白銀城はニ度輝く ~巨大浮遊城アジトごと転移した廃人プレイヤーは、異世界でも正義職ビルドを貫くようです~
熊乃げん骨
第一章 舞い降りた光
第1話 かつての栄光
俺の大切な思い出は、全てゲームの中にあった。
小学生の頃、俺は不登校になった。友人は一人もおらず、外に出ることもなくなった。
理由はあまり覚えていない。
いじめられたとかまあ、そんなようなよくある理由だったと思う。
中学生の年頃まではい親も心配してくれた。
だがかつての同級生たちが高校生になる頃には親も俺を見限り、話しかけてくることもなくなた。
そんな俺が心を壊すことなく大人になれたのは間違いなくゲームのおかげだ。
総アカウント数八千万を超える化け物級ゲームだ。
現実と見紛う美しいグラフィック。
ゲームをプレイしているとは思えない没入感。
素晴らしい歴史設定と心躍る王道ファンタジー感。
そして何より……心許せる頼もしい
俺はこのゲームに青春……いや、人生を捧げた。
初めて
本当に、本当に楽しかった。
仲間と共に強敵を倒したり、この装備が強いだの弱いだの議論したり、他のギルドと戦争したり、思い出は数えきれないほどある。
全ギルド統一戦で優勝し、全てのギルドの頂点に立った時のことなんか今でも夢に出て泣いてしまうほどの感動だった。
そう、俺たちのギルド『
最強
「スタビライザー正常化はこれでOK。次は反重力装置の修理か……これの素材足りてたっけなあ」
俺は目の前に浮かぶ
今俺がいるのは所属ギルド『白銀騎士団』の拠点、『
白銀城は普通の城とは違い、空中を浮遊し移動できるいわゆる『浮遊城塞』ってやつだ。
ファンタジーな物がそこら中に存在する
この城があるだけで俺たちのギルドは空を支配していると言っても過言じゃない。
空を制することの利点はこれ以上細かく説明するまでもないだろう。
しかしそんな最強の拠点であるこの城にも欠点はある。
それは『維持コスト』だ。
白銀城は浮遊しているだけでエネルギーと素材をガリガリと消費する。
その中には希少な鉱石なども存在し、それを集めて補給するのはかなり骨が折れる。
おまけに稼働しっぱなしだと装置が破損し始める。それを修理するにも素材が必要なので常に物資を貯め続けなければならない。
ギルドメンバーが人全員いた頃はみんなで素材集めを回し、全然余裕があった。しかし、
「今は俺一人しかない。この作業を一人でこなすのは流石にこたえるな……」
十三人いた白銀騎士団は、今や俺一人しか残っていない。
他のメンバーたちはもうこの
「永遠に続くものなんてない、そう分かっていたはずなんだけどな」
ギルド全盛期。
俺たちは最強で最高だった。望むこと全てが達成でき、不可能などないと思っていた。
そしてその時間が永遠に続くものだと思っていた。でもそれは大きな間違いだった。
「……ん?」
それをタップしてみると、なんと白銀城の中に他のプレイヤーがいると情報が出てきた。
「侵入者は二人、場所は庭園か。この人数だと喧嘩を売りに来たってわけでもないよな?」
この白銀城は十個のギルドの連合軍を全滅させたことがある不落城。今はあの頃より弱体化しているとはいえ、二人で喧嘩を売るなんて考えられない。
「ていうか何で侵入されるまで気づかなかったんだ? 防衛装置は何をして……ってエネルギーが切れててオフになってるじゃないか。クソ、自業自得か」
悪態を吐きながら庭園に向かう。
何をしに来たのかは知らないが、友好的だろうが敵対的だろうが最大限もてなすのが
俺は白銀に輝く
この鎧と剣は数え切れないほどのアイテムがある
高性能な代わりに入手条件はかなり厳しい。このゲームで騎士職をやっている物なら誰もが涎を垂らして欲しがる一品だ。
「……あいつらか」
庭園に出た俺は、二人のプレイヤーを見つける。
装備は大したことはないな。店売りか簡単なクエストをクリアすれば手に入れられる物ばかりで、高レアな装備は身につけていない。
「見せてもらうぞ。
魔法を発動し、相手の情報を覗き見る。
このゲームでは戦う前にいかに情報を集めるかが勝敗を決める。相手の方がいい装備を持っていたとしても、その情報を知っていれば勝つ方法はいくらでもある。
「レベルは……どちらも80程度か。まだ
このゲームは二百時間も遊べばレベル上限の100に届く。
もちろんそこで終わりじゃなくて、
レベル100から
つまり目の前のこいつらは二百時間もプレイしていないガチ初心者。
そんな奴らに白銀城の石畳を踏まれるなんて……屈辱だ。悲しくてやり切れない気持ちになる。
「……とはいえいつまでも落ち込んではいられないな。迷い込んだなら丁重に帰ってもらって、悪意があって侵入したなら消えてもらおう」
俺は念のため魔法をいくつか発動してから彼らの前に姿を現す。
すると二人のプレイヤーは一丁前に武器を構え、その刃を俺に向ける。
「お、お前は誰だ!
