勇者と魔王の力が合わさってなんかすごいことになった

響恭也

湖底の洞窟

「報告します。魔族の軍勢は正面に展開しているのみであります!」

 偵察に出ていた兵が指揮官に報告している。


 アウステロ湖に張り出した高台の上で俺は戦況を眺めていた。魔法兵の放つ火球が魔族の軍勢に着弾し爆発を起こす。

 魔族の放った雷が重装歩兵をなぎ倒す。巨大なドラゴンの放ったブレスを魔法使いが氷弾で相殺し、魔法のかかった剣が竜の鱗を斬り裂き、断末魔の声をあげて巨躯が倒れ伏す。

 光を放つ剣が一振りされると魔族の前衛がなぎ倒された。あれが勇者の持つ聖剣「アロンダイト」であろうか。


 敵の軍勢の中央にいる一人の青年が剣を抜き放った。

「おおおああああああああああああああ!!」

 遠く離れた場所にいるこちらにまでびりびりと衝撃が叩きつけられる。


「あれが魔王の剣レーヴァテインか。無尽の炎を噴き上げすべてを焼き尽くすとか言われているが……」

 隣にいた俺と同じ斥候の兵がつぶやいた。


「ライル。俺たち、勝てるよな」

「大丈夫だよ。勇者の剣は魔王を破るためにある」


 眼下では互角の戦いが繰り広げられている。その中心で、勇者が魔王と切り結んでいた。


「があああああああああああああああああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


周囲に凄まじいまでの魔力が放射され誘爆する。急に強い風が吹き荒れ周囲の軍勢が余波でなぎ倒されていった。

 それはかなり離れていたはずの高台の上でも例外ではなく……、数人の兵が吹き飛ばされた。

 何とか耐えて突風のおおもとの戦場に目をやると、余波を恐れた両軍の兵は大きく下がって戦況を見守っている。


「それにしてもあいつら人間じゃねえな」

 ぽつりとぼやいた言葉に思わず笑いが込み上げる。

「当り前だ。勇者と魔王の戦いだぞ」

「あ、それもそうだな」

 眼下の戦いは激しさを増して行く。余波も激しさを増して行く。放った魔力弾の流れ弾で丘の上でも数人の兵が文字通り消し飛ばされていた。

 お互いに何度か攻撃が命中し、ダメージも蓄積されているようだ。暴風のような魔力が二人を中心に渦巻いていた。


「そろそろ決着か……?」

 誰に言うともなくつぶやいた言葉に声を返す者はいない。

 そもそも自分自身が降ってきた魔力弾の後のクレーターに身を隠しているのだからそれもそうだろう。


「ぬあああああああああああああああああああああ!」

「ウボァー! 我一人では死なぬぞ、貴様も道連れだ!」

「ぬわーーーーーーーー!」

 勇者の体当たりするような突きに胸を貫かれた魔王の断末魔と、その直後に放った自爆魔法で勇者もろとも爆発する。その爆風は周辺の人も何もかもを吹き飛ばす。

 それは俺自身も例外ではなく……。


「うわあああああああああああああああ!!」

 派手に吹き飛ばされた俺は宙を舞い、そのまま湖へと飛び込む羽目になった。


 斜めに吹き飛ばされたことが功を奏し、派手に水しぶきをあげて着水する。斥候の訓練の中に水泳があったため泳ぐことはできている。浮上しようと泳ぐが、なぜか湖底に吸い込まれる。ふと下を見ると、先ほどの爆発の余波か湖底にぽっかりと穴が開いていた。


「ごぼ? ごぼぼぼぼぼぼぼぼ!?」

 そのまま俺は湖底に飽いた穴へと吸い込まれる。水の流れに身を任せつつ俺は意識を失った。



「ここは……?」

 気づくと見知らぬ洞窟の中だ。なぜか壁面がぼんやりと光っており、周囲を見渡すことができた。後ろにはごぼごぼと水が吹き出す池があり、俺はどうやらそこからここに入ったものとわかる。

 そこから戻るのは論外で、息が続くかどうかすらわからない。

 ため息を吐くとそのまま進むことにした。

 左手を壁面に触れさせ、前に進む。なにが出てくるかわからないので剣を右手に構えていた。


 特に何かが現れることなく突き当りにたどり着く。どこかに出られるかもという希望は消えた形だが何やら怪しげな台座がある。

 ふと思いついてその台座の上に乗ってみた。


『汝が次なる勇者か?』

 何か意味の分からない声が響いた。

『汝が次なる魔王か?』

 別の声色で再び声が響く。

 そこで俺はバカなことを想いついてしまった。今思い返してもあんなこと言わなければよかったと後悔し切りなセリフだ。


「俺は両方の力を継ぐものだ!」

 すると、光と闇の魔力の弾が現れ俺のにぶつかった。違う、体の中に凄まじい魔力が流れ込んできた。


『力を授けよう』


 受け入れたが何も起こらない。と思った直後、ボンッと左手が吹き飛んだ。


「うわ、うわああああああああああああああああああ!」

 なくなった手首から先を見て悲鳴を上げる。ボンッと音がして、次は右足首が吹き飛んだ。

 あまりのショックに俺は気を失った。


「う、うむむ……」

 目を覚ますと俺は台座にもたれかかっていた。恐る恐る左手を見ると……見慣れた手がある。手の甲には紋章が刻まれていた。

「なんだこりゃ!?」

『勇者の紋章だ。今代の勇者よ』

 吹き飛んだはずの右足も変わらずある。違うのは、履いていたブーツが無くなり、裾が爆発したようにちぎれていたことだ。

 そして足の功には、左手と違う紋章が刻まれていた。

『魔王の紋章である』


 先ほど聞こえていた声が脳裏に響く。その声を聞きながら俺は再び意識を失っていった。

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