うさみ と かなめ
夜桜くらは
うさみ と かなめ ①
「これ、絶対イケてるっしょ」
自撮りした写真と共に呟かれた言葉には、多くのハートマークが付き、コメントが付く。それはどれも、彼女のセンスを称えるものばかりだ。
「みんな褒めすぎー」
そう言いながらも嬉しそうな顔をしている早来は、ふと時計を見る。
「やば! そろそろ行かないと遅刻じゃん!」
そう言うと慌てて立ち上がり、部屋を出る。そしてそのまま、小走りで学校へと向かった。
◆
教室に入ると、いつものようにクラスメイトたちが挨拶をする。ちなみに、早来の通う学校は女子校だ。
「おはよう、ウサ」
「おはよー」
早来もまた笑顔でそれに返す。すると今度は別の女子から声をかけられた。
「ウサ、今日の髪型いい感じじゃん」
「マジ? ありがとね」
そんな会話をしながら席に着く。それからスマホを取り出して、またSNSを開いた。
今朝投稿した写真に付けられたコメントを見てみる。相変わらず好意的なものがたくさん送られていた。
「まあ、当たり前だけどね」
そう呟きつつ、スマホを机の中へしまい込む。
しばらくすると担任の教師が入ってきて、朝のホームルームが始まった。といっても、連絡事項などはほとんどなく、すぐに終わる。
その後の授業では特に変わったことはなく、時間は過ぎていった。
そして昼休みになる頃には、生徒たちはそれぞれ仲の良いグループに分かれて昼食を食べ始める。
早来も友人と一緒に弁当を食べるため、椅子を寄せ合うようにして座った。
「ウサー、最近どう?」
「え、何それ。どういうこと?」
唐突な質問に首を傾げる早来。しかし相手は構わず続ける。
「彼氏だよ、カレシ」
「んー……まだいいかなぁ」
少し考える素振りを見せながら答える。すると、他の友人たちからも次々と声が上がった。
「なんで? 作らないの?」
「好きな人いないんだっけ?」
「うん。特別に、誰が好きとかはないかな……。ほら、やっぱり今はそういうのより、オシャレしてる方が楽しいっていうか」
早来の言葉を聞いて、周りにいた友人たちは残念そうな顔を見せる。だが次の瞬間には、「まぁ、ウサらしいといえばウサらしいよね」「うん、そうだね」という結論に至ったようだ。
その後しばらくは他愛のない話が続いた後、話題は恋愛話からファッションの話へと移っていく。
「そういえばこの前、新しいワンピース買っちゃってさー」
「わかる! めっちゃ可愛いヤツだよね!」
「ホント!? あれ超可愛かったんだよねぇ〜」
などと盛り上がっているうちに、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。彼女たちは談笑しながらそれぞれの席へと戻っていった。
◆
放課後になると、生徒たちは思い思いの時間を過ごす。部活に行く者、家に帰る者と様々だ。
そんな中、早来もまた帰り支度をしていた。特に部活にも入っていない彼女は、友達との約束がなければ帰宅部である。
「じゃあね、ウサ」
「バイバーイ」
「また明日ー」
挨拶を交わした後、友人たちとは校門の前で別れた。
一人になったところで、早来は帰路につく。
(今日は何しようかな)
頭の中で考え事をしつつ歩いていると、視界の先に見覚えのある人物が映った。
(あ……あの子……)
それは同じクラスの女子生徒だった。名前は確か、
彼女は流行からはやや外れた服装をしており、髪も染めていない地味なタイプだ。大人しく目立たない印象で、クラスの中でもあまり目立つ存在ではなかった。
とはいえ、別にいじめられているだとか、そういうわけではない。彼女にも友人がいることは知っているし、時折楽しそうにしている姿を見たこともある。
そんな彼女は、早来に気づくことなく歩いていく。その背中を見ながら、早来はぼんやりと考える。
(なんか、パッとしなくない?)