「違う。私はプレイヤーだ」
そう言うと二人の侵入者はホッとしたように武器を握る手を緩める。
「えっと、あんたがこの城を持ってるギルドの人……ってことでいいんだよな?」
「ああ、その通りだ。それより君たちはこの城になんの用かな? 招待状を出した覚えはないのだが」
そう言うと二人のプレイヤーはぶるっと体を震わせる。
白銀騎士団は『悪しきを挫き、弱きを助ける』が信条の自警団的ギルドだ。何の理由もなく他プレイヤーを襲う行為、いわゆる
だがその決まりも、相手が侵入者なら話は別。
仲間との思い出が残ったここを
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺たちはたまたま飛んでる城を見かけて、ダンジョンかと思って飛んできただけなんだ! ギルドを襲うつもりはない!」
「そ、そうそう!
俺は「ああ、全然構わないよ」と許す。
事実彼らが白銀城を落としにやってきたプレイヤーには見えなかった。
本当にたまたま、エネルギー切れで
本物のプレイヤーと初心者じゃ動きからして違う。もし偽装して初心者っぽく振る舞ってるならたいしたものだ。
「魔力が回復するまでちょっと聞いてもいいか?」
「……ああ、いいとも」
初心者には優しく振る舞え、それが今はいない元ギルドリーダー、あるかぷさんの口癖だった。
俺もその信念には共感していた。ゲームを始めてすぐ理不尽な目にあうのはかなり心に来る。
ゲームや
「この城、凄いよな。やっぱり動かすには色々大変なんだろ?」
「まあ……それなりにな」
「でもその割には人が見えないよな。中にいっぱいいるのか?」
「いや、この城は私一人で回している。他に人はいない」
そう言うと、プレイヤーは口を薄く開きほのかに笑う。
欲をかいた人間が見せる、汚い笑みだ。俺はこの顔をゲームでも現実でも見たことがある。
「そうか、ここにはあんたしかいないのか。それはなんとも……不用心だな!」
プレイヤーの一人がそう言って手にした剣で俺の腹を
そしてすかさずもう一人のプレイヤーも「
「悪いな、あんたに恨みはないがこの城にある物は貰う」
「こんなすごい物、一人で持つには過ぎた代物だろ?」
そう言って二人のプレイヤーは倒れた俺の
……本当におめでたい奴らだ。
「そんなお粗末な攻撃で私を倒せると思っているのなら心外だな。せっかく生きて返そうと思っていたというのに……」
そう言って姿を現すと、二人のプレイヤーは目を見開き驚く。
「な、なんで……」
「上位魔法・
正直彼らの攻撃が俺の防具を突破しダメージを与えることは出来ないと思う。
しかし1%でもその確率があるのならば用心するに越したことはない。そうやって白銀騎士団を俺たちは大きくしたのだから。
「この――――っ!」
剣を持ったプレイヤーが再び剣を持って俺の方に駆けてくる。
どうやら剣以外にまともな攻撃手段がないみたいだ。俺は向かってくるそいつに狙いをつけ、指をパチンと鳴らしながら魔法を発動する。
「
金属を擦るような音と共に、向かってきたそいつの両足が切断される。
地面に転がったそいつは状況が理解できないみたいで必死にない足で立とうとするがもちろん上手くいかない。
「なんで
確かに『
しかし防具の切れ目、縫合部などの防御が薄いところを狙って放てば、充分な威力を持っている。
強い防具を装備して慢心するなど四流プレイヤーのやることだ。
まあもっとも魔法の狙いをそんな小さな的に絞ることが出来るのは、
「おい! 助けてくれ!」
「待ってろ今回復を――――」
俺はもう一度指を鳴らし、「
仲間を回復させようとしていた方のプレイヤーの
「みぷっ」
声にならない声をあげ、首が地面を転がる。
首が落ちれば当然体力は強制的にゼロになる。首なしのプレイヤーの体は光の粒子となって消えてしまう。残ったのはそいつがつけていた装備の一部。あまりレア度の高い物はないだろうがいただくとしよう。
「う、うう……」
足が切断された方のプレイヤーは地面を転がりながら
魔法による回復がないから、
「がっ!?」
痛そうに顔を歪める
このゲームに痛覚を再現する機能はないが、ダメージを受けると独特の不快感に襲われる。それプラス部位が欠損するところを視認すると不快感はかなり増す。中には痛みを感じると言う人もいるくらいだ。
