第2話……奴隷の少女、そして村へと。
――コツコツコツ
私は松明を片手に地下牢に降りる。
薄暗い牢屋の中にいたのは、一人の人間の女の子だった。
……いや、違う。
耳が尖がっている、ハーフエルフか!?
「そこにいるのは誰!?」
「ガウ……」
向こうの話は分かるが、人間の言葉の発音を忘れた私。
「近寄らないで! そこの魔物! けだもの!」
私の姿を見て怯える少女。
灯を掲げると、少女は何も着ていなかった。
――ガチャ
――バサッ
私は鍵を開け、羽織っていたクマの毛皮を少女に掛けてあげた。
「貴方、人間の言葉が判るの!?」
「……ガウ!」
頷くと、彼女に初めて笑顔が浮かんだ。
「貴方のお名前は? 私はマリーよ!」
「……ガウ」
……何しろ、人間の言葉がしゃべれない。
「ガウっていうお名前なのね」
「……ガウ」
……どうやら私の名前は『ガウ』になったようだ。
「貴方は私を助けてくれるの?」
「……ガウ」
頷いてみせる。
「良かった……」
少女に抱き付かれる。
安堵した少女の眼からは、涙が零れ落ちる。
……しかし、何年ぶりの人肌のぬくもりだろうか。
意図せず、こちらも涙が流れた。
「痛たたた……」
歩こうとした彼女は、足をかばう。
長く牢に入れられて、足が弱ったのだろう。
「……ガウ」
「あ、乗せてくれるの?」
私は少女を肩に載せ、地下牢の階段を昇り、外にでた。
外には、ちょうど朝日が昇っていた。
「きれいね……」
「……ガウ」
これがハーフエルフの少女、マリーとの出会いだった。
☆★☆★☆
「痛たた……」
古城から少し離れたところで彼女を降ろす。
彼女の足には青銅製の紋章が描かれた輪が嵌められていた。
……魔法封じの輪か!?
とすると、彼女は魔法使いということになる。
――ガキーン
「きゃっ!?」
斧で足についていた輪を叩き割る。
青銅の輪は四散した。
「ありがとう、貴方凄い力ね……」
「……ガウ」
……少し照れる。
前世で非力だった私は、女性から力強いと褒められたことは、一度も無かったからだ。
「……出でよ! 我が眷属!」
彼女は怪しげな呪文を唱えると、地面に魔法陣が現れ、何者かが召喚される。
「ガウ!?」
……ひょっとして、とんでもない魔法使いでも開放してしまったのではないか?
私は初めて見る召喚魔法に、おののいていた。
……が、
――ポン
「ぽこ~♪」
出てきたのは、ちっちゃいタヌキだった……。
……まぁ、それもそのはず。
そもそも偉大な魔法使いなら、安易に捕まったりしないだろうしね……。
「ぽこ~♪」
「……ガウ」
私は小さなタヌキ、ポココともお友達になった。
☆★☆★☆
――パチパチ
焚火をして、食事の準備をする。
干し肉があったのだ。
二人に配る。
「硬いけど、美味しいね♪」
「ポコ~♪」
「……ガウ」
その後、少女マリーから話を聞いた。
彼女はハーフエルフという珍しい生い立ちから、人間によって親と引き離され、奴隷として売られる途中に、今度はゴブリン達の襲撃を受け、ゴブリン達に捕まっていたというのだ。
そのゴブリン達も、少女を他の人間に売る予定だったらしい……。
先ほど、そのゴブリン達を襲ったのが、私だということだったのだ。
「助けてもらったお礼に、何かしなければなりませんね……」
「……ガウ!?」
改まる少女マリーに少し驚く私。
「今の私に払える代償はありません。あるとしたら……」
「ガウ」
気不味くなりそうなので、お替わりの干し肉をマリーに差し出す。
「あ、ありがとう」
「ガウガウ!!」
今の私には、彼女の笑顔だけで十分だった……。
☆★☆★☆
(二週間後)
――ガタゴト
私達は人間の馬車に乗っていた。
近くの村まで行く予定だ。
マリーの変化の幻惑魔法で、今の私の姿は少年に見えるらしい。
ちなみにタヌキのポココは、馬車の中で消える魔法を使っている。
……なかなか侮れないタヌキだ。
ちなみに、彼女も耳を隠している。
バレたらいろいろと面倒だからだ。
馬車に揺られ、少しの間眠っていると……。
「お客様! つきましたよぉ~!」
下品な御者の声に目を覚ますと、周囲は山賊たちに囲まれていた。
「へへへ……、小娘が高く売れそうだな」
「けけけ、この男のガキは奴隷で売り飛ばそう」
舌なめずりをして、近づいてくる山賊たち。
……この、人間風情がぁ!!
私は前世の記憶から、完全に人間不信に陥っていた。
「ガォォオオオオ!!」
幻惑魔法の変化が解け、雄たけびと共にサイクロプスが馬車の荷台から飛び出す。
「げぇ! 逃げろ!」
「ひぃ~!」
――ガシガシガシ
私は逃げまどう山賊たちを、残らず拳で叩きのめした。
ボコボコになった山賊たちは動かない。
彼等の衣服とお金、そして食料と馬車を頂く。
なかなかの収穫だった。
……あとは狼の餌にでもなるんだな。
無言で山賊たちに礼を言う。
「ガウ!」
私は御者の席に移り、馬車を動かした。
夜道ではあったが、私の眼は夜目が効いた。
翌朝には、目的の村に着いた。
……目的はマリーの家を借りることだ。
まさか、森の中の洞窟に暮らすわけにはいかなかったのだ。
「通れ!」
馬車は無事に村の入り口を通過し、宿屋の厩に繋ぐことになった。
郊外に麦畑が拡がる長閑な村であった。
私とポココは喋れないので、マリーの後ろに着いて、宿屋の入り口をくぐった。
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