キング・オブ・ミクロ

水車小屋

ヴァイラス邂逅編

外された安全ピン 01


−俺の目の前で女が食われていた。


いやらしい意味ではない。

今にも冷雨が降り出しそうな空の下、幼き頃図鑑で見たザトウクジラの形をした化け物の死体の口腔内に黒と紫のゴスロリワンピースを着た女が文字通り喰われたかのように頭上半分と右腕だけ出して横たわっていたのだ。


「おい八木、その鯨野郎の死体はほっといていいって言われただろ。休憩所行くぞ。」


先輩達はまだこの少女に気づいていない。

報告しようか考えたが俺の好奇心は彼女の存在をを独り占めすることを決めた。


「あ、ちょっとこのヴァイラスの死体見てみたくて!先行ってて下さい!」 

「早く戻ってこいよ。ここは見つからねえとは思うが、もし警察にバレたらヤバイからな。…ったくあいつどういう趣味してんだ…」


そうバイト先の先輩から軽くはない誤解をされながら周りに人気が無くなったのを確認して口の中からその女をとり出した。


「うわっ汚ねえな…」


化け物…もといヴァイラスと呼ばれているそいつの唾液で彼女は服ごとヌメヌメであった。

身長は小学校高学年ほど、元々少しだけ見えていた顔は艶やかな黒髪(テカってたのもある)にフランス人形のような端正な顔立ちだった。

そして初めて見る彼女のその顔に俺は何故か懐かしさを感じた。


にしても起きる気配が全く無い。

俺は生きているか死んでいるか確認する為彼女の左腕を持ち上げ脈を測ろうとした。


「なんだ…これ…」


持ち上げた瞬間、俺は目の前にいるソレがただの人ではない事を確信した。

彼女の腕は同じ大きさの発泡スチロール程度の重さしか無く、さらに彼女にはその体をトクトクと波打つはずの脈も無かったのだ。


「死体…なのか?」


脈が無いのでは死んでいると考えるのが普通だろう。

だが血色の良い頬と微かな呼吸は俺の死体であるという推測を許さない。

そう思いながら観察していると彼女のまぶたがピクッと動いた。

色々と気になりはするが、これ以上時間を食っていると怪しまれるのでとりあえず誰にも見つからなさそうな岩陰に彼女を置いておき、バイトの休憩所ヘ向かった。


◆◆◆


放っておけなかったので彼女を俺のアパートに連れてって寝かせることにした。

家賃数万、それでも高いと思うほどボロボロの6畳一部屋の俺の部屋。

エアコンなんてものは無く、壊れかけの電気ストーブが密閉性皆無なこの部屋に暖かな空気を申し訳程度に送ってくれている。


いやあそれにしてもぐっすり寝ている。

いやこの具合だと気絶しているのかもしれない。

タオルを敷いたソファに寝かせた彼女を見ながらそう思う。

ある程度の唾液は拭き取ったものの簡単には取りきれず、臭いがストーブの風に乗ってプアーンと部屋中に広がる。

この臭いと疲労のせいで食欲も出ないが明日も働かなきゃいけないので俺は夕食の準備をすることにした。

台所へ向かうついでに俺はダイヤル式の鍵箱を開け中から雫型の桃色の石があつらってあるレックレスをはめた。

昔に友人から貰ったものだ。


…しかしどうしたものか。

警察に届ける手段もあったが違法スレスレな死体解体バイトで見つけましたなんて言ったら俺まで事情聴取である。

15歳で警察のお世話になるのはごめんだ。

今更ながらあんな闇バイトで働いたことを後悔した。


「でも、日当高かったしなぁ〜今時中学生雇ってくれるバイトなんてどうせ全部怪しいし」


ポットの電源を入れながら俺は嘆いた。


20年程前、パリにあるバイオ企業が政府にも極秘で作っていた生物兵器が大量に脱走し暴走。

パリは1日で死の都となり、世界は恐怖と混乱に包まれ、国連はその時現れた人を襲う化け物をヴァイラスと呼んだ。

それに対抗すべく世界最大の企業グループ近衞財閥を筆頭に複数の民間企業が対ヴァイラス組織CVOと自らの戦闘能力を拡張する有機合成兵器U(アンダー)S(スーツ)を開発し、人類はヴァイラスと渡り合えるようになった。

