第7話 聖都、そして大聖堂へ
謎の声によって転送された聖都は想像を絶するほど大きな都市であった。デリルとネロは思わず絶句して入口に佇んでしまった。
「先ほどは失礼しました。私は聖都の入口を管理するマーガレットと申します」
緑色の髪の毛のエルフがおずおずとデリルとネロの前に現われる。
「私は魔女のデリル、この子は弟子のネロくんよ」
デリルがマーガレットに自己紹介しているとデリルの顔の横を何かが通り抜けて行った。どうやら何者かがデリルに矢を放ったようである。
「先生、気持ちは分かりますが押さえて下さい。僕が何とかします」
顔を真っ赤にしているデリルのお尻を優しく撫でて心を落ち着かせるネロ。辺りを見回して矢を放った相手を探し出す。「あ、あそこですね」
ネロはすっと弓を取り出し、矢をセットしたと思うとすぐにピュッと矢を射る。
「ぐわっ!!」
木の上からエルフが落ちてくる。
「そんな、狙いもしないで……」
マーガレットが恐怖に
「僕らは争いは好みません。落ち着いて話を聞いてくれませんか?」
「何を言ってるのよ! あんた今、あいつを射抜いたじゃない!」
マーガレットが落ちてきたエルフを指差して言う。
「え? 射抜いた? 僕がですか?」
ネロが不思議そうに落ちてきたエルフの方を見る。「弓の
どうやら弾けた弦が顔に当たって、驚いて木から落ちたらしい。矢を放ったエルフは恥ずかしそうにむくりと起き上がると、深々と頭を下げて立ち去って行った。
「そんな、あの一瞬で弓の弦だけを切るなんて……」
「ネロくんは弓矢が上手なんだから」
なぜかデリルがドヤ顔でマーガレットに言う。ネロにお尻を撫でてもらってすっかりご機嫌が直ったらしい。そもそもネロの補助魔法のお陰で矢なんて絶対に当たらないのである。
「重ね重ね失礼しました。お話を伺います」
マーガレットはそう言って街の入口の傍にある聖都にしては小さめの屋敷の中に案内する。どうやらマーガレットの自宅兼見張り小屋のようである。
応接室に通された二人は、ソファに座ってマーガレットと対峙する。
「僕たちは聖女様に会いにきました」
ネロはそう言って、これまでの経緯を
「……なるほど。話は分かりました。アルさんというお仲間を助け出すために
マーガレットはうんうんと頷きながら言う。「聖女様に会いたいという事情はよく分かりました。ただ……」
マーガレットは困ったような顔をして二人を見る。
「どうしたの? まさか人間だから会えないって言うんじゃないわよね?」
デリルは首元の妖精の首飾りを摘んでチラチラと振る。ドワーフにも信頼されている、そんじょそこらの人間じゃないのよというアピールである。
「いえ、お二人に問題がある訳じゃありません」
マーガレットは言いにくそうな顔をする。「実は十年以上、聖女様は公の場に姿を現さず、声だけで私たちに指示を出されているのです」
「まぁ、どうしてそんな事に?」
「それが全く分からないのです。大聖堂を訪れる者たちだけでなく、近しい者たちにもお姿をお見せにならなくなったのです」
「それじゃ、僕たちが行っても……」
「おそらく会って貰えないと思います」
マーガレットは残念そうに言った。「どちらにしても、お二人の事情を説明して謁見の申し出だけはしてみましょう。しかし、期待はしないで下さい」
デリルとネロは顔を見合わせた。まさか聖女様が引き
「明日の朝と言いたいところですがお急ぎでしょうから、すぐに手続きを取りましょう。大聖堂の担当者にお取次ぎします」
マーガレットの家から真っ直ぐに伸びた道を歩いて行くと、聖都で一番大きな建造物、大聖堂が現われた。重厚感のある石作りの建造物で、二百年以上の歴史を感じる。大聖堂の入口には
「聖都出入り管理責任者のマーガレットです。こちらの二人に聖女様への
マーガレットが社務所内のシスターに言うと、シスターは不思議そうな顔をする。
「その二人は人間では? あなた、知ってますよね? 聖女様は現在、我々ハイエルフにすら姿をお見せにならないんですよ?」
「分かってます。ただ、このお二人にも事情があるんです。お目にかかれなくても、お話だけでもさせてあげられませんか?」
シスターたちは渋っていたが、あまりにもマーガレットが熱心に言うので最後には根負けして、
「分かりました。では、聖女様の執務室の前室で話をして貰いましょう」
と言って、許可証を発行した。マーガレットはそれを持ってそのままデリルたちを連れて大聖堂の奥の執務室まで歩いていく。
「それじゃ、頑張って下さいね」
マーガレットは扉の前でデリルとネロに別れを告げる。どうやら案内はここまでのようだ。扉を開けて入ると、そこが前室になっており、奥にある扉の前には近衛兵と思われる白い鎧に身を包んだ男が二人並んで立っていた。
鉄仮面に包まれて表情は見えないが、明らかに人間がやってきた事に戸惑いを隠せない様子で、かなり警戒しているようである。
「そこで止まれ。お前たちはそこから近づいてはならん」
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