希望を求めて切り裂いてⅧ

 生まれて初めて視界に入ったのは何だったかと、フォシスは思い出す。


 自分と同じように培養液の中で体を丸めている実験体たち。それが、初めて見た光景だった。

 自分とは違って死んでいる。そんな姉妹たちの亡骸が宇宙へ捨てられていく。それが、次に目覚めた時に見た光景だった。


 自分の使命は分かっている。遺伝子に刻みつけられたせいで自然と理解してしまう。

 この力で星を変化させ、メタモリアンに繁栄をもたらす。

 そんな大きな力を持つフォシスを、アルコーンは姫として玉座の隣に添えた。いずれ死ぬのだからと、様々なワガママは許された。


 でもやはり知性ある生物として……死にたくないと想ってしまった。

 気付いた時には、逃げていた。


 フォシスは逃げ切れるとは思っていなかったが、それでも何処か遠くに行きたかった(で生きたかつた)。

 そんな想いが報われたのか、地球に来られた。


 そして驚いた事に、この星でフォーゼスに出会った。メタモリアンではない、ニンゲンと呼ばれる種族が、伝説の戦士と同じ力を見せた。

 フォシスは歓喜した。これで追手がやってきても、追い返してくれると。

 思惑通りに、襲来したメタモリアンの戦士を尽く返り討ちにしてくれた。

 だが、とある頃から思ってしまう。


『――このままでいいのじゃろうか?』


 最初は憧れの戦士の背中に隠れていればいい、そんな風に思っていた。

 今は、毎日店で働き、忙しい身だが充実している。更には、絶対直接言いたくないが、友人と呼べる篝と遥がいる。


 そして、フォーゼス――真がいる。


 任せっきりで、本当にいいのだろうか。それですべてが終わって、自分は皆と一緒に胸を張って生きていけるのかと、不安に思い始めた。


 だから、真の生い立ちを知った時は、良いきっかけになった。

 大義名分があれば良いという訳では無いが、おかげで姉として支える覚悟――想いが出来た。


 せめて最終決戦は、戦いの場に赴き、その勇敢な背中へエールを送ろう。

 きっと勝てるから、大丈夫。そんな応援を。


 結局負けてしまったが、フォシスに悪感情はない。

 あるのは決意だけ。


 この身を賭して、大切な者たちを守る。

 そう、想っていたのに。


「……なにを、なにをやってるんじゃ……マコト!」


 斬られ、地に伏したのは……自分じゃなかった。

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