だがやはり一部の地域は手放せざるをえなくなり、

また爆心地のパリから来る不規則的に襲来するヴァイラスにより世界経済と治安は悪化した。


だが、悪いことばかりでも無かった。

そのパリでの大災害、通称『パリの悪夢』で近衞財閥を筆頭としたバイオテクノロジー産業は大いに発展し、今では多少下火にはなっているが世界はバイオテクノロジーバブルとも呼ばれる好景気になっている。

俺が生活出来ているのもそのおかげなのでヴァイラス様々である。


そんなことを考えながら飯を作っているとふとあの少女の様子が気になり、振り返ろうとした。

だが、それとほぼ同時に俺は声を出しかける程の強い力で後ろから首を掴まれた。

爪を首の血管にかけられ、いつでもかっ切られるような状態で。

姿が見えなくても分かる、が目を覚ましたのだ。


「おい…ニンゲン、ここはどこだ?」


10歳弱に見えたその体躯から発せられたその声は、幼い声色でありながら全身の毛穴から脂汗が吹き出す程の圧倒的な威圧感を俺に与えた。

後ろにいるのは果たして同じ世界に生きる生物なのか?

俺はまたしても恐怖心より好奇心が勝り、この状況に反して少し興奮していた。


「おいニンゲン。なんか匂うぞ。」


この時ビビって少しチビっていたのは墓まで持っていくことにしよう。


「ニンゲン…?まるで自分が人間じゃないみたいな言い方だな。」


俺は少し震える声で応答した。


「ご名答。私の名はトト、ヴァイラスだ。」


コイツがヴァイラス?

俺が知っているヴァイラスは動物の形をしたゾンビみたいな化け物だ。

コイツは違う。見た目はおろか言葉も通じる、知性のある人間だ。が、倫理観までは似てないようだ。

命の危機だが、逃げようにも逃げ切れる気もしない。

会話も成立する気もしない。

さーてピンチだぞ。


「さて人間、お前はどっちがいい?私に今ここで殺されるか。それとも私に協力し、従うか。」


彼女は突き立てた爪をトントンとしながらそう言った。このままだと確実に殺される。

名も知らぬ両親よ、ろくに生きられなかった息子を許してくれ…

まあ美少女に殺されるのも悪くはないかもしれないがせめて彼女ぐらいは欲しかったなあ…

いや待て、さっき協力すればどうとかなんとかって言ってなかったか?


