底辺VTuberから始める異世界剣神伝説~クソ雑魚高校生VTuber、異世界では最強の剣神と勘違いされ、現代日本でも最強の存在と勘違いされ世界を救う戦いに身を投じることになる~

@kenseineet

第1話 勘違いから始まる伝説の幕開け

  一人の少年が自分の部屋の椅子に座りながらマイクやヘッドホンなどの機材を頭から外しため息をついた。


「――はぁ~……今日も配信終わりっと……しっかし全然登録者数増えないな……」


 ボサボサの黒髪を両手で強引に掻き毟りながら目の前のパソコンの画面に映る動画サイトのチャンネル登録者数を見て少年は天を仰ぐ。


(……この業界に入って一年経つってのにこの数字……ちょっとヤバイよなぁ……)


 そう思いながら少年がパソコンを操作すると黒い悪魔のような鎧を着た銀髪で赤目のアバターが画面に表示される。その凛々しい美形を見ながら少年は横に表示されたアバターのプロフィール欄を読み上げた。


「――アバター名ブレイドラース。異世界からやってきた黒騎士。身長185センチ。体重75キロ。強く頼りになりそうな見た目に反して実は弱く戦力にはならないが、勘違いされるお笑いキャラ。現在現代日本に召喚され動画投稿サイトboutubeにてゲームなどの実況配信を行っている……か……」


 少年はそれを読み上げた後、さらに深いため息をつく。


(……俺――剣崎 剣之介がコイツに命を吹き込む仕事――VTuberになって一年経つって言うのになんでうまくいかないんだろうか……アレか、トークが糞過ぎるんだろうか……それとも動画の投稿回数が少ないのが原因だろうか……つっても高校通いながら配信すんのって結構大変なんだよなぁ……)


 眉間にシワを寄せていた剣之介だったが、ベッドに放り投げてあったスマホが鳴ったことで意識を現実世界に戻す。


(あー……たぶん事務所のマネージャーからだなぁ……登録者数が増えない事の小言かなんかだろうなきっと……このままじゃクビになんのかなぁ……そこんとこいまいちよくわかってないけど……もしクビになったらもっと大手のVTuber事務所のオーディション受けてみるか? つっても倍率ヤバそうだよなぁ……今所属してる弱小事務所ですらやっとこさ入れたっていうのに……でもまったくサポートしてくんないし……これじゃ個人でやってんのと変わんなくね……)

 

 椅子から立ち上がりベッドからスマホを拾い上げると渋々画面に表示された文字を読み上げ、剣之介は怪訝そうに首を傾げる。


(……メールだな。おかしいな、マネージャーだったらluinを使ってメッセージ送るだろうし……っつーか誰からのメールだこれ……送り主の名前が文字化けして読めない……なんだコレ……バグかなんかか……)


 メールを開いて見るとそこには奇妙な内容が書かれていた。


『お前の目の前には二つの道がある。一つは妥協と安寧の道。もう一つは危険と栄光の道。どちらを選ぶかによってお前の運命は大きく変わる。前者を選ぶ場合はこのメールを削除せよ。後者を選ぶ場合は後者を選ぶと念じろ。そして後者を選んだ場合はとあるゲームに参加してもらう。そのゲームをクリアした暁にはお前を世界一のVTuberにしてやろう』


「……マジでなんだこれ……イタズラメールとかか? ……にしても世界一のVTuberねぇ……なれるもんならなってみたい……超人気VTuberってやつに……」


 剣之介は思い出そうとした、なぜVTuberになろうと思ったのかを。


(――そう、俺は超人気VTuberになってクラスの奴らが俺の演じるアバターの実況に盛り上がり、その最中さりげなく俺がそのアバターの声真似をして『アレ? 剣崎君とこのVTuberの声似てね?』となり『え、嘘、剣崎君がこのVTuberの正体だったの!?』的な展開になってクラスの連中の注目を浴びるというやつをやりたかった……だというのに俺の演じるブレイドラースは超ド底辺VTuber……仮にブレイドラースの中の人が俺だったとバレたとしてもクラスの連中はおそらく『は? ブレイドラース? 誰それうんこ行ってくる』とか『ブレイドラース? 悪い鼻くそほじるのに夢中で聞いてなかった誰それ』とか失礼なことしか言わないだろう……)


