第5話
「待ち伏せ……」
ソフィはユウを肩から下ろし、ユウを守るように前に立ちはだかった。
「鬼ごっこは終わりよ。少年の身柄を渡してちょうだい」
比較的小柄な人物が前に出てきた。ユウよりも頭半分程度小さい。ユウの身長が175センチである事から逆算すると、165センチ程度だろう。実際は強化外骨格の分を引くからもう少し小さいだろうが、周囲の大柄な人物に比べると体格それ自体も小さく見えた。
「ナツメユウは我々が保護します。三つ花にお渡しする事は出来ません」
「素直に応じてくれるとは思っていないわ」
先頭に立った人物が手を挙げた。すると、後ろに控えている人物達が一斉に銃器をソフィに向けた。
「ま、待て待て! なんなんだよ! お前らなんで争ってんだよ!」
「呆れた。君そんな事も知らないでそいつに付き従ってたの?」
「どういう事だよ?」
彼女はフルフェイスマスクの後頭部のスイッチを押した。パシュという音が鳴り、空気が抜けた事を確認するとマスクを取った。同時に、中に収められていた長い金髪がバサリと開放される。僅かに吹いていた風にサラサラの髪がなびく。
ソフィに引けを取らない美しい女性だった。西洋的な堀の深い顔立ちで、知性を感じさせる切れ長の目に紅を引いたかのように主張するピンク色の唇。ソフィは幾分幼さを残しているが、こちらは完成された大人の魅力を持ち合わせていた。
「はじめまして、ナツメ君。私はカーラ。君の首には賞金が懸かってるの。今ドメインにログインしてるハンター達は血眼になって君の事を探してるわ。私達は君の事を保護するために来たのよ」
ユウは女性の言っている事の表面的な事しか理解出来なかったが、それでも自分なりに言葉の意味を解釈して、賞金首である自分を追って今ドメインという場所に賞金稼ぎのハンター達が集まっているのだろうと考えた。
「保護って言っても、あんた達もハンターなんだろ?」
「いえ、私達はどちらかというと警察かしら?」
「警察?」
「騙されないでください、ナツメさん。彼女達は警察などではありません」
「あら心外ね。嘘は言ってないわよ。確かに警察そのものではないけれど、自警組織であるのは間違いないもの。それよりも、君の隣のアンドロイドこそハンターよ?」
「……そうなのか?」
「確かにやっている事はハンターのそれと同様の事ですが目的が違います」
「言った通りでしょう? さ、わかったら私達のところに来るのよ。そっちのアンドロイドにしても悪いようにはしないと約束するわ」
「……どうすりゃいいんだよ」
心情的には先程自身を守ってくれたソフィ側に付きたいが、無数に向けられた銃口が如何ともし難い。状況を覆す何かがない限りカーラの言う通りにするしかないだろう。
「ナツメ君、あまり時間はないわ。イドっていう化け物がいつ襲ってきても遅くないの。私達としても無理強いはなるべくしたくないの。決断してちょうだい」
「……あの、俺がそっちに行ったらソフィはどうなるんですか?」
ユウの問いに彼女は答えなかった。言わずとも、そういう事なのだろう。
「出来れば、無事に帰してもらえないですか」
「……わかったわ。それで君がこちらに来るというのならそうしましょう」
「ありがとうございます」
両者一歩も動けない中、ユウだけは唯一その歩みを進めていた。そして、ユウがちょうど両者の中間の位置に達した時、状況は一変した。
「ちょーと待ったー!」
ビルの屋上から飛び降りて来る少女がいた。彼女は両手に所持したドラムマガジン式ショットガンを車両に乱射した。
装填された特殊徹甲弾が軍用車の装甲に穴を開ける。飛び交う火花が中のガソリンに引火し、何台かの車両が爆発炎上した。
少女は混乱に乗じてユウを小脇に抱えると、駆けつけた軽トラックの荷台にユウごと乗り込んだ。ソフィもすぐさま状況を確認し、トラックの助手席に乗り込む。
「出せえ!」
少女が叫ぶ。軽トラックはアスファルトを削りながら急発進した。
「ゴホゴホッ! なんてこと……! 失態だわ。急いで態勢を整えるのよ! 彼らを追うわよ!」
そう言って彼女は生き残った軍用車の助手席に乗り込んだ。
「後一歩のところで……この代償は高くつくわよ」
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