アラサー無職の俺の部屋に、異世界返りの幼なじみが女子高生としてやってきた。しかも俺も若返らせてしまったので、これから一緒に『イチャラブ』学園生活を送ります
イベント4 異世界帰りの幼なじみと部活見学するらしい。やめろ、そんなに激しくやると服が破けるだろ! ⑤
イベント4 異世界帰りの幼なじみと部活見学するらしい。やめろ、そんなに激しくやると服が破けるだろ! ⑤
――たーくん、やったね!
私は小さく拳を握り、心の中で幼なじみを称える。
「100m走、10秒01! 高校記録タイ!」
「走り幅跳び、8m11! 高校記録と1cm差!」
「棒高跳び、5m76? こ、高校記録を25cmも更新!?」
彼が競技を終えるたびに、どよめきが巻き起こる。
特に女子たちの興奮具合が半端ない。
「なにあの人、すごすぎない!?」
「どんな種目もこなせるとか、やばいよねえ?」
「かっこいい……♡」
掌返しが鼻に付くが、まあいい……もっと彼を誉めろ――
私は内心ほくそ笑む。
ただ、一つ残念なのは、彼がずいぶん手を抜いていることだ。
私は、周囲の反応になぜか困ったような愛想笑いを浮かべているたーくんを眺めつつ思う。
今のたーくんの身体能力は、昔彼の家で読んだ某格闘漫画の
もっと突き抜けた記録を出してしかるべきなのだが、まるで
「すごいですね彼……」
同じく傍らでたーくんを眺めていた
「わたくし陸上には詳しくないのですが、なにかとんでもない事態が起こっていることだけは、わかります」
「まさに私の描いた図の通りになっていると思わないか?」
私は腕を組んで、呟く。
「あのイラストのことですか?」
「そうだ。ひたむきに部活に取り組む男子を陰から支えるマネージャー。最初はパッとしなかった彼も部で実績を上げるにつれ周りから騒がれ始めるが、そのとき初めて彼は気付くのだ。自分の成長は、いつも裏方で頑張ってくれている幼なじみのマネージャーのおかげだと――そしてある日、校庭の桜の木の下で………ああああああああ」
私は顔を両手で覆って、地面をゴロゴロ転がる。
「昔の少女漫画ならともかく、今なら下心ありありでマネージャーをやってる時点で、めちゃくちゃヘイトを集めそうな気がしますが……」
長谷がなにか呟いたが、私の耳には入らない。
「よし! 最後は砲丸投だ!」
顧問が叫んだ。
「か、監督!? 素人にその競技は危険では……」
「彼ならきっと大丈夫だよ!」
部長の制止を振り切り、自らたーくんに砲丸を渡しにゆく顧問。
「一緒にインターハイ全種目制覇を目指そうな!」
「……いや俺、体験入部なんですけど………………」
困り顔のたーくんを尻目に、顧問は彼の肩を抱いてキラキラした目で空の彼方を指さす。
完全に自分の世界に入っているようだ。
「たのもう!」
大声が上がったのは、その時だった。
少し離れたところで見物していた男子部員の一人が、大股で進み出てくる。
丸太のような太腿に、はち切れんばかりの胸板。
明らかに他の部員たちと風格が違う。
「俺の名は
彼がそう告げると、他の部員たちの間から、おおーっという声が上がった。
「マジかよ!? 砲丸投インターハイ記録保持者の猪俣さんが?」
「でも、あの
「いったい、この勝負どうなるのかしら?」
潮騒のようにどのめく生徒たち。
――面白い
私は地を転がるのをやめて起き上がると、腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。
たーくんは、なぜか諦めたようなため息を吐くと、渋々といった足取りで投てき場所に向かう。
場のすべての者が固唾をのんで見守る中、勝負が始まった。
まずは猪俣という部員が投げる。
「ふんっ!」
砲丸が放物線を描いて、地にささった。
「18m40」
おおーっと、どよめきが起こった。
ついで、たーくんの番。
「よ……っと」
砲丸は先程より大きな曲線を描――かなかった。
