異世界傭兵物語

黒鯛の刺身♪

第1話……異世界転生、そして古城へと。

――ガタンゴトン


 電車が走る高架の下。

 月が雲に隠れる薄暗い闇夜。



「どこ見て歩いてるんだよ! このヴォケ!」


 私は会社帰りの路地で、女連れの不良グループに絡まれる。



――ドスゥ


「うっ!?」


 鳩尾を殴られる。

 少し胃のものが遡り、その場に蹲る。



――ドスッ


「あがっ!」


 倒れたところを、更に若い女に股間を蹴り上げられる。



「冴えないオッサンはどうせココは使わないものだしね、きゃはは! 痛がってウケるぅ~」



 股間を抑えた手に、更に女のハイヒールが突き刺さる。



「マジでダサいオッサン、みじめぇ~キャハハ!!」


 男女5人の集団にボコボコにされる私。




「オッサンいい加減に金出せよ!」


 耳に沢山ピアスをしたリーダー格の男に脅される……。



「も、もう……、渡したじゃないか……!?」


「ヴォケ! 3千円ぽっちを金とは言わねえんだよ! ゴルア!」


――ガッ


 蹲っている脇腹に蹴りが入る。



「こんな不細工なオッサン生きている意味ないよね~」

「だよな、はははっ! オッサン死ねや!」


――ドカッ


 金属製の鈍器のようなものに殴られ、私は意識が遠のき、どうやらぐったりとしたらしい……。


「……おい、オッサン!?」

「やべぇ殺しちまった!?」


「ええ!?」


 ……不良たちの会話が遠くなり、目の前は次第に真っ暗になっていった。




☆★☆★☆


『こんな戦士になりたかったなぁ……』


 私はしがない学生のころ、3cmくらいのTRPG用の金属フィギュアに夢を馳せた。

 右手には長剣、左手には大きな盾。



『こんな勇士で伝説のドラゴンと渡りあってみたかったなぁ……』


 フィギュアを手にして眺める昔の私の姿が浮かぶ。

 ……楽しかった月日が走馬灯のように蘇っていた。




――その願い叶えてやろう!


 ……!?

 どこからか、謎の声が聞こえる。




 脳内の世界が暗転し、暫し後に再び目覚めた世界。


 ……それは、小説やゲームなどで見たことのある異世界ファンタジーの世界だった。




☆★☆★☆


 稲光が光り、雷雨が轟く。

 目が覚めた私は、自らの両手に驚いた。



『……な、なんだこれは?』


 自分の手は、前世のふた回りは大きい逞しい手だった。

 眼下の脚も、人間のものとは思えないくらい逞しく太かった。



『げ!?』


 水たまりに映った自らの姿に驚く。

 それは単眼巨人の魔物のものであった。


 身長は約260cm、体重も160kgはあるだろうか。

 ゲームや小説などでは、サイクロプスと呼ばれる巨躯の魔物の姿であった。



「ガォォォォオオオ!!」


 私が生まれ変わった姿は、逞しい巨人であった。


 ……こちらの世界では、もはや不良に怯える柔な体ではないようだ。

 容姿に不満はあるものの、私は逞しい体に感謝した。




☆★☆★☆


(……3年後)



――パチパチ


『……もう焼けたかな?』



 私は近くの森にある洞窟に住み着き、狩りをして暮らした。

 鹿や熊、イノシシなどを狩って食べた。

 木の実や果物、野生の芋なども掘って食べた。


 更には体を鍛え、鍛錬も欠かさなかった。

 ……もう、強者に怯えるのは嫌だ。


 この世界では、以前のみじめな姿とは決別したい。

 そう思って月日を過ごしたのだ。


 狩りに使う弓矢は、動物の骨から削り出した。

 丈夫な石を叩き割り、斧も作った。


 さらに言えば、素手で大木をへし折るこの体が最大の武器だった。

 身長は更に伸び、320cmといったところになっていた。



「ガオォォォォオオ!!」


 私の大きな声に驚き、鳥ははばたき、動物は逃げ散る。

 人間の言葉の発音は忘れたらしいが、私はこの森で最強の存在だった。




☆★☆★☆


――洞窟の住み家の中。


 私はこの世界の本を手にしていた。

 きっと、この森に遭難した人間のものだったのだろうものを拾っていた。


 辞書代わりの絵本も手にしたところで、文字を解析した。

 前世では英語は苦手だったが、ここでは勉強に資する時間は無限にあったのだ。


 ……だいたい解ったな。



 次に思い立ったのは、近くの古びた古城の偵察だった。


 そこには人間の気配がしない。

 しかし、何者かが住んでいる気配はしたのだ。



 ……ひとつ、腕試しと行きますかね。



 私は、クマの毛皮に身を包み、弓矢と斧を携え、密かに古城へと向かった。




☆★☆★☆


――ホウホウ

 フクロウが鳴く闇夜。



 私は風下から古城に忍び寄る。

 狩りと同じだ。

 得物に気づかれてはならない。



「!?」


 ……何かがいる。

 二足歩行。


 ……人間か!?

 いや小さい。

 多分、低級の魔物であるゴブリンだ。



――シュッ


「ギャァ……!!」


 私は矢をつがえ、見張りのゴブリンを撃ち倒す。

 相手は小さなうめき声を漏らす。


 私は古城の城壁に忍び寄り、よじ登って内部に入った。

 そこには焚火をして、晩餐をしているゴブリン達が数匹いた。



「ガォォォオオオ!!」


――ビシッ

――ドカッ


「ギャァァ!?」

「ギャア!」


 完全に奇襲に成功した。

 手にした斧で次々にゴブリン達を葬る。


 ……30分後には、ほぼ周囲の敵を打ち倒した。



「ギギギ……」


 向こうから一回り大きいゴブリンが歩いてきた。

 族長といった感じだった。



「……オマエニ、人間アゲル、ダカラ逃ガシテ……」


 ……魔物同士言葉が通じる。

 捕虜の人間と引き換えに、他のゴブリン達を見逃せという。



「……ヨカロウ」


「アリガトウ……」


 むしろ、こちらから勝手に襲っておいて、感謝される筋合いも無い。

 しかし、弱肉強食の世界だ。

 捕虜の人間とやらと一本の宝剣を譲り受けることで、残りのゴブリン達を見逃すことにした。



「捕虜ハ地下牢ニイル……」


 ゴブリンの族長から、宝剣と牢屋のカギを受け取った。

 族長たちを見送った後、私は古城の地下牢へと降りたのだった……。

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