オトバコ

元薺ミノサト

久能島密室館迷宮殺人事件

プロローグ


 如何なものだろう


 と、私の目の前のパーソナルチェアに腰掛けながら英国紳士にでもなったつもりだろうか、紅茶の入ったティーカップを鼻前で揺らしながら訝しげに私と私の隣に座る少年、私と少年の座るソファの背後に佇む少年に目をやる犯人は言う。


 それもそうだろう、なにせ私も少年と少年もまだ学生と云う年齢を越えないというのに、犯人……ましてや殺人犯を前にして泣くも叫ぶもしないのだから。


 常識的に考えて客観視しても矢張り私達は異常なのだろう。



「君がここで、私達の目の前で首を吊り事切れたら今度こそ君は物語の人物になれる。」


「念願の誰も居なくなった物語が完成する。」



 犯人の犯行動機はこれだけ言えば分かる人は分かるだろう、そう、つまりソレだ。自分の手でオリジナリティ溢れる物語を作りたかったらしい。

 しかしあろう事か、犯人は紅茶を飲んでしまったのだ。あぁなんと可哀想に。


 これで物語が終わるなんて味気ない……。


 犯人側が被害者になっていちゃ忙しないだろうに、犯人が犯人として最後には殺人のループを終わらせ括ることに意味があった筈なのに!

 さてはて、完璧直前まで進んでいた物語をぶっ壊したのは誰だろう?


 私も知らない、少年二人も知らない。


 だって私達はただだけだから、私達子供の力じゃ大人はなにも気にしない。これはそれが招いた悲劇と言っても過言じゃないだろう。

 犯人も誰かに殺されては忙しない、物語が物語として成立しなくなってしまった。



「あーぁ、これだれが語るの?」


「はははっ…ーはぁ、さぁ?でもつまらなくなっちゃったな」


「……お二人共、流石に拍手は不謹慎で…はぁ、朝ご飯をお作りしますので食べましょうか」


「任せたよ〜」





 ───孤島の館密室迷宮殺人事件───


 穏やかだったはずの天候が一変し、嵐の中起こってしまった悲劇。


 これはそんな事件の譚。

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