すぐ手前の地面に、ぽてんと落下する。
「ええと……4m52…」
しーん、と場が静まり返る。
「おおー、けっこういったなあ」
ひとり、たーくんだけが満足げに笑っていた。
「中学生並じゃん……」
誰かがぽつりと呟いた。
それを皮切りに部員たちがひそひそと話し始める。
「拍子抜けすぎだろ……」
「今までのはなんだったんだよ」
「もしかして記録係とグルだったんじゃ……」
批判的な言葉が飛び交う中、当のたーくんは涼し気な顔で私の元へと戻ってくる。
「……すまない、私のかけたバフの効果が切れてしまったようだ」
「あー、やっぱりそれかあ」
私は意気消沈して俯いた。
「たーくん、ごめん。最後まで活躍させてあげることができなくて」
「いや、もともと活躍とかしたくなかったし。まあ、ちょうどいいからこの辺で切り上げようぜ?」
「あのう」
その時、長谷が横手から声をかけてきた。
「迷惑系動画を撮るためにドッキリをしかけられた、という感じで、話をまとめられつつあるようですが」
長谷が眼鏡をくいっと持ち上げながら、ひそひそ話をする部員たちを示す。
彼らは、呆れた目や憤った目、さらには侮蔑や嫌悪に満ちた眼差しを私の幼なじみに注いでいた。
「ま、しょうがねえんじゃねえの」
たーくんは気にした風もなく、ひょいと肩をすくめる。
「あんな記録は、不正ってことで闇に葬ってもらった方がいいだろ。実際、不正だし」
「いや、よくないぞ」
ふいに、たーくんの両肩に後ろからぽんと手が置かれた。
顧問だ。
彼はくるりとたーくんを反転させると、正面から目を見据える。
「わしの目は誤魔化されないぞ……。君の実力は記録どおりのはずだ」
「買いかぶりですよ。ただの不正っす」
「……では、もう一度だけやってみてくれないか? ただし今度は全力で、だ」
「はあ…」
それで気が済むのなら、と、再び投てき場所へ向かおうとするたーくん。
「待ってくれ」
私は彼に素早く近付くと、首筋にタオルをかけた。
「暑くなってきたし、汗が出たら、これで拭くといい」
「いや、あと一回投げたら終わりだけど」
そう言いつつ、再び投てきポイントに向かうたーくん。
――よし、強化完了
彼の後姿を見送りつつ、私は魔法をかけ終えた手を静かに体の脇に下ろした。
スキル「無詠唱」でタオル越しにたーくんにかけたのは、もちろんステータス強化魔法だ。
ただし、先程とまったく同じではない。
つまり、重ねがけだ。
「それじゃあ、いきまーす」
のんびりした口調で告げるたーくん。
――びりびりびりッ
突如、そんな音がグラウンドに響き渡った。
いったいなんの音だ、と部員たちが訝しむ中、たーくんが砲丸を投てきする。
彼の手を離れた瞬間、手のひら大の丸い球がかき消えた。
――どごおおおんっっっ
次の瞬間、はるか離れた校舎の方から轟音が聞こえてきた。
居並ぶ全員の目がそちらへ向けられる。
校舎の5階付近の壁に黒い穴が開いていた。
まるで砲撃を受けたように、穴からは蜘蛛の巣状のヒビが走っている。
「なにあれ……」
誰かが呟く。
「隕石かな?」
「さあ……?」
部員たちが不安げな声を上げる中、顧問がぽつりと尋ねる。
「それはそれとして、投てきの記録はどうなった?」
顧問はグラウンドを見回した。
しかし、砲丸はどこにもない。
再び、校舎の穴に目を戻す彼。
「…………………………いやいやまさか、そんなことは」
ははは、と乾いた笑いを浮かべる。
顧問の発言に、部員たちも、まさか、という顔で、たーくんに視線を戻すが、まさかではないのだ、ふふっ、私の重ねがけ強化でステータスの限界を超えたたーくんの
「きゃっ!」
突然、すぐ脇で悲鳴が上がる。
長谷が顔を真っ赤にして、指さす先には――
ほぼ全裸のたーくんの姿があった。
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