一話完結。の部屋

倉沢トモエ

ふわ子さん、奮闘す。(小説家になろう公式企画「冬童話2023 ぬいぐるみ」参加作品)

 ヘルプヘルプ。ふわ子より。


 いや、ほんとなの。


 よくお店に並んでたみんなで冗談で話してたよね、〈もしも誘拐されたらどうしよう?〉って。


 子供が誘拐されて、後には持っていたぬいぐるみが落ちているのよ。


 夕方の再放送でよく見たよね。ほら、刑事ドラマ。


 いつもおばちゃん、店番しながらみてたんだ。そう、わたしのいた店のおばちゃん。


 とりあえず誰か通報して! ◯◯駅の、東口に出る細い道のとこにわたし落ちてるから! さやかちゃんを連れ去った車のナンバーはね、****……


 * *


 昔。


 私が折り畳み式ケータイのストラップに、ぬいぐるみをじゃらじゃら付けていた頃のはなし。


 夕方、誘拐された女の子が市民からの通報により助かったというニュースをテレビで見た。さやかちゃんというその女の子は六歳で、ふわ子さんのぬいぐるみを大事そうに抱いていた。


 ふわ子さんは、あの頃人気のあったクマのキャラクターで、私のストラップにもいたんだけど。


「……」


 さっき。


 学校近くのファストフードの店で、だらだらしゃべっていた時に。


 ふと見ると、私のケータイが開いていて、ボタンの上に、


 ふわ子さんが乗ってた。


「なんで?」

「ふわ子さん、なんか画面見てるみたいだね?」

「誰よ、いたずらしたの」


 誰もしてないって。


 まあ、だらだらしゃべってた時だから、そのときはそれで終わったんだけれど。


「あ、ふわ子さんだね」


 お母さんまでテレビのニュースに映ったふわ子さんに気が付いた。


「みんな、ふわ子さん持ってるのね」

「そうだね」

「みんな、同じ工場なのかな」


 なんでそこに興味が向くの。


「ふわ子さんたちは、お友達なのかもしれないね」


 世の中にある、数えきれないふわ子さん。

 その中のひとつが、私のふわ子さんなのか。


「ん」


 ふと見た通話履歴に。


「110番がある?」


 * *


 それからも、ふわ子さんはおもちゃ屋さんに並んでいる。


 お店で仲良く並んで、こっそりおしゃべりをしたり、みんなの話に聞き耳を立てているかもしれない。


(小説家になろう公式企画「冬童話2023 ぬいぐるみ」参加作品)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る