英雄武装の変身願望《メタモルフォーゼ》
サトミハツカ
序章
真っ暗な世界。右も左も上も下も何もない。ただあるのは煌びやかな光、星屑の灯り。
人類が未だかつて観測出来ていない、遙か遠い銀河系。
そんな広大な宇宙の中で、流れ星のように移動する小さな飛行物体があった。
「マズいのじゃマズいのじゃッ、飛ばし過ぎて何処か分からんぞ。ここどこじゃ!」
飛行物体の中では白銀の髪を振り回しながら、点滅するボタンを忙しなく押している少女がいた。
「えぇと、銀河地図の起動は……うぅッ、説明書くらい入れとけぇ! 分からんぞ!」
少女は苛立ちをぶつけるように、ボタンやレバーの類いがある場所を思いっきり叩いた。
――ピ、ピピッ! ビー、ビー!
「あ、やば」
危機を発想させる程の甲高いシステムエラー音が何度も鳴り響き、少女は青ざめる。
またもボタンを、今度は慎重にポチポチと押していく。
『AIシステムの起動を確認。目的地を設定してください』
機械の声を聞いた少女は喜々として告げた。
「ここから近い星は何処じゃ!?」
『探索レーダーを起動――発見。登録名、ブルーアース。通称、地球』
「ちきゅー? よく分からんが、そこへ行くんじゃッ、急げ!」
少女の命令を聞き、システムは地球という星を目的に設定。ワープ機能を発動させた。
『地球。急げ。命令受諾完了。搭乗者の安全を考慮せず、緊急の空間超越を起動。ワープします。なお、当ロケットはワープ後にスクラップの予測。開始します』
「はぇ?」
少女が「なにそれ聞いてない」という間抜けな表情を晒していると、押し潰されるような重圧に襲われた。
「こ、このポンコツAIがぁ!」
その叫びを最期に、とある宇宙に漂っていた飛行物体が一つ消えた。
***
静寂が戻った宇宙。だが暫く後に、また新たな飛行物体が現れた。先程よりも、巨大な宇宙船だった。
「反応消失。どうやらワープ機能を使ったようです。どうしますか、アルコーン様」
何人も居る宇宙船オペレーターの一人が、後方上部の玉座に鎮座している男を見やった。
貌(かお)が無い、のっぺらぼうの男。だが確かな存在感を放ち、怠そうに肘を突いて言った。
「ふん。愚かな娘の事だ。どうせ何も考えず、近くの星にでも跳んだんだろうよ」
その言葉を聞いて、オペレーター達が一斉に機械を操作する。
「特定しました。ここから近いのは地球のようです」
アルコーンは足を組み直し、面白そうに笑った。
「裏切りモノが逃げ込んだ星か、興味深い。どれ、さっさとみせろ」
宇宙船は瞬時にワープ機能で移動する。そしてすぐに、宇宙船の内部にある多数のモニターに、蒼い星が映し出された。
「ほぅ、綺麗だな。あぁ、とても美しい……下等生物には勿体ないほどに」
表情は無いが、声のトーンでアルコーンは恍惚な様子をみせる。地球に見惚れ、やがて誰かを呼ぶように手を叩いた。
「お呼びでしょうか」
瞬間、アルコーンの前に騎士が現れた。頭から足まで、漆黒の鎧で包まれた騎士は言葉を待つように頭を垂れる。
「最初はお前が偵察してこい、ミメシス」
「承知」
一言告げ、霧のように消えた鎧の騎士、ミメシス。
「くくっ、またメタモリアンの星が増えるな」
アルコーンは嗤う。もう既に、地球は手中にありと疑わず。
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