第13話 武勇伝

 村長との話を終えた俺は、家を出る。

 日も少し傾いてきたな。今日はもうゆっくりして明日から取り掛かるとしよう。


「さてシアたちはどこにいるかな?」


 村の中を歩きながら二人を探す。

 ……ん? なんかやけに視線を感じるな。

確かに村に来たときも視線はたくさん感じた。だけどその時に感じた視線とは少し違う感じがする。あの時は警戒、敵意が強く感じたけど、今のこれはそれほど嫌な感じはしない。


 それどころか尊敬の念すら感じることがある。いったいどうなっているんだ?


「――――とその時、ダイル様は悪党を一刀両断! 見事捕まっていた人たちを助け出したのです!」


 なにやら聞き馴染みのある声が耳に入る。

 そちらに向かってみると、そこではシアが大勢の獣人に向かってお喋り、いやこれは演説か? をしていた。


「……何やってんだこれは」


 嫌な予感をビンビンに感じながら近づく。

 シアが話していたのは俺が盗賊たちを倒した時の話だった。どのようにして盗賊と戦ったなどはシアに話していないので、おそらくルナから聞いたんだろう。


 シアの語り方はかなり熱が入っていて、俺も思わず聞き入ってしまうほどだった。

 娯楽に飢えている獣人たちはかなり熱心に聞き入っており、シアが熱く語るたび「おおっ」やら「うおー!」など騒いでいる。


 もしかしてさっきの視線はこれが原因か?

 こんな語りを聞いたら俺に物語の登場人物のような憧れを抱いてしまう可能性がある。ていうか実際抱かれているだろう、もう。


 どうしてもんかと頭を抱えていると、


「――――こうして人々を苦しめた悪しき盗賊たちは無事成敗されたのでした。そこにいらっしゃるダイル様の手によって!」

「え」


 聞き入っていた獣人たちの目が一斉に俺の方を向く。

 そして彼らは一気に俺に押し寄せてくる。


「あんた凄かったんだな! 尊敬したよ!」

「あくしゅ、あくしゅして!」

「いったいどこの王様なんだい!? 教えてくれよ!」

「ちょ、いったん、おちつ、け」


 獣人達にもみくちゃにされる俺。

 結局開放され自由になったのは日がすっかり暮れてからだった。



◇ ◇ ◇



「……ふう、さすがに疲れたな」


 夜。

俺たちはルナが普段住んでいる小屋に泊まっていた。

 小さな小屋なので三人で寝るには狭いが、まあたまにはこういうのも味があっていい。


 ちなみにルナの両親はもう亡くなっているらしい。なので一人で森をぶらついていることが多く、そこを運悪く盗賊に見つかり捕まってしまったようだ。


「さて、そろそろ聞かせてもらおうかシア。なんであんなことをしてたんだ?」


 俺は一仕事やりきったみたいな顔をしているシアに詰め寄る。

 おかげで大変な目にあった。さすがに文句の一つでもいいたい気持ちだ。


「もちろんダイル様の素晴らしさをこの村の皆さんにお伝えしていたのですよ。ダイル様は警戒心を取れとおっしゃられました。でしたらルナちゃんと仲のいいところを見せるよりも、ダイル様の武勇伝をお聞かせしたほうが早く、効果も高いと考えました」

「……なるほど」


 確かに警戒心を解いてくれと言った。

 だがそれは方便で俺としてはシアとルナにリラックスしてほしかったんだけどな。


「ルナも暇だったんじゃないか?」

「ううん。シアの話、面白かった。もっと聞きたいくらい」

「さいですか……」


 思ったより楽しんでいたみたいだ。

 余計なことをしてくれたという気持ちもあるが、実際シアの行動のおかげで獣人たちに好かれたのも事実だ。


 厄介そうな余所者から一気にヒーローみたいな扱いになったからな。シアの手腕は恐ろしい。

 そんな彼女を叱ったもんかどうしようか悩んでいると、突然シアはしゅんとした顔になり瞳をうるませ始める。


「……もしかして余計なことをしてしまったでしょうか? 申し訳ありません……」


 今にも泣き出しそうな声でシアは言う。

 ちょ、まさかこうなるなんて予想外だ。急いで慰めないと!


「そ、そんなことはないぞシア! いやあこんなすごい策、私には思いつかない。こんな優秀な者がいてくれて私は幸せだなあ!」

「……本当にそう思いますか?」

「ああ! もちろんだとも!」


 必至にそうなだめると、シアは「よかったあ」と笑顔を取り戻す。

 ふう……なんとかなった。


「えと、それでダイル様。村長様とのお話し合いはどうなったのですか?」

「ああ。オークの件か。それが思ったより深刻そうでな、早めに決着をつけたほうが良さそうだ。二人には明日の朝から早速動いてほしいんだけど……大丈夫か?」


 そう尋ねると、シアとルナは迷うことなくコクリと頷く。


「もちろんです。なんでも申し付け下さい」

「わ、わたしも頑張る」

「ありがとう二人とも。頼りにしているぞ」


 二人の頼もしい味方とともに、俺は床につくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る