俺は転がるそのプレイヤーを手で掴んで持ち上げる。そして庭園の端っこまで歩き、その体を城の外に出す。
この城は空を飛ぶ浮遊城だ、このまま手を離せば数百メートル下の地面まで真っ逆さまに落ちる。
「お、おい! ここから落とすくらいだったら普通にキルしてくれ!」
「それじゃあ恐怖が足りない。簡単に逃したらまた狙いにくるだろう?」
「や、やめ――――」
手をパッと離し、侵入者を下に落とす。
ゲームに搭載された重力エンジンに従いプレイヤーは落下し、あっという間に見えなくなった。下が湖とかならある程度落下ダメージは軽減されるが、さすがにこの高さだと軽減しても耐え切れないだろう。
「さて。悪は倒したことだし戻るか」
その途中、俺は侵入者二人が落としたアイテムを拾う。
推測した通りどのアイテムも大した物じゃなかったけど、一種類だけ俺の知らないアイテムがあった。
「なんだこれは?」
それは『ブーストリング』という腕輪だった。
説明文には『初心者特典! レベルブースト(特大)効果があるよ!』と書かれている。
「今の初心者はこんな物が貰えるのか。ていうかこのアイテムの経験値ブースト率、高すぎるな。これならレベル100にするのに百時間かからないぞ」
さっき倒した二人組も、もしかしたらゲームを開始して二十時間くらいだったのかもしれない。
そんな奴らに侵入されたと思うとゲッソリする。
「こんな壊れアイテムを初心者全員に配るなんて、このゲームも潮時なのかもな……」
でも確実にプレイ人口は減りつつある。どんな神ゲーも永遠には続かないんだ。
「少し休むか……」
白銀城の中心部、円卓室に足を運ぶ。
その部屋には円卓の騎士をモチーフにしたかっこいい円卓が置かれている。
円卓には十三個の椅子が置かれているが、その内の十二個は空席。この先誰かが座ることはないだろう。
「…………」
静寂が円卓室を支配する。
最強のギルドと謳われた『白銀騎士団』。
その終わりは唐突だった。
白銀騎士団の結成を決め、俺たちを引っ張ってくれた
誰にも何も言わず。ただ『王ダイルに団長を譲る』とメッセージだけ残していなくなった。
ちなみに『王ダイル』というのは俺のプレイヤーネームだ。
この名前に深い意味はない。このゲームの前にやっていたモンスター育成ゲームに出てくるモンスターの名前をもじっただけだ。
「あるかぷさん、ヌゥさん、李積さん、ハロゲン……」
目を閉じればあの時の光景をすぐに思い出せる。
俺のキラキラ輝く青春。
だけのあの時にはもう戻れない。いくら頑張って城を維持しても仲間が帰ってくることはない。そんなことは分かっている。
それでも俺はこの城を見捨てることは出来なかった。
仲間との思い出が残るこの城がなくなったら。本当に俺には何もなくなってしまうから。
「でも、少し疲れたな……」
呟いて俺は目を閉じる。
すると俺は少し寝てしまい、ビビーというアラート音で目を覚ました。
「なんだ……?」
目を覚まして
するとそこには『行動範囲外に出ようとしています』と表示されていた。
すぐに
「巡回モードが切れてたのか! くそっ、舵が壊れている……」
普段白銀城は決まったルートをぐるぐると回っている。
しかし進行方向を変える『舵』がいつの間にか壊れてしまっていた。そのせいで城はひたすらまっすぐに進み……寝ている間にこのゲームのマップ端にまで来てしまっていた。
かつて何人ものプレイヤーがその先に何かないかと探検に行ったが、マップ端の海には強力な
そして長時間空を飛べる物はこの白銀城を除いてゲームに存在しない。つまりこの城のみがマップ外にいけるのだ。
「……そういえば昔、この城で外に行こうって話題になったな」
あの時は大変だったな。
外に行きたい派と、危険だから反対派に分かれて激しい議論が繰り広げられた。
行ってみたい気持ちはみんなあった。外に行けばもしかしたら外に行った者だけが受けられるシークレットクエストみたいなものが受けられるかもしれない。隠しマップが用意されている可能性もある。
しかしもしそんなものがなくて、ただただ白銀城が沈むことになったら?
