第五章 エルフの聖女様

第1話 エルフとの接触

 妖精の女王ミアから妖精探知機を譲り受けたデリルとネロ。この探知機をもちいればエルフの居場所も一目瞭然である。

 

 二人は、探知機を頼りに最寄の集落を目指した。デリルとネロの住む鬱蒼うっそうい茂る森から二十キロ離れた森に数人のエルフの反応があった。

 

「この森ですね。入ってみましょう」


 ネロは無警戒に森に足を踏み入れた。

 

「ネ、ネロくん、大丈夫なの? 相手は人間嫌いなエルフなのよ」


 デリルは珍しく警戒しながら歩いている。何しろ妖精の村の外れでは、エルフに後頭部を殴打おうだされたのだ。まぁ、あれはダークエルフだったが。

 

 チュン!

 

 突然、風を切る音が聞こえたと思うと、ネロのすぐそばの木の幹に矢が深々と突き立てられた。

 

「ほら、言わんこっちゃない!」


 デリルは身体を低くして周囲を見回す。

 

「んっ? ああ、大丈夫ですよ。飛び道具なんて当たりません」


 ネロは平気な顔をしてそう言った。「幻影魔法を使ってますから」

 

 笑顔でネロが言っている間にも次々と矢が飛んでくる。しかし、どの矢も全くネロにかすりもしなかった。

 

「え? ああ、そうなの?」


 デリルは自分の巨尻の影に隠れて震えていた頃のネロを思い出し、変われば変わるもんだわと、頼もしくも少し寂しいような気持ちになった。

 

「先生にもかけてありますから心配しないで良いですよ」


 いつの間にかデリルにも幻影魔法がかけられていたらしい。デリルはすくっと立ち上がった。目の前に矢が飛んできたが確かにデリルに届く前に逸れていく。

 

「それにしても鬱陶うっとうしいですね」


 ネロは執拗しつように飛んでくる矢を見てため息を吐いた。ネロは遠目の魔法と探知機を利用して相手の位置を確認する。

 

(いい加減にしないとこっちも反撃しますよ!)


 ネロは疎通の魔法で発見したエルフに警告する。警告されたエルフが化け物を見るような目でネロを見る。どうやら伝わっているようだ。

 

(お前らは何者だ。ここがエルフの集落と知って踏み込んでくるのか?)


 エルフも疎通の魔法で返してくる。

 

(僕たちはエルフの魔道具を探してます。この人の首元を見て下さい)


 ネロがそう伝えると、エルフはデリルの胸元に光る妖精の首飾りに気付く。

 

(なんで人間がそれを持ってるんだ? まさか、ドワーフを虐殺ぎゃくさつして奪ったんじゃないだろうな?)


 どうやらここのエルフたちはよほど人間にしいたげられてきたらしい。

 

(集落の長ヴォルフさんから預りました。話を聞いてくれませんか?)


 ネロに敵意が無い事が分かると、エルフは他のエルフたちに攻撃を止めるよう指示を出した。木の上から数人のアーチャーが飛び降りて来る。

 

「あら、こんなにいたの?」


 デリルは突然出てきたエルフたちを見て目を丸くした。

 

「おい、そこの太ったおば……」


 エルフが言いかけると慌ててネロが疎通の魔法を飛ばす。

 

(この人は魔王を討伐したメンバーの一人で、伝説級の魔女です。口の利き方には気を付けて下さいね)


 エルフはそれが聞こえた後、デリルの方を見る。そこには凍りついた微笑みをたたえ、右手にバチバチと雷球らいきゅうを作り出した魔女が立っていた。

 

しつけが必要かしら?」


 デリルが手をかざすとエルフは脂汗を浮かべ、

 

「豊満でお美しいお姉様! ようこそ、エルフの集落へ!」


 両手を広げて引きった笑顔でデリルにびた。

 

(他の人たちにもちゃんと伝えておいて下さいね)


 ネロが念を押すと、エルフは黙ってうなずいた。

 

 

 

 手荒い歓迎だったが、ネロの疎通の魔法により、なんとか事無きを得た。なお、デリルの正体はこの集落のエルフ全体に周知され、無礼な口を利くものはいなくなっていた。

 

「私がこの集落のアーチャー部隊長ヴァイオレットだ」


 ネロが疎通の魔法で対話したエルフである。名前の通り赤紫の髪をしている。長身で痩せ型、典型的なエルフの青年であった。


 デリルに失言をしたのは部隊の若手、ジャンである。緑色の髪の毛で、血気盛んな顔つきをしている。


「私は魔女のデリル、この子が弟子のネロくんよ」


 デリルはいつも通りに自己紹介をする。

 

「さっきも伝えたとおり、僕たちはエルフの魔道具を探しています」


 ネロが言うとデリルが不思議そうに、

 

「あら、ネロくん。それは今初めて言うんじゃない?」


 と言った。

 

「え、ええ、言うのは初めてです」


 ネロは困ったように笑った。「それで、魔道具はここにありますか?」

 

「実はここは集落とは言っても、ほとんどアーチャーばかりの集落でね」


 ヴァイオレットが申し訳無さそうに言う。「魔道具というのは知らないな」

 

「そうですか……」


 ネロは落胆した。急いでいるのに、空振りか……。

 

「私は知らないが、博士なら知ってるかもしれないな」


「「博士?!」」


 デリルとネロが口を揃えて言う。

 

「博士はこの森にある古い遺跡を調査するために来たんだ」


 ヴァイオレットが言う。「我々はその護衛をしているんだよ」

 

 遺跡を調査しているような博士なら古い魔道具について知っていてもおかしくはない。少なくとも手がかりぐらいにはなりそうだ。

 

 デリルとネロは一縷いちるの望みをその博士に託すのだった。

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