セピア色の夏

あのね!

第1話⁂謎の男⁂



(ああ……あの男の眼差し……どこかで……?どこかで……?嗚呼…思い出す事が出来ない?)

 

 この物語の主人公である荒田恵は、思いも寄らない事件に巻き込まれて行く事になる。


 


 荒田恵は、北陸の雄石川県金沢市に生を受けた現在社会人一年生の二十三歳。

 両親と妹夏美の四人家族で、極々平凡などこにでも転がっている仲良し家族だ。


 そして…大学卒業と同時に、大手「武中薬品工業北陸支店」に勤務している。


 仕事は「医薬品」という理系の専門知識を必要とする仕事だけに、やりがいはあるが、思った以上にハードだ。その為ストレスは半端ない。

 

 そのストレス解消の為に、今は書道教室に通っているのだが、幼い頃は親に手を引かれイヤイヤ通っていたものだ。まぁそれでも…時の流れとはおかしなもので、最近は仕事の憂さ晴らしの一つ息抜きの場所となっていた。


 そして…最近では腕前もメキメキ上達して、すっかり欲が出て師範を取得したいと思っている。そこで親しくなった友達弥生とはかれこれ一年の付き合いだが、良き友で良きライバルだ。


 弥生は家族の事はあまり話したがらないが、何でも…父親は会社の社長さんらしく、持っているバッグや時計、着ている服も全てが、ブランド品で統一されている。更には…人柄も明るくて社交的な誰からも愛されるキャラである。


 だが…そんな極々平凡な人生に暗雲が立ち込める事となる。

 

 ◆▽◆

 ある日の日曜日の事である。

 久しぶりに書道教室の友達四人と待ち合わせをして、ランチを楽しむ事になった。

 

 そして…その日は弥生が家まで車で迎えに来てくれたので、一緒に郊外のフレンチレストランに向かった。

 高級フレンチ〈オ・シャトー〉は、郊外の人里離れた場所にあるお城をイメ-ジした外観の、お洒落な知る人ぞ知る有名店である。


 急カ-ブを曲がった高台にある何ともお洒落なお店で、久しぶりの四人そろってのランチに、胸の高鳴りを抑えられない二人は、話に花を咲かせながら車を走らせていた。


 こんな人里離れた、猫の子一匹いないような場所なのだが、もう直ぐそのお店

〈オ・シャトー〉に着く寸前の場所で若い男性とすれ違った。


 その若い男はかなり慌てている様子で、その急カーブをまるで転げ落ちる様な勢いで走り去って行った。

(こんな人っ子ひとり通らない様な急カ-ブで物騒な?)そう思いながら二人は一路車を走らせて、やっとの事お店に到着した。


 そして…駐車場に車を止めてお店に入ろうと思ったのだが、よくよく見ると奥の方に友達麗香の車が有るではないか?


「駐車場といっても、麗香も寄りによってあんな遠い場所に車を止めるなんて……」


「それから…いつも遅刻の常習犯なのに、30分も前にやって来るなんて?」


「本当に変よね?いつもだったらぐるぐる回って近い場所を選ぶのに……」


「チョット見て来ましょう?」


「そうね?」



「キャ———————ッ!」


 麗香は後部座席で首から血を流し、血まみれになり倒れていた。


「キャ—!だっ誰か———ッ!救急車!救急車を!」

 

 救急車が到着して懸命の応急処置が施されている。

 そして…救急車は一路病院に向かった。

 だが、懸命の治療もむなしく麗香は亡くなってしまった。


 ◆▽◆

 あの時高台の〈オ・シャトー〉に着く寸前の森の中を、まるで転げ落ちる勢いで逃げて行ったあの男。


 だが…恵は一瞬……どこかで会った事が有る。

 不思議な事だが、微かに記憶の片隅に残るあの異様な眼差し。

(どこで会ったのだろうか?)


 遠い過去に……あれは……確か……母と出掛けた……?






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る