「協力って…なんだ?」


俺は恐る恐る聞き返した。


「…とりあえずその飯をよこせ全部だ。」


彼女は答えた。

こちらの質問を無下にしないぐらいの社交性は持ち合わせてる様だった。


「分かったけど…とりあえずこの手離して欲しいのとその殺気マシマシな喋り方なんとかしてくれないか。怖すぎて震えが止まらん。」


トトは何も言わずスッと俺の首から手を離し、同時にチクチクと痛みを感じる程の俺への殺気を消した。


「はあ、あんがと。飯つってもカップラーメンだけd…」


ひとまず安心して振り返った視線の先にいたのは上から下まで素っ裸の彼女の姿だった。


「な、なああぁぁ!?」


俺は大慌てで両手で視界を隠した。


「ん?ああこれか。ベタベタで気持ち悪く、着替えるものもないからな。捨てた。」

「『捨てた。』じゃねえ!お前には人としての羞恥心ってもんがないのか!」

「いや、私はヴァイラスだ。」


こいつ急に正論を…って論破されてる場合じゃない、このまま裸にさせておく訳にはいかない。

幼女を愛する趣味は無いが、このままだと俺の大切ななんらかを捻じ曲げられかねない。


「…とりあえずなにか服を着てくれ。そこの棚に俺の服があるから。」


俺はむこうを向きながら居間にある棚を指差してそう言った。


~~~


「おい着替えたぞ」


そう言われ振り向くとトトは一応服を羽織っていた。サイズの合ってないアロハシャツにずり落ちないようにギチギチに縛ってあるジャージズボンという謎チョイスだったが。

どちらもどっかの店の閉店セールで適当に買ったまま棚の中で無用の長物と化していたものだ。

まさかヴァイラスに着られるとは服の方も思っていなかっただろう。

ちなみに俺も隙を見て履き替えた。


「お前の名は?」

「身体が入れ替わりそうな聞き方するな…俺はカムナ、八木カムナだ。」

「変な名前だな。で、飯は?」

「…はいこれ。」


さりげなく名前をディスられた俺は麺が伸びきったカップラーメンを差し出した。

トトはソファにドガッとすわり目の前のソレを凝視する。

流石に作り直すべきだったか?


「これは?」

「カップラーメン、お湯入れて3分待つだけで作れる人類最大の発明だ。まあ今は6分ぐらい経ってるけど。」

「名称を聞いているんじゃない、この細長いのをどう食べるんだと聞いている。」

「ああ、そこの箸で…いや待て、お前箸使えるのか?」


どこから来たのかは不明だがどう考えても日本在住の風貌では無さそうだ。

そもそもヴァイラスだし、道具を使ってモノを食べる文化はあるのか?と、思ったのだが。


「ああこれか?こうやって使うんだろ?」


トトは使い慣れた動作でラーメンを掴んだ。

啜るという動作は知らなかったのか、麺を少量ずつ噛みながら口に運んでいく。

その動作はぎこちないのにも関わらず、妙な可憐さがあった。

容姿がいいからだろうか。


「食べ方はこうで合っているのか?」

「一応合ってるけど…ヴァイラスって箸使えるんだな。」

「…まあな。まさかだとは思うがその程度の知能が私に無いとでも?」


折角止まっていた殺気がじんわりと漏れ出す。


「いやいや滅相もない。ところで協力ってこれで良かったのか?」

「そんなわけ無いだろ、本題はここからだ。」


飯を奢るだけで済むのなら良かったのだが、現実はそう甘くなかった。

ヴァイラスからの頼み事なんて検討もつかないが、聞くだけ聞くとしよう。


「死んでもいい人間を紹介してくれ。」

「……?」


本当に斜め上の回答をされた俺は、人生で最大のキョトン顔をした。

トトは面倒くさそうな顔をすると、自分の髪の毛を頭から抜いてピンと伸ばす。

そして近くを歩いていた三毛の野良猫に向かって吹き矢の要領で髪の毛を針のように撃った。

すると猫は先程トトが着ていたワンピースと同じ黒色に染まり、先ほどまでこちらに無関心だった猫はまるで別の猫のようにトトに懐きはじめた。


「『感染』と言ってこのように自分の遺伝子を他の生物に取り込ませる。やがて私の遺伝子がその生物の身体を乗っ取り新たな依代として生きられる。

一番いい依代は人間だな、それも健康な。この姿も人間を乗っ取った姿だ。」

「あーだから死んでもいい人間をって言ったのか。っていうかそれをやるってことは…」

「…ああ私は今弱っている、極限までな。このままもってあと十数時間の命といったとこだろう。」


内容が内容だけに俺は深刻に受け止めようとしたが、彼女の淡々とした口調と彼女が着ているアロハシャツがそうさせてくれなかった。

ほんとなんでそれ着たんだ。

結構奥の方にしまっていたはずなのに。


「てかあれ?それなら最初から俺を乗っ取ればよかったんじゃ無いのか?」

「私達は無闇に殺人がしたい訳じゃない。それに『感染』以外で人間を無闇に殺すのは私のポリシーに反する。飯も美味かったしな。」


なんとかピンチは逃れられたようだ。

ありがとうカップラーメン。