 剣之介はそう思いながら再び画面に意識を集中させ呟く。


「――もしそれで本当に世界一のVTuberになれるなら俺は――後者を選ぶ」


 念じながら呟き数十秒が経過した時点で剣之介は大きくうなだれる。


「……何やってんだ俺は。ま、どうせイタズラメールだし、何も起こらなくて当然だよな。仕方ない、なんか動画がバズるようなやり方を自力で考えてみるかぁ」   


 決意表明を口に出した剣之介だったが、突然襲った異変に気付く。


 「あ、れ……目の前がぐらぐら……して……」


 立ちくらみがすると同時に倒れるようにベッドへ横になる剣之介の意識は深い闇の中に呑み込まれていった。

 

 ベッドで眠りに落ちた剣之介だったがやがて眼を覚ます。だがそこはいつも目覚める部屋では無かった。


「……なんだ、ここは……」

 

 体を起こし立ち上がると、そこは真っ白な空間だった。天井も壁も無くどこまでも続く真っ白な部屋の中で呆然と立ち尽くす剣之介だったが、突然目の前に光の玉が発生する。


「――うわぁッ!?」

 

 そうして驚き後ろへ飛び退く剣之介の脳内で男性と思しき威厳に満ちた声が響く。どうやら光の玉が声の発生源のようだ。


『――よく来たな。剣太郎よ』


「……いや……俺の名前、剣之介なんだけど……」


『細かいことは気にするな、剣次郎』


「剣之介だっつってんだろ!? つーかアンタ誰だよッ!?」


『よくぞ聞いてくれた。心して聞くがよい、我は――神だ』 


「……神ぃ……? ……なんか嘘くさいんだけど……つーかそれが仮に本当の事だとしても神様が俺に何の用なんだよ……っていうかここはどこなんだよ……」


 疑わし気に光球を見つめていると、自称神はやれやれと言った様子で剣之介に話し始める。


『説明するのがちと面倒だがまあ聞け。ここは我が作り出した特殊な空間だ。お前は我が出したメールを読み、それに応えたであろう? だからこうしてここに呼び出したのだ』


「メール……? ……あ……メールってもしかしてあのおかしなイタズラメールの事か!?」


『イタズラメールとは心外だ。あれはれっきとした我との契約書なのだぞ。そしてお前は我と契約を交わしあるゲームをやることになったのだ』


「……ああ……そういえばそんなこと書いてあったな……ってかそのゲームっていったいなんなんだよ」


『うむ、そのゲームとはズバリとある世界を救うという内容のゲームだ。世界の名はアルティメデス。お前にはそのアルティメデスに行き滅びの運命を変えてもらいたい。簡単に言えばアレだ、今ネットで流行りの異世界転移というやつだ』


「神様がネット小説の流行りなんて知ってるのかよ……でも今の流行りはなんか別ジャンルだったような気がしたけど……まあいいや、けどいきなりそんなこと言われても俺学校とか動画の配信とか色々予定があるんだけど……」


『安心せよ。お前がアルティメデスに行っている間、お前が元居た世界の時間は止めておく。そのうえお前の身体は日本に残ったままだ。お前には別の肉体を用意するするゆえ、それを使って世界の救済を行ってもらいたい』


「別の肉体……?」


 首を傾げる剣之介の左側の空間に突然緑色の光が満ちると、光はやがて人型となり見知った肉体が作り出され思わず驚いてしまう。眼を閉じた状態であったため瞳の色までは確認できなかったものの、銀色の髪に整った顔、悪魔のような黒い鎧を着こんだその男性騎士には見覚えがあった。


「これって……ブレイドラースだよな……」


『そうだ。お前が声を入れているアバター、ブレイドラースを生身の肉体として再構成した。これにお前の魂を入れアルティメデスに行ってもらう。だがアルティメデスにて10日を経過した後は、元居た世界の肉体に魂が戻れるよう手配しよう。お前が元居た世界にいる間は今度は逆にアルティメデスの方の時間を止めておく。そして元の世界にて10日経過したら再びアルティメデスにいるブレイドラースの肉体に戻ってもらう。そうやって十日おきに二つの世界を行き来してもらいたいのだ。さらにお前には神の剣と呼ばれる最高の装備を十三本渡す。それらは一本でも世界を滅ぼすことが可能な剣でな、それらがあれば世界救済も容易いであろう。どうだ、これなら文句あるまい?』