そうしたら目も当てられない。この城が
結局この話題は一旦保留になって、それから程なくしてあるかぷさんが消えた。
だからそんな議論をしてたこともすっかり忘れていた。
「……最後に答え合わせをするのも、いいかもしれないな」
今から大急ぎで舵を直して引き返すことも、もしかしたら出来るかもしれない。
だけどそれをする元気は俺に残ってなかった。
日々の作業で精神が摩耗して、さっきの侵入事件で心が折れてしまった。
最後にあの時の答え合わせをして、終わりにしよう。俺はそう決めた。
「
ぐうん、と音がして城が加速する。最後にこんな速度で走らせたのはいつ以来だろうな。最近は省エネの為に最低速度で動かしていたから。
「今まで悪かったな……最後くらい全力で動かしてやるからな」
最後まで残ってくれた
速度上昇による負荷でで壁が軋むが気にしない。最後にもう一度……この城を輝かせるんだ。
「行け、行け……!」
舵が壊れ、エンジンは暴走し、壁がいくつか壊れているらしい。でもそれらを全て無視する。
すると最後に特大の
【
「ん? なんだこの表記は」
ゲーム外ってなんのことだ。マップ外の間違いじゃないのか?
ゲームの外といったら現実世界くらいしかない。強制ログアウトになるってことか?
まあそれならそれで構わない。俺は迷わず答える。
「もちろん。YESだ」
そう答えると、数秒おいて
「まあいいか。表記ミスかなんかだろう」
そもそもここまで来たプレイヤーがいないだろうから、ミスがあっても誰も気づかない。
「さて、最後の瞬間はこの目で見るとしよう」
俺は立ち上がり城を出て庭園に行く。
眼前に広がるのはどこまでも広がる海。その上を白銀城は高速で飛行している。
このままマップ外に出たら強制的に海に沈められるのか、それとも死亡扱いになるのか。それとも隠しエリアに行けるのか。どうなるとしてもこの目で見てみたい。
「……ん?」
海風を気持ちよく浴びていると、再び
何事かと
「そんなもの目には見えない……つまりシステム上の壁ってことか。それに当たれば強制ログアウトってところか。思ったよりつまらない結末だな」
ただ死を待つのもつまらない。
俺は
すると城の真ん中が開き、そこから巨大な砲塔が姿を現す。
これこそ白銀城の最終兵器『
「なにかあった時にと一発分だけ弾を残していて正解だったな。最後に大きい花火を上げるとしよう」
俺は迷わず
すると砲口が青く輝き出し、耳をつん裂くような高音が鳴り響く。
「最後の光景をみんなと見れないのが心残りだな」
まるで星空を凝縮したかのような光り輝く光線が、見えない壁に衝突し激しい火花と音を発生させる。
分かっている。こんなことをしても意味はないと。
でも悔しいじゃないか。システムだからしょうがないと諦めたくはない。
俺たちの友情の結晶であるこの城はどんな困難でも乗り越えられると証明したかった。
「……ん?」
違和感を感じて目を凝らす。
光線が激突している空間に、ヒビが割れているような気がした。
そんなわけない、システムに干渉出来るはずがない。しかし俺の胸は大きく高鳴った。
「行け! 白銀城! 全速前進だ!」
大きくなる空間のヒビと軋み崩れ始める城。
光線の反動と前進するスピードにより体は揺れ立っているのも困難になる。
「いけえええええっ!」
俺と白銀城はシステムの壁に激突する。
その瞬間とてつもない衝撃と視界を白く塗りつぶす閃光が場を支配して――――俺の意識はブツリと途切れた。
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――――――――――――――
――――――――――――
――――――――――
――――――――
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「……んあ?」
ゆっくりと俺は意識を覚醒させる。
いったいどれくらい意識を失っていたのだろうか。頭がズキズキと痛む。
なんとか目を開くと……そこには見覚えのない森が広がっていた。
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