「あんがとさん。でも俺死んでもいい人間の知り合いなんていないぜ?」

「分かっている、こっちもダメ元で言ったからな。」

「悪いな協力出来なくて。」

「いや、いい飯で十分だ。しばらくはヴァイラスだとバレないように生活していくつもりだしな。じゃあそろそろ出るとするかな。」



いつの間にか食べ終えていたトトはそう言うと立ち上がり猫を抱えたまま玄関の方へと向かう、見送る為俺もついていくことにした。

色々聞きたいこともあったが、ヴァイラスの地雷が何処にあるか分かったもんではないのでやめておくことにした。


「ああことのついでに、言っておこう。私のトトという名前、あれは正確には本名じゃない。」


玄関先まで来てトトは不意にそう言った。


「へー覚え易くていい名前だと思ったんだけどな。じゃあ本名はなんて言うんだ。」

「言ってもいいが…長いから多分覚えられんぞ。」


俺は躊躇わず聞くことにした。

だってわざわざあんなこと言うってことは地雷では無さそうだし。

やはり人間好奇心には弱い。


「いいんだよ、こう言うのは知ってるってのが大事なんだ。」

「なら言うぞ、私の本名は--------------------------だ。」

「…長いな。」

「だろ?」


なんとなく覚えはしたが、こんなのをいちいち言っていたら会話が面倒臭くなる。

それぐらい長い名前だった。


「じゃあこれからもトトって呼ぶことにするよ。」

「まあ、好きな方で呼ぶといい。」


トトはそう言うとドアノブに手をかけた。

何故彼女が急に自分の名前のことを話し始めたのかは分からない。

ただ思い返してみれば彼女は最初から俺との会話を楽しんでいる様にも見えた。

それ故に俺には彼女が全世界で人間を殺しまくってる化け物と同族であるとはとても思えなかった。

思えば俺は彼女らヴァイラスのことは何も知らない。

お互いに歩みよれば理解も出来るのではないかと微かにだが思った。


「さようなら八木カムナ。運が良ければまたどこかで会うかもしれないが……もし助けが要る時が来たら私の名を呼べ、聴こえたら一度だけ助けてやろう。」

「サンキュー、覚えておくよ。」


彼女が扉を開けようとしたその瞬間、

正面から俺は身体を潰されるような衝撃にぶっ飛ばされた。

反応もする間も無く、俺は目の前のドアと共に吹き飛び、訳もわからないままなにかに叩きつけられた。


「カッハッッ!」


肺の空気が全て押し出され呼吸が出来なくなる。

だが運良く一緒に飛ばされたであろうソファがクッションになり即死は免れた様だった。

俺は空気を取り込むために少しずつ呼吸を取り戻し、辺りの砂埃が晴れると衝撃の正体を知った。

それはトトを食っていた鯨型のヴァイラスの数倍ある巨大な同じクジラの姿をした化け物だった。


クジラ 口の中 トト 意識不明 瀕死


刹那の思考の末、自分がトトの服についた唾液をちゃんと拭かずにここに運んできたことを後悔した。

奴は追ってきたのだ、トトについた唾液を辿って。


「ッあいつは!?」


トトのことを思い出し立ちあがろうとした時、自分の重心が左にずれていることを感じた。

原因はすぐに判明した。

俺の右腕は肘から先が無かったのだ。


「グッヴアアアアアアアッッ!」


今まで感じなかった激痛がその事を認識した瞬間、脳を突き破れんばかりに押し寄せ、同時に体の端々から来る鈍く強い痛みは体が重傷であることを俺に知らせた。


「八木カムナ!」


トトの声が右から響く。どうやら一緒にぶっ飛ばされたらしい。


「トト悪い、俺がしくじった。俺は大丈夫だからとっとと逃げろ。」

「もう少しマシな嘘をつけっ!ヴァイラスでも重傷だ、止血ぐらいならできる!」


トトは近くにあったソファの布を引きちぎり止血しようする。

だがトト自身も力を失ったかのように膝からガクンと崩れ落ちた。


「ほらよ、時間無いんだろ?」

「ッ……」


理由は分からないが相当なエネルギーを使ったのだろう。

トトは目立った外傷は無かったものの全身を小刻みに震わせ、息を荒くしていた。


「ハァハァ…」


トトも死にかけだ。

それでも俺の処置をしようと体を震わせながら俺の傷口に布を当てていた。

だが布が吸収する分より微か上回る量の血がポタポタと右腕から抜ける。

それと共に俺の意識は段々と朧げになっていった。

両方死ぬ。

その言葉が頭の中を走り、俺はある決断をした。


「トト…」

「…なんだ。」

「ここにいるぜ。もう死ぬしか無い人間がな。」

「!」


トトに俺の身体を乗っ取らせる。

俺の命は処置したとしても助かる確率は数パーセント。

そして少なくとも処置をしたトトは間違いなく助からないだろう。

なら、一人が確実に助かる方を選ぶべきだ。

それに…


「死ぬんなら誰かの役に立って死にてえよな…」


俺は誰にも聞こえないぐらいのか細い声でそう口に出した。

そしてその数秒後、プツンと意識を失った。