「……その言葉を信じるなら確かに至れり尽くせりだな……けどなんか待遇良すぎてちょっと怪しく感じるんだけど……なんでここまでしてくれるんだ……?」


『そうだな、説明しておくか。今まで我は様々な人間を様々な異世界に転移させたり、転生させてきた。それはもうお前の知らない所で多くの英雄が生まれ世界を救済してきたのだ。我も常にそれを見届けて来たのだが……一つ重大な問題が発生した』


「重大な問題……?」


『そう、重大な問題だ。それは我が――』


 神の重々しい声音に引きずられるようにしてシリアスな顔になった剣之介は生唾を呑み込んだ。そしてついに言葉が紡がれる――。


『――飽きたのだ』


「……は……?」


『だから普通の異世界転移やら転生に飽きたのだ。ゆえに一風変わった趣向で今回は世界の救済を行おうと思った。そしてついに思いついたのだ、今回は底辺VTuberを活躍させる感じの英雄譚にしようとな。だが試験的な試みゆえある程度の譲歩は必要だと思い、お前にとって有利な条件にしたというわけだな』


「…………」

 

 今度こそ絶句した剣之介は呆れたような目で自称神を見つめる。


『……なんだそのゴミを見るような目は。不敬だぞ剣三郎』


「剣之介だよ!? ってかつまりアンタがつまんないから俺を玩具にして英雄譚を作ろうってことだろうが! そんなふざけた理由で優遇されたってアンタに尊敬の眼差しなんか送れるわけないだろう! つーかそんな思いつきのなんちゃって企画に参加する気すらおきねーし!」


『ほう、みすみす自らが成り上がる機会を逃そうというのか? お前は超人気VTuberになりたいのではなかったのか? だからこそ我の誘いに乗ったのでは?』


「うぐ……それは……」


『アルティメデスを救済すればお前の望みは叶うだろう。そのうえ元の世界に戻るたびにお前の活躍に応じて褒美も用意する』


「褒美ってなんだよ……」


『それは戻って来てのお楽しみというやつだ。それにここへ来た時点でお前に拒否権などないのだ。契約メールにも書いてあったであろう?』


「は? 拒否権はないとかそんなのどこにも書いてなかったけど……」


『いやいや書いてあったはずだ。よく見てみるがいい』


 そう言うと自称神は球体の中から剣之介のスマホを取り出し空中に出現させるとメールの文面を見せつけてくる。しかしどこにもそれらしい文面は見当たらなかった。


「……やっぱどこにも書いてないじゃん」


『仕方のない奴だな。もっとよく見てみろ、下の方だ』 


 神が言う下の方の空欄をよく見てみると非常に小さな点のような文字がびっしりと載っていた。


『どれ、拡大して見やすくしてやろう』


 すると突然文字が大きくなり、様々な注意点や違約罰などが大量に書かれた文字が出現する。その中に一度引き受けた場合は拒否できないなどの事項も書かれており、剣之介は思わず吹き出す。


「汚ねえッ! なんだこの詐欺師みたいなやり口は!」


『失礼な。キチンと読まないお前が悪いのだ』


「だから読めねえよこんな小さな字! 顕微鏡でも使わない限り無理だから!」


『ええい、文句を言うでない! これはもはや決定事項なのだ、ワハハ! さあ、ブレイドラースの中へ入るがいい!』


「ちょ、うわあッ!?」


 自称神がそう言うと剣之介の肉体が光り輝き、眩い光が止んだ瞬間、自身の肉体――すなわち剣崎 剣之介の体が白い床に倒れ伏す光景が眼に入ったのだった。それが意味することは――。


「お、俺の身体が倒れてる……ってことは……マジかよ……」


 自身の着ている黒い鎧やいつもと違う目線の高さ、サラサラの銀髪を撫でまわすことで確認を終えた剣之介は愕然とする。


『そう、お前は今我が作り上げたブレイドラースの肉体の中に魂を入れられている状態だ。よし、それでは次に神剣をお前に授けよう。いでよ、至高にして究極の十三本よ!』


 自称神の叫びと共に現れた十三本の美しい剣が剣之介もといブレイドラースの肉体に吸い込まれる。


「うわッ!? 剣が体の中に入って来たんだけど!?」


『案ずるな。十三本の剣はお前の魂と融合したのだ。お前が出でよ、と念じればいつでも取り出すことが出来るだろう。それぞれの剣の特性については現地で確認するとよいぞ。ではさっそくお前をアルティメデスへと送る』


 自称神の言葉が発せられた瞬間、ブレイドラースの立っている白い床に巨大な魔法陣が現れ光りはじめる。


「お、おい、ちょっと、まだ色々と聞きたいことがあるんだけど!?」


『大丈夫だ、恐れることはない。お前ならばあらゆる困難を神剣で切り開くことが出来るだろう、ケンシロウよ』


「その名前の人だったらどんな困難もなんとか神拳でなんとかするだろうけど、俺の名前は剣之介なんだよ!?」


『よしよし。わかったわかった。さあ、旅立ちの時だ。せいぜい我を楽しませ――ではなかった、ゲホン、ゲホン。世界を救ってきてくれ。先ほども言ったが十日おきに元の世界と行ったり来たりすることになると思うが、くれぐれも頼むぞ』


「だからちょっと待っ――」


 ブレイドラースの制止の言葉が最後まで放たれることなくその肉体は消失したのだった。



 そうしてブレイドラースは異世界アルティメデスへとやってきたのだが――問題は出現した場所だった。ゆえに叫ぶ――。


「あんのクソ神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 送る場所をちゃんと考えやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ――遥かなる大空から落下しながら。


「ヤバイヤバイヤバイこのままじゃ物語が始まる前に死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!! どうにかしないと――は、そうだ! 神剣だったっけ! なんでもいいから出てきて俺を助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」

 

 高速で落下しながらそう言うとブレイドラースの右手から眩い光が発生し美しい純白の剣が出現する。そして握られた剣は主の望みを叶えるかのように白い光を放ちその体を光の繭で包み始める。そうこうしている間に落下の速度が最高速に達しやがて地上に激突する。その結果、地上は白い光のエネルギーが爆発し地面に巨大なクレーターを作ったのだった。その大穴の中央にて一人の男がゲッソリとした顔で剣を支えに立ち上がる。


「……な……なんとか助かった……ま、マジで死ぬかと思った……つーか耳がキーンとしてるんだけど……さっきの衝撃で鼓膜に異常でも起きたのか……」


 ブレイドラースはガクガクと足を震わせながら命がある喜びを噛みしめていたが、耳に若干の異常を感じていた。自身の鼓膜が大丈夫か心配するも、それを邪魔する者が一人いた。巨大なクレーターの上から一人の少女が見下ろしていたのだ。その茶色い眼は驚きによって大きく見開かれており、時が止まったかのように硬直していたが正気を取り戻したのか動き出すと穴の下へと飛び降りた。


 そしてその腰まで届く黒髪をなびかせながら一目散にブレイドラースのもとへと向かって来た後、三メートルほどの距離で立ち止まる。少女が近づいて来た結果わかったことだが、少女は刀の様な武器を帯刀しており、そのうえ傷を負っていた。その着込んだ赤い鎧や白い肌、端正な顔には無数の切り傷が存在したのだ。


(……なんだこの子……めちゃくちゃ傷だらけなんだけど……大丈夫なのか……というかもしかしてさっきの落下の衝撃波で怪我させちゃった的なアレなんだろうか……でもそれにしては様子がおかしいような……なんだこのキラキラした眼差しは……俺のせいで怪我したんならもっと怒ったような目で見てくると思うんだけど……)


 まるで夢見る少女のような瞳で見つめられたブレイドラースは若干たじろぐも、少女の方はそんな様子に気づくことは無くおずおずと口を開く。


「――すみません、突然の無礼を承知でお聞きしたいのですが……貴方は……もしや……予言書に記されし伝説の剣の神にして――世界を救うため舞い降りた救世主様であらせられますか……?」


「……はい……?」


 こうして奇妙な少女との出会いと最初の勘違いから伝説は始まったのだった。

 


 

 ――


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