それが彼女の第一印象だった。
(もっとこう、派手にしてもいいと思うんだけどなぁ。まあ私みたいにするのは無理だろうけど……)
そこまで考えた時、ふと疑問が浮かぶ。
(……ていうか、どうして私はあんな子が気になってるんだろ? 今まであんまり意識したことなかったし、接点もなかったはずなのに……)
考えてみても、答えは出ない。
(うーん……まあいっか! とりあえず話しかけてみよっと)
そう決めた早来は、彼女の後を追うことにした。
◆
「ねえ、ちょっといい?」
早来が声をかけると、千歩は驚いたような表情を見せた。それから不思議そうな顔をする。
「えっ? わ、わたし……ですか?」
「うん。いきなりごめんね。あなた、要さん……だよね? 名前合ってる?」
「はい……」
戸惑いながらも返事をする彼女を見て、早来は内心ホッとした。もし間違っていたらどうしようと思っていたのだ。
「よかった。それでさ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「はい……なんでしょうか?」
「あなたのこと、教えてくれない?」
「……へっ? あ、いえ、その、すみません。言っている意味がよくわからないんですが……」
突然の質問に対して、千歩はますます困惑した様子を見せる。当然の反応と言えるかもしれない。
「まあまあ、そう言わずに。ね、お願い」
早来は笑顔を浮かべると、両手を合わせて懇願するように言った。すると、その勢いに押されたのか、おずおずと話し始める。
「えと……何を聞きたいんでしょう?」
「んーとねぇ、まずは趣味とか好きなものとかさ。あと家族構成とか。あとは誕生日とか血液型とか?」
「ええぇ〜?」
次々と飛び出す質問に対し、思わず声を上げる千歩だったが、それでも律儀に一つ一つ答えていく。
「えっと……趣味は読書です。好きなものは……」
真剣な表情で考えている様子を見ながら、早来はワクワクしていた。こうして誰かのことを深く知ろうと思えるなんて、初めてのことだった。
「そうなんだ……ありがとね! それじゃ、今度は私の番だ。えーっと、私は……」
そして早来は、自分のことを話し始めた。好きな食べ物や音楽、ファッションなど、様々なことを語る。
その間、千歩はずっと驚いたり感心したりといった反応を見せていた。
そして話が終わる頃には、すっかり打ち解けていた。
「あっ! もうこんな時間じゃん! ごめんね、遅くまで……」
早来はスマホを取り出して時刻を確認する。いつの間にか、かなり時間が経っていたようだ。
「大丈夫ですよ。それより、楽しかったです」
「ホント? なら良かった」
2人は笑い合う。そして同時に思った。
(この子と仲良くなりたいなぁ……)
それからすぐに別れることになったのだが、連絡先を交換することで話はまとまった。
「それじゃ、またね」
「はい、さようなら」
そう言って手を振り合うと、それぞれの家に向かって歩き出した。
◆
翌日。早来は教室に入ると、真っ先に千歩の元へと向かう。
「おはよう!」
元気よく挨拶すると、彼女は少し戸惑った様子を見せつつも「……お、おはようございます」と返してくれた。
「昨日はありがとう。おかげですごく楽しい時間だったよ」
「そ、そうなんですか?」
「うん。だからさ、今日も一緒に帰らない?」
「えっ!?」
早来の提案に、千歩は驚く。だが、嫌というわけではなかったようで、少し迷った後に小さくコクリとうなずいた。
「やった! じゃあ決まりね!」
嬉しそうな顔で笑うと、早来は自分の席へと戻る。すると、友人が声をかけてきた。
「えー、なに? ウサ、あのカメちゃんと話してたの?」
「え? カメって……」
「あ、知らない? 要さんのあだ名だよ」
「へぇ……」
「うん。苗字からとったのもあるけど……。彼女、見ての通り地味でしょ? それで、流行遅れの亀みたいな子だって」
友人の言葉を聞いて、早来は納得すると同時に、少し複雑な気持ちになる。
(あー、そういうこと……)
早来は改めて千歩の方を見る。すると彼女と目が合った。すると、恥ずかしそうに目を逸らす。
(確かに、服装はちょっとダサいけど……)
そう思いつつ、早来は考える。
(でも……)
早来はニコッと笑って千歩に手を振った。千歩は戸惑いながらも同じように返す。
(良い子だと、思うんだけどなぁ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます