24.リアムとカーラの幸せ【最終話】

「リアム! ど、どういう事よ! リリアン様から聞いたわ! なんで……今結婚なんて……私はエリザベスお嬢様と……!」


イアン達の結婚式が始まる寸前、機嫌の悪かったポール様を落ち着かせるために話をしてからエリザベス様の元へ送り出した。そろそろ会場に入ろうとしたら、愛しい人が物凄い勢いで走って来た。あんなに早いのに優雅だ。さすがカーラ。


「全く、黙っていろと頼んだのに」


「涼しい顔するな! なんで侯爵令嬢を巻き込んでるのよ! しかも……お嬢様も喜んでるし……! ねぇ……私はもう要らないのかなぁ? 侯爵家には立派な使用人の方がいっぱいいるし……」


カーラは、目に涙を溜めている。しまった。カーラを悲しませるつもりはなかったのに。このままでは、ブローチを渡せないどころか振られてしまう。


私は、カーラを抱き締めて口付けをした。よし、涙が引っ込んだな。まずは話をするんだ。カーラの勘違いを訂正して、安心させないと。


「イアンも、エリザベス様もカーラを必要としてる。私と結婚しても、仕事を辞める必要はない」


「じゃあ! リアムが仕事を辞めるの?! やっと見つけた居場所なのに……!」


「辞めないよ。お互い仕事を辞めなくて良いのなら、私と結婚してくれるかい?」


「そりゃ……リアムの事が好きだし結婚はしたいけど……やっと仕事を覚えたところだし……」


「良かった! 愛してるよカーラ!」


言質はとった。

強く抱き締めるとカーラが暴れ出したが気にせず抱き締め、口付けをした。彼女ならすぐ私を振り解ける。本気で私の腕から逃れようとはしていないのだから、大丈夫だ。


最初は、どうして良いか分からずカーラに触れる事が出来なかった。そのせいでカーラを悩ませてしまった。きちんと話し合ってからは、遠慮せず彼女と触れ合っている。


「……私も、リアムが好き。結婚だって、したい。けど、どうやって暮らすの? 夫婦になれば一緒に暮らすでしょう?」


「私だってカーラと暮らしたい。けど、仕事だって大事だ。だから、半分ずつ負担を分け合おう」


「はんぶん?」


「ああ。私は仕事を引き継いだら、ポール様に雇って貰う。けど、今までみたいにずっと領地に籠る事はしない」


「……え?」


「みんな優秀だからね。仕事を任せられるような体制を整えた。ポール様の許可は取れているよ。私は、ポール様に仕えたいだけだ。カーラがエリザベス様についていきたいと思うように、私もポール様が主人なら仕事場はどこでも良いんだよ。領地に行かないといけないから常に一緒とはいかないけどね。今までみたいに遠距離でたまに会うのとは違う。私とカーラの拠点は同じ。月の半分……いや、もっと一緒に過ごせるよ」


「そっか……私は住み込みじゃなくても良いんだから……リアムの暮らす家に帰れば良いんだ」


「カーラは通いでも良いとイアンとエリザベス様の許可は取れてるよ。時間や勤務日数も相談に乗ってくれるそうだ。カーラに辞められるのは痛手だから、結婚しても辞めないで欲しいとエリザベス様がおっしゃっていたよ」


「ほんと? 嬉しい!」


「ただ、できればカーラも信頼出来る人を見つけて、仕事を分け合ってくれ。子どもが産まれれば、休まないといけないだろうし」


「……う、やっぱりそうなる?」


「カーラは、子どもを産みたくないのか? すまない。きちんと話をしてなかったな。跡取りが必要な貴族じゃあるまいし、子どもは授かりものだ。セバスチャンさん達のような夫婦も素晴らしいと思うぞ。私は、カーラと過ごせればそれで良いからな。子を産まない方が、エリザベス様に仕える上で支障はないだろうし、そうするか?」


「ちょ……ちょっと! なんでそんな簡単に決めちゃうの?! 子どもが産まれないと、別れる人だっているのに!」


「下らない貴族と一緒にするな。私は、カーラと結婚できればそれでいい。今後のことは、ゆっくり二人で考えよう。頼む! 私と結婚してくれ! もう、我慢の限界なんだ!」


「が、我慢って?!」


「カーラは、ずいぶんモテているよな? 私がいると分かってるのに近寄る男もいるし、貴族にまで求婚されたのだろう?」


「あれは違う! あの貴族様は、私を護衛代わりにしたかっただけよ!」


「そんな理由で求婚するか! カーラは色々無防備なんだよ! 妹君の方がよっほどしっかりしているじゃないか!」


「うー……それ、こないだも叱られたやつ……」


カーラの妹とトムさんは、妹さんの15歳の誕生日に結婚するそうだ。この間ようやくお父さんに認められたと、ボロボロの姿でトムさんが報告してくれた。


カーラの兄君は仕事で話すので、カーラにプロポーズする事も報告してある。兄君は、妹を頼むと泣いておられた。カーラがプロポーズを受け入れてくれたら、ご両親に挨拶に伺わないと。念の為、身体を鍛えておこうと思う。


私は、懐からブローチを取り出してカーラにひざまづいた。本当は、もっとロマンチックな場所を用意しようと思っていたのに。けど、もう待ってられん。逃してたまるか。


「り、リアム?! どうしたの?」


「カーラ、私は貴族ではない。貴族の真似事ですまないが、このブローチを受け取ってくれないか? 私と、結婚してくれ」


告白した時と違い、カーラはすぐにブローチを受け取ってくれた。


「色々考えてくれて、ありがとう。私もリアムが好き。リアム以外の人なんて、考えられない。これからも、よろしくお願いします」


「……やった! ありがとうカーラ! 一緒に幸せになろう!」


「うん。遠距離も楽しかったけど、やっぱり寂しかった。リアムともっと一緒にいられるなら、結婚も良いなって思ったの。ブローチなら職場でも着けられる。嬉しいわ。早速着けるね……って……コレ……!」


「エリザベス様をお守りするのなら、武器は多い方がいいだろう? ブローチを暗器として使えるように加工して貰った。いざとなれば、ブローチを壊してしまえ。ブローチよりも、エリザベス様の方が大事だ。もちろん、カーラ自身の身に危険が迫った時も遠慮なく使えよ。次はもっと良い物を買うから」


「あ……あははっ……婚約の証のブローチに暗器って……! し、信じらんない!」


「常に身に付ける大事な物だからこそ、武器を仕込むのに最適だろう?」


「最高! さすがリアム! 愛してるわっ!」


我々は、一般的な夫婦とは違う道を歩むのかもしれない。だが、そんな事どうでもいい。


我々が切り開く道の先になにが見えるのか、まだ分からない。だが、カーラと共に生きていけるなら……どんな困難でも乗り越えて……いや、困難をぶち壊して進もう。


前例なんて必要ない。


私達が、前例になれば良いのだから。

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ルビーのブローチを渡すまで逃しません みどり @Midori-novel

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