじゃ、お前たちの好きにせい。ヴェラは再び深い眠りに落ちた。
激闘の末、
一行はデリルの宿泊していた最高級スウィートルームに人間化したヴェラを運び込んで応急手当をした後、王都からマリーを連れてきて本格的な治療を試みる。
「何で息子を拉致した相手を治療しなきゃいけないのよ!」
マリーは最初、ヴェラの手当てを拒否したが、アルの必死の説得によりしぶしぶ治療を引き受けた。かわいい息子に頼まれたら嫌とは言えないのが母親なのだ。
さすがは回復魔法のエキスパートであるマリー。外傷はほとんど目立たなくなってきていた。
「あとは意識が戻るのを待つだけなんだけど……」
デリルはヴェラの顔を
静かに寝息を立てるヴェラは、いつまでも目覚めそうになかった。
ヴェラが目覚めるのを待ちながら、久しぶりに会ったデリル、エリザ、マリーは同窓会のように盛り上がっていた。
「あんたもさ、お金の話なんて改まって言うからいけないのよ」
デリルがマリーに文句を言う。「村長がお金くれるってさ、くらいに言ってくれれば良かったのに……」
「でも、まぁ良かったわ、デリルに通帳渡せて。記帳はしてないけど、相当貯まっているはずよ」
マリーも二十年に渡る
「それにしても、よく
エリザが感心した様に言う。「あたしなら使い込みそうだけどな」
「まぁ娘三人が進学って時にはちょっと
マリーは
マリーはエリザに詰め寄る。昔からエリザを知っているだけに息子が一緒に旅をする事がどれほど危険な事かは分かる。
「いや、知らなかったんだよ、ホントに。まぁ知ってても結果は一緒か。あたしとアルは深い部分で繋がってるっていうか……バディなんだよな」
なんとなくカッコいい言葉で
「まぁこうなったからにはこれからもちゃんとアルの面倒見てよね!」
マリーは諦めたように言う。その後、真面目な顔をしてデリルとエリザに頭を深々と下げる。「デリル、エリザ。アルを助けてくれて本当にありがとう」
「ちょ、もう! それ、止めなさいよ。改まり過ぎなのよ、マリーは」
「そうだよ。あたしたちの中じゃねぇか、水くさいぞ」
デリルたちが食堂で
「アルさん、ヴェラさんはまだ目を覚まさないんですか?」
ネロはアルのためにお盆に乗せたパンやスープを持ってきていた。
「ああ、ネロくん、ありがとう。そっか、まだ夕食、食べてなかったっけ?」
アルはテーブルにお盆を置く。「相変わらず気が利くね、ネロくんは……」
アルは感心したように言った。
「何言ってるんですか、アルさんも凄かったですよ。あの巨大なヴェラに真っ向から切りつけるなんて僕には出来ません」
ネロはなりを
「いや、ネロくんがいなければ僕らは全滅していたよ」
アルは真剣な表情でネロに言った。「それに、僕の目を覚ましてくれた」
ネロは駄々をこねるアルの頬を叩いて喝を入れたのである。
「そうか、お前がわらわの見てないところで暗躍しておったのじゃな?」
突然、ヴェラが話し始めた。
「ヴェラ! 気が付いたのかい?」
アルはうれしそうにヴェラの手を取る。
「そうか。どおりで倒したはずのあ奴らが何度も立ち上がってきた訳じゃ」
ヴェラは納得したように深く
そうヴェラに言われ、困ったようにアルを見るネロ。アルは黙って頷いた。
「僕が見てるから、エリザたちを呼んできてよ」
アルがそう言ったのでネロはデリルたちを呼びに行くため、部屋を後にした。
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