アラサー無職の俺の部屋に、異世界返りの幼なじみが女子高生としてやってきた。しかも俺も若返らせてしまったので、これから一緒に『イチャラブ』学園生活を送ります
イベント7 異世界帰りの幼なじみと休日デートするらしい。ずっと一緒にいてやるよ! ⑥
イベント7 異世界帰りの幼なじみと休日デートするらしい。ずっと一緒にいてやるよ! ⑥
「さて、それじゃそろそろ帰るか」
俺は連れ合いの少女――
少女といっても肉体が10代なだけで、中身は俺と同じく30代なのだが。
「待ってくれ、たーくん!」
彼女は懐から取り出した例の羊皮紙を眺めながら、慌てた口調で俺にこたえる。
「まだ時間があればだが、もう一か所だけ行きたいところがあるのだが」
「まあいいけど」
俺はちらっとスマホで時間を確認しつつ、告げる。
本当は帰宅後にバイト探しでもしようかと思っていたのだが(なにしろ、同居人が増えたため、元々乏しい貯蓄がガンガン減っているのだ)、まあ今日一日ぐらいは丸々潰しても大丈夫だろう。
「で、どこに行きたいの?」
「ええと、川沿いのデートスポット――ではなく、散歩コースがあるらしいんだ」
この町にそれなりに詳しい俺には、すぐにそれがどこかわかったので、彼女を連れて足を進める。
「着いたぞ。で、ちょっと悪いんだけど、便所に行ってきていい?」
「うん。それじゃそこのベンチで待っている」
俺は幼なじみに告げると、道を少し戻った先にある公園のトイレへと向かった。
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――綺麗な景観だな
私はベンチに腰かけたまま、のんびり眼前の眺めを楽しんでいた。
綺麗に清掃された石畳の向こうに、木でできた小洒落た柵が据えられており、その向こうには水面が広がっている。
川の上に反射した西日が、穏やかに揺れていた。
どこか懐かしい風景だ。
私はその感情を抱いた原因を考え、そしてすぐに理解した。
この景色は異世界でもよく目にしていたものだからだ。
流れゆく水面に映る陽光というものは、どこの世界でも共通する光景なのだろう。
その時、私の正面に影が差した。
横を向くと、二人の男が立っていた。
「おねえちゃん、ひとりィ?」
短い金髪を立てた男の方が、私を見下ろすように身を乗り出してきた。
「俺らも暇でさあ、よかったら遊びにいかなぁい?」
もう一方の男も同じような軽薄な口調で、私に尋ねてくる。
こちらはまだ寒い時期にも関わらず、Tシャツ一枚だ。浅黒い肌の上にはハート形の入れ墨が彫られていた。
「……連れを待っておりますので」
私の返事に二人はにやにや笑いながら、無断でベンチに相席してきた。
しかも、左右にわかれて挟み込むように。
こういう手合いは冒険者登録したばかりの頃、よくギルドであしらっていたので慣れているが、せっかくのいい日を台無しにしたくはないので、見逃してやることにする。
「失礼」
私は一言ことわって、席を立とうとする。
しかし、右側の男が私の腕をつかんで引き留めた。
「まあ待ちなって」
「………………」
「連れの男ならもう帰ってこねえぜ?」
私は男の顔を、初めてまともに正面から見据える。
「どういうことだ?」
「あー、実は少し前からおねえちゃんのことマークしててさあ、ほらすごくかわいいし」
左側の男がこたえる。
そいつは、へらへら笑いながら次のように告げた。
「一緒にいた坊主ならトイレまでつけたあと、ボコっちゃったよ~。だから、いくら待っても戻ってこないのよ~ん」
ドスッという鈍い音が、静寂に満ちた川べりの道に響く。
私の右拳が男の腹にめり込んだ音だ。
「げふぅ!」
相手は目を飛び出るほど大きく見開き、身体を九の字に折って、地にひれ伏す。
右側の男はしばしの間、何が起こったのか理解できない様子でぽかんとしていたが、次いで不細工な顔を歪め、大声で怒鳴った。
「こ、このくそガキが! 甘い顔してりゃ調子こいてんじゃねえぞ! 俺たちはここらじゃ有名な――ガァッ!?」
突如悲鳴を漏らす男。
舌を噛んだのだ。
最後まで言葉を待たず、私が男の顎に掌底を叩きこみ、強制的に臭い口を閉じさせたからである。
「……強化スキルを使うまでもないな」
地べたで呻く二人の男を見下ろしつつ、私は呟く。
「ゆ、ゆるしてぇ……」
情けない声を上げる金髪男。
たいしたキャリアもないのに少し早く活動していたというだけで絡んできた先輩冒険者たちも、そういえばこんな風にギルドの床にはいつくばって、許しを請うていた。
どうやら、こういう人間が暴力にさらされる側になると弱いのは、全世界共通らしい。
まあそんなことはどうでも良い。
それより、私には聞かねばならないことがある。
私は最初に叩きのめした男の前に立った。
前髪を掴んで顔を引き起こす。
「場所はどこだ?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっっっ!?」
「たーくんを襲ったというトイレはどこにある?」
その光景が頭に浮かび、自然と私の手に力がこもる。
「い、いだだだだだ、髪が抜けるぅ」
「言え」
「ゆ、許してください……実は嘘だったんです」
「なに?」
その時、背後で声が上がった。
「おい! なにしてるんだ」
振り返ると、たーくんが立っていた。
いままで見たことがない、険しい表情でこちらを睨みつけている。
「たーくん、無事だったの?」
「こっちに来い」
「え?」
「さっさとしろ!」
有無を言わさぬ怒声に、私はほとんど反射的に男から手を離し、彼の元へと駆け寄る。
「たーく――」
「行け」
私は、なにを言われているのかわからず、ただ彼を見返した。
対する幼なじみの顔は――思わず私が息をのむほど怒りに満ちていた。
たーくんは怒っていた。
それも激怒だ。
私がこれまでどんな粗相をしでかした時でも、ここまで明確に怒りをあらわにしたことはない。
「ごめんなさい」
ほとんど無意識に私の口がその言葉を紡いだ。
「いいから! 早くどっかへ行けって!」
どん、と肩を押され、たたらを踏む私。
私は二歩、三歩と後ずさると、背を向けて走り出した。
その場から逃げ去るように。
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