2.リアムの望み

高位貴族は、下位貴族よりも余裕がある為か優しい人が多い。私の貴族嫌いは治らなかったが、例外は多いのだと学ぶ事が出来た。身分に関係なく、友と呼べる人達が増えた。


中でも、十四歳から働いているイアン・ル・ブロンテは生真面目で面白い。


いつも妹を守る為に気を張っているイアンが気になり、ちょくちょく声をかけていると心を許してくれるようになった。


成人した時には、一緒に祝った。


今では、同僚の枠を超えた付き合いがある。


イアンは私の身分なんて気にしない。それどころか、彼はあまり人を爵位で呼ばない。公の場ではきちんと爵位を付けて呼ぶが、普段はファミリーネームかファーストネームに様を付けて呼ぶ。そんなイアンが呼び捨てにするのは、親しくなった証だ。


イアンは立派な侯爵家の当主だが、偉ぶった所は一切ない素晴らしい人物だ。


そんなイアンが、夢中になっている女性がエリザベス・ド・バルタチャ様。現在の私の上司の一人でもある。


仕事を片付けて久しぶりに王都に戻ると、イアンが宝石を大量に購入したと噂になっていた。同僚のソフィアと一緒に話を聞くと、好きな女性が出来たらしい。イアンの想い人は、私の大嫌いなリンゼイ子爵に鍛えられた女性だった。リンゼイ子爵の長男が婚約者の妹と浮気をして、結婚相手が変わったそうだ。花嫁を入れ替えた結婚式なんて前代未聞だと噂になっていた。妹はずいぶん常識がないらしい。下品なドレスで、嬉しそうに式に現れたそうだ。


性格が悪いと分かっているが、リンゼイ子爵の評判が悪くなるのは少しだけ気分が良かった。


リンゼイ子爵は、間接的に私の母を追い詰めた女性だ。だから、最初は親友が悪女に誑かされているのではないかと疑っていた。イアンは優しい男だ。婚約者に裏切られた女性を放っておける人ではない。


だが、私が間違っていた。エリザベス様は素晴らしい女性だった。イアンが惚れるのも分かる。


イアンの婚約者候補でなければ立候補したいと彼女に言ったのは、1割本気で9割冗談だった。純粋な彼女は、真っ赤な顔で震えていた。


ああ……この人はイアンのような真面目な男が相応しい。そう思った。


純粋な彼女が飢えた男達の餌食にならないように、イアンだけを大事にするようにと言うと、素直な彼女は、照れながらもイアンが大事だと微笑んだ。


良かったなイアン。

ずっと一人で気を張っていた友人を支えてくれる女性が見つかり、ホッと胸を撫で下ろした。


私は家庭を持つ事はないだろう。

どうしても、女性と親しくなる気になれないのだ。


そう、思っていた筈なのに。


私は今、持てる全ての権力を駆使して、一人の女性と添い遂げようとしている。彼女は強く、手強い。だが、最初に私に近寄ったのは彼女だ。


なんとしても、彼女と結婚したい。

そして、親友のイアンのような温かい家庭を築きたい。その為なら、持てるコネは全て利用してやる。

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