~~~~~~~~~~


「カムナ…」


トトは目の前にいる人間の意識が途切れたことを悟った。

正確に言えば死んではいない。

だが息を引き取るのも時間の問題だった。


「いいだろうお前から受け取ったこの肉体。無駄にはしない必ず役立ててみせる、私の目的の為にも。」


トトは自身の手をカムナの右腕の傷口へと当てた。


「『感染』」


そう呟くとトトの身体は黒く発光し、人型の固体からドロドロとした流動体となる。


「その前に仇は討ってやる。アイツとお前に私の力を見せてやろう。」


トトの体は服を残して漆黒の本体に紫色の奔流を纏った球体へと変形し、そこから空いたパズルのピースを嵌めるように右腕の形になっていった。

そこにもう元のトトの姿は無かった。

そうして起き上がったカムナの身体はそのまま大きく右腕を振りかぶり目の前まで突進してきた来たヴァイラスを殴った。


「グオオオオオオオ!」


鯨のヴァイラスがけたたましい悲鳴を上げる。


「ハーッハッハッハァ!力が!溢れる!さすが鍛えた若い肉体!どうしたこんな程度か!私を捕まえに来たんじゃないのか?ク ソ ク ジ ラ ァ!」


トトの見え見えの挑発に乗ってしまったヴァイラスは雄叫びを上げながら再び小さく旋回し口を開けながら彼女に突っ込む。


「さらばだデカブツ。潰れて沈め。」


トトはクジラに向かって右手をかざす。

と同時にクジラは金縛りにあったかのように動きを停止した。


『グラヴァータ』


彼女が右手を握り潰すとそれに呼応するようにヴァイラスは球状に潰れ、力を失って地面に落ちると完全に動きを停止した。

巨大な肉塊からは血が吹き出し、あたり一面をドス黒い赤色に染める。

トトの圧倒的な勝利であった。

だが敵を退けた当の彼女の顔は優れなかった。


「ハア…変だ。能力を使った瞬間急に体調が…なんでだ?『感染』したのに…」


フラフラに歩きながら壁に手を付きへたり込む


「ッなんだ⁉︎急に意識がッ⁉︎」


黒くなっていない左腕の方で頭を抑える。


「意識が内側に引っ張られる…ような…これは⁉︎」


次第に目に見える景色もかすれていき、耐え切れず閉じた瞼の裏にトトは人影を見つけた。

そしてその人物を見て彼女は掠れる声で呟いた。


「わた…し?」


そしてトトもプツンと意識を失った。

首にかけられたネックレスの石だけが、曇天の中光輝いていた。

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