13.カーラの決意

私は、なんて愚かだったのだろう。


何も知らずに、徒歩で買い物に来るなんて。ソフィア様は身を守る術がある。彼女は、強いし今の子ども達だって簡単にあしらえるだろう。だけど……エリザベスお嬢様だったら?


優しいエリザベスお嬢様は、財布の中身だけじゃなくて付けているアクセサリーまで渡してしまうのではないか。そんな気がしてならない。


私の質問に、リアム様は驚いておられる。

そりゃそうか。さっきまで落ち込んでいた私が急にこんな事を言い出したら驚くわよね。


せっかく、慰めて頂いたのに。


頂いたジュースを飲むと、甘い味が口の中に広がった。


正直、このジュースとクッキーだけでさっき取られたお金を全て出す価値があると思う。リアム様が買って来て下さったのだから。


こういう時って、奢ってもらって良いのかしら?

分からないし、後でお金をお持ちしようかしら。……とりあえず、そのあたりはソフィア様かエリザベスお嬢様に相談するとして……今は仕事だ。


私は、すっかり浮かれていた。


大好きなエリザベスお嬢様が暮らす街。

お嬢様を守るには、圧倒的に知識が足りない。腕を磨くだけでは駄目だ。もっと知識が欲しい。


「リアム様、教えて下さい。あの子達は……孤児……なのですか?」


再度問いかけた私に、リアム様は色々教えてくれた。


「そうです。孤児です。住む家はありませんので、街のあちこちで寝ていますよ。さっきのように物乞いをしたり、時には盗みをしたりしています。あちこちに子どもがいるでしょう? こういったところで隙を見せると、さっきのように囲まれます。子どもを乱暴に振り払う人はあまりいませんからね。今後は気を付けて下さい。お伝えしてなくて、申し訳ありませんでした。けど、カーラさんならあの子達を振り払えましたよね?」


「そう……ですね。お嬢様の護衛をしていた時なら、振り払ったと思います。でも……」


「エリザベス様は、あの子達を放っておかないでしょうね。彼女は商売をしていましたけど、こんなところには来ません。ここに来る貴族はほとんどいませんよ。ソフィアは例外中の例外です」


確かに、お嬢様の護衛であちこちに行ったけど、ここに来た事はない。ソフィア様もリアム様も当たり前のように歩いておられるけど、ここは危険なのではないかしら?


しっかり気配を探ると、こちらを見定めようとしている視線が複数ある事に気が付いた。周りを警戒すると、気配が消えた。


面白くなさそうな顔をした人達が、ベンチから立ち去っていった。そうか、私は見られていたんだ。


「さすがですね。最初からそうしていれば、お財布を取られる事もなかったと思いますよ」


「そうですね。でも、もう良いんです。あれは勉強代だと思って諦めます。あの子達は子どもだけで暮らしているのですか?」


「色々です。大抵は、元締めがいるんですよ。中には子ども達に住処を用意する者も居るようですが、そこまでする者は稀ですね。子どもを保護する代わりに利益を奪い取る者が多いようです。さっきのお金も、ほとんど大人が巻き上げているでしょう。余程ひどい事をすれば捕まるのですが、犯罪者達はそのあたりを分かっていて、先程のように情に訴えるのですよ」


「……孤児院は、ないんですか?」


「ありますよ。けど、入れない子も多いんです。親が孤児院にお金と共に預けるか、コネがないと入れません」


「なんで……?」


コネが必要な孤児院って意味ないじゃない! エリザベスお嬢様は、子どもは領地の財産だっていつもおっしゃっているのに!


リアム様は、淡々と話を続ける。


「人が多すぎるんですよ。王都にある孤児院は3つだけです。カーラさんの言いたい事は分かります。少しずつ孤児院を増やしてはいるのですが、子どもばかりにお金を使えないのが実情なんです。バルタチャ家は、惜しみなく子どもにお金をかけていますけど……王都で同じ事をすれば子どもを攫う馬鹿が出てきます」


そうか。

うちは、エリザベスお嬢様やポール様の意に反した事をする人はあまりいない。もしいても、簡単に止められてしまうだろう。けど、王都は人が多すぎる。人が多ければ、悪い人だって混ざっているし、分かりにくくなる。


「……説明しておけばよかったですね。悲しい思いをさせて申し訳ありません」


リアム様は、申し訳なさそうに私に謝って下さった。私を気遣ってくれるリアム様が、素敵だし……やっぱり好きだなと思う。


……けど、今は仕事に集中しよう。


告白するのは、私がもっとしっかりしてからだ。その間にリアム様に恋人が出来てしまったら……縁がなかったと諦めよう。


仕事と恋を両立できるほど、私は器用じゃない。リアム様に告白できるくらいの余裕が欲しい。お嬢様を守るには、足りないものが多すぎる。

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