第15話 特訓開始
一度村に戻りルナを連れてきた俺は、ルナとシアの二人に「
これを付ければ俺と自動的に同じパーティになる。そうなれば経験値も共有されるので俺がモンスターを倒してもシアとルナが強くなるってわけだ。
「問題は何を倒してレベルを上げるか、だな」
全開は
出来ればこっちの世界にいるモンスターを使いたい。
「ダイル様。でしたらオークを相手にするのはいかがでしょうか? 村の方たちもきっと喜びます」
シアが耳打ちしてくる。
こっそり言ったのはルナに聞かれないようにだろう。もしルナが聞いたらそれをする以外の選択肢がなくなってしまう、あくまで俺に選択権を委ねるために耳打ちしたのだ。
本当に頭の回る子だ……。
「いや、それは後回しだ。オークは私が倒すよりも、強くした白狼族が倒してもらう。私が倒しては私に頼り切りになってしまうかもしれないからな」
それに彼らが自信を持つことにも通じる。
「なるほど……分かりました。じゃあルナちゃんに聞きましょうか、この周辺の森には詳しいですし」
「ああ、そうだな」
シアとのこそこそ話をやめ、ルナに「この森に強いモンスターはいるか?」と尋ねる。
ルナはしばらく考え込んだあと、口を開く。
「森の西には危ないモンスターがいると聞いたことがある。どんなのかは知らないけど」
「ほう、それはいい。さっそく行ってみるとしよう」
俺たちはそのモンスターを求めて森の奥に足を踏み入れるのだった。
◇ ◇ ◇
鬱蒼とした森の中を進むこと約三十分。
ルナは突然立ち止まって俺の方を見る。
「……大人が入るなと言ってるのはここらへん」
「そうか。案内ご苦労だったな」
確かにこの場所はなんとなく不気味に感じる。
それになんか嫌な視線のようなものも感じている。この世界に来たての頃はそういうのを察せなかったけど、この世界に慣れてきたのかそういうのも察知できるようになってきた。
「……来る」
ヒュッ! という風切り音とともに、何かがこちらに飛んでくる。
速いけど、目で負えないほどではない。俺は落ち着いてこちらに飛んでくるそれを手でバシッとキャッチする。
「これは……木か?」
掴んだのは木の根っこのようなものだった。
ただ普通の木とは違い、これはうにょうにょと手の中で
『ギギギギ……』
すると森の奥からぞろぞろと何かがやってくる。
それは木のモンスターであった。確かトレントという名前だ、
木の根っこを足のようにして動くモンスターで、木のくせに肉食な変わり者だ。足として使っている根っこをムチのように使い獲物を取る習性だったな。
「強さはどれくらいだ?
魔法でレベルを測定すると、35と表示された。
普通の大人がレベル7くらいだから、一般人からしたらとても太刀打ちできない強さだ。
それくらいレベルがあれば経験値もそこそこもらえるかな? 数も十体くらいはいるし結構稼げそうだ。
『ギ、ギギギィ!』
一体のトレントが根っこを伸ばして攻撃してくる。
狙いは俺……じゃなくて俺の後ろにいるシアとルナだ。どうやら弱いものから狙うという頭は持っているみたいだ。
「させるか。
光り輝く防壁が俺の正面を囲むように出現し、根の攻撃を阻む。
この壁には聖属性を持っている。壁にあたった根はそれによって逆にダメージを受け先端が焦げ付いてしまう。
「トレントには物理攻撃は効果が薄かったな。わざわざ弱点をつくまでもないとは思うが、ここはひとつ、派手にやらせてもらおう」
攻撃対象を前方広範囲に指定。
過剰火力だとは思うが、一気に殲滅させてやろう。
「極位魔法、天焦がす
何もない空の一点が焦げ付き、そこから白い炎が降り注ぐ。
極位魔法『天焦がす
聖属性と火属性を併せ持つ炎で広範囲を焼き尽くす強力な魔法だ。発動から効果を発揮するため一対一ではあまり役に立たないが、ギルド戦などで拠点を攻める時には結構役に立つ。
この魔法でPK《プレイヤーキラー》ギルドを焼き尽くしたのは一度や二度じゃない
「……ふう、すっきりしたな」
時間にしておよそ十秒。眼の前の森は一瞬にして焦土になってしまった。
当然トレントたちは全員死んでおり、消し炭すら残っていない。素材が少しもったいない気もするけど、まあトレントの素材なんて城にたくさん貯蔵してあるからいいか。
極位魔法の試運転ができたと思えば全然いい。
「さて、レベルをチェックするか……ん?」
シアとルナのレベルを見ようと振り返ると、二人が俯いてぷるぷると震えていた。
あー……まだ子どもな二人には刺激が強すぎたか。あんな大規模な魔法見たことないし怖かっただろう。失敗したな。
「大丈夫か二人と――――」
「すごかったです! さすがダイル様! あんなきれいな炎、初めて見ました!」
「ほ、本当にすごかった。私も感動した……!」
シアとルナが興奮した様子で詰め寄ってくる。
まさかの反応だ。この世界の子どもはこういうのに耐性があるのか? この二人が特殊なだけの気もするけど……まあ今はいいか。
テンションが上っている二人は置いておき、俺は魔法『
「レベルはちゃんと上がっているな。だけど……」
想像していた程ではなかった。
シアが10でルナが12。二人ともたしかに強くなっているけど、レベル35のトレントを十体くらい倒したにしては上昇量が少ない。
「考えられるとしたら経験値テーブル、か」
人間や獣人は必要経験値が少ないが、天使や悪魔、竜人などの種族はレベル上げにかかる必要経験値量がかなり多かった。
そういった種族ごとの必要経験値量を、俗に『経験値テーブル』と呼ぶのだ。
こっちの世界の生き物の経験値テーブルは、必要経験値量がかなり高めに設定されているのかもしれない。だとすれば……かなり面倒だ。いったい何体のモンスターを狩ればいいのやら。
ここが
「どうしたものか……」
途方に暮れてしまう。
何かいい解決策はないものか。手軽に経験値を取れる方法……なにか……。
「あ」
俺はあることを思い出す。
そうだ、あれの存在をすっかり忘れていた。
「確かアイテムボックスの中に入れっぱなしで……あった!」
それは金属でできた『腕輪』だった。早速それを取り出して、シアとルナに一個づつ手渡す。
「ダイル様、これはなんでしょうか?」
「この腕輪の名前は『ブーストリング』。二人を強くする最終兵器だ」
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