第6話 村長の出迎え

「よし、しっかり食べたし、いよいよアルを助けに行くぞ!」


 エリザは気合十分といった面持ちでデリルたちに言う。

 

「準備は万全よ。ほら、竜殺しの剣と不知火しらぬいのマント」


 デリルはテーブルの上に二つの品を並べた。

 

「あれ? この竜殺しの剣、ちょっと小さくないか?」


 エリザはフィッツが使っていた竜殺しの剣を思い出して言う。

 

「そうなの、ち方が酷くて元通りには戻せなかったのよ」


「しかし、これで本当に臥竜に歯が立つのか?」


 エリザはそう言って竜殺しの剣を手に取る。エリザが持つとまるでナイフのように小さく見える。

 

「アルくんが使うにはちょうど良いと思うわ」


 渋っていたドワーフに一回り小さくなっても良いから修復して欲しいと頼んだのはアルが小柄だったからである。「名工が鍛え上げたから状態は完璧よ」

 

「ふーん、これがねぇ……」


 エリザは試しにさやから剣を抜いてみた。美しいその刀身は神々こうごうしさを兼ね備え、無造作に抜いたエリザをにらみ付けるようにぎらりと光った。エリザは慌てて剣を鞘の中に戻した。「なるほどな、確かにすげぇ代物しろものだ」

 

 二十年前、フィッツが使っていた時よりもさらにまされた竜殺しの剣。これなら流石さすが臥竜がりゅうも無傷ではいられまい。

 

「そしてこの不知火のマント。これも凄いのよ」


 デリルは綺麗に折りたたんだマントを広げながら言う。「炎による攻撃はほぼ無効にするの。私の全力魔法さえ退けてくれたわ」

 

「そりゃすげぇな! よし、これでかなり有利に戦えそうだな」


 エリザは深く頷く。「あたしも村の武器屋で盾を買ったんだ」

 

 そう言って立てかけてあった頑丈そうな盾を指差す。村の武器屋には大した品は無かったが、温泉村として有名なこの村には王都や工業の盛んな都市との繋がりがあり、お取り寄せをする事が出来たのだ。

 装甲が厚く、かなり重そうだが、エリザは問題なく扱えるようである。

 

「僕は補助魔法でサポートします」


 ネロは以前とは比べ物にならない強い眼差まなざしで言った。

 

「へぇ、あの貧弱だったネロが、随分たくましくなったじゃねぇか」


 エリザはテーブルの向こう側から身を乗り出してネロの頭を大きな手で撫でた。

 

「さてと、それじゃあそろそろ行きましょうか」


 デリルはゆっくり立ち上がる。「絶対、アルくんを助け出すわよ!」


 いざ、臥竜山へ! と、意気込んでいる三人のもとに村長がやってきた。朝、村の者から報告を受けて急いでやってきたようである。

 

「エリザどの、とうとう行かれるのじゃな?」


 村長はエリザと一緒にいる二人を見る。屈強くっきょうなエリザとは別のタイプの巨熟女きょじゅくじょとひ弱そうな少年である。「救助隊はどこに待機されているのかな?」

 

 村長はあたりを見回す。臥竜討伐のメンバーである。屈強な兵士を大量投入しなければ勝ち目はないだろう。かなりの犠牲者が出そうだが……。

 

「これで全員だぞ」


 エリザは当たり前のように言う。「烏合うごうしゅうが何人いても足手纏あしでまといだし、な」

 

「しかし、あまりにも頼りないメンバーでは?」


 村長が不安そうに言う。

 

「こいつの名前はデリルって言うんだ」


 エリザが言うと、村長が一瞬ほうけたような顔をする。デリル、デリル、はて、どこかで聞いた事のある名前ではあるが、どこで聞いたかな……。

 ちょっと間があって、村長がはっとした顔をする。

 

「デリルってまさか、この村の救世主であらせられる、あのデリル様!?」


 まるで大昔の時代劇のようにその場にひれ伏す村長。

 

「や、ちょっと、やめてよ。恥ずかしいから!」


 デリルに言われ、遠慮がちに立ち上がる村長。

 

「大変失礼いたしました。確かにデリル様がいらっしゃれば安心ですな」


 村長は納得したように言う。「ではその少年もかなりの手練れで?」

 

「ああ、こいつはデリルの弟子だ」


「ネロです」


 ネロは村長に頭を下げる。

 

「ネロさんですか。ほほう、弓をお使いになられるのですな」


 村長が背中に背負った弓を見て言う。

 

「ええ。昨日、エルフの弓使いに貰ったんです」


 ネロはそう言って嬉しそうに弓を手にとって村長に見せた。

 

「ネロくんってば凄いんだから。昨日始めたとは思えないわ」


 デリルが言うと、村長だけではなくエリザまでもが驚いた。

 

「おい、デリル。昨日始めたばっかりのガキがあたしにあんな事したのか?」


 エリザは昨日、ネロに弓で脅されたのである。「危ないじゃないか! 目にでも刺さったらどうするつもりだ!」

 

 エリザが言うと、きょとんとした顔でネロが言う。

 

「なんで頬をかすめるように撃った矢が目に刺さるんですか?」


 まるで理解できないといった様子である。

 

「手元が狂う事だってあるだろ? それにあたしが動いたらどうするんだ?」


 エリザがさとすように言うが、

 

「弓の天才、ネロくんにはそんな常識は通用しないわ」


 迫り来る巨大な守護者のコアを正確に射抜いたり、木の上にいたエルフの弓のつるだけを切ったり、信じられないような光景を目の当たりにしているデリルは、エリザの肩に手を置いて微笑みながら首を横に振った。

 

「まぁいいや。とにかく出発だ!」


 エリザはそう言って背中に大きな盾を背負った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る