アラサー無職の俺の部屋に、異世界返りの幼なじみが女子高生としてやってきた。しかも俺も若返らせてしまったので、これから一緒に『イチャラブ』学園生活を送ります
イベント1 異世界帰りの幼なじみが裸エプロンで朝食を作って、俺を起こしに来るらしい②
イベント1 異世界帰りの幼なじみが裸エプロンで朝食を作って、俺を起こしに来るらしい②
私は無言でたーくんの返答を待ち続けた。
――もし拒絶されたらどうしよう
膝の上で揃えた手が震える。
異世界での生活があまりにも長期に渡ったため、かつての日本での出来事はほとんど記憶に残っていない。
でも、彼との思い出だけは、今も私の脳裏に鮮明に刻み込まれている。
魔王軍との戦いで、私はいくたびも死にかけた。
その
私が魔王を滅ぼして、いま無事にここに座っているのは、すべて彼のおかげだ。
――でも、それはあくまで私の方の話である
たーくんにはたーくんの人生があり、私はその邪魔をしてまで自分の願いを叶えたいとは思わない。
なので、彼に拒否されたら、すみやかに去るつもりだ。
勇者らしく。
……まあ、あまりの悲しみに、攻撃魔法を周辺にまき散らすぐらいしてしまうかもしれないが。
「あの時さ」
ふいに、彼が口を開いた。
「あの時、俺を突き飛ばしただろ?」
私は素早く記憶を探る。
たーくんに暴力をふるったなどということは、自分が覚えているかぎりないはずだった。
いや、一度だけ――
「中学生の時のこと?」
「そうだ。あの日屋上に現れた、へんな歪みみたいなのが、いま思えば異世界へのゲートだったんだろ?」
あの日。
中学3年生だった私は、たーくんを屋上に呼び出した。
勇気を振り絞って、自分の想いを伝えようとした瞬間、あの異世界への転移ゲートが突如として現れたのだ。
「あの時、おまえが俺を突き飛ばしてくれなかったら、俺の方が異世界に飛ばされてたんじゃないか? というか、いま思えば、あのゲートって、俺のことを狙っていたような気がするんだが」
そう。
転移門は、明らかにたーくんを狙って動いていた。
――助けなきゃ
そう思った時にはもう、私は彼を勢いよく突き飛ばしていた。
結果、たーくんはギリギリでゲートとの接触を免れ、逆に私は異世界へと飛ばされることとなった。
「俺の身代わりになったんだよな?」
「……本来、勇者の資質を持つたーくんが召喚されるはずだった。だが、誤って私を転移させてしまったがために、適性のない私が勇者の役割を担うこととなった」
「で、20年戦い続けたってわけか……」
彼はじっと私を見つめる。
「わかった。一緒に高校に通うよ」
「え?」
間の抜けた声を上げる私。
聞き違えか? はたまた、あまりに願望が強過ぎて、幻聴を聞いたのだろうか?
「おまえと一緒に学園生活ってやつを送るよ」
私の心の声が聞こえたかのように、たーくんはもう一度繰り返した。
こちらの目を見据えながら、はっきりと。
夢じゃない。
これからたーくんと学校に通えるんだ。
それを認識した途端、私の中で歓喜が爆発した。
「たーくん!!!!」
私は叫びながら、彼の腰に抱きついた。
「お、おい」
「たーくん、たーくん、たーくん――」
何度もそう呼びかけながら、頬ずりする。
**************************************
――やれやれ、しょうがねえな。
俺は、自分にしがみ付く
こいつは俺を助けてくれた。
もしあの時、彼女が突き飛ばしてくれなければ、俺が異世界で、彼女の味わってきた20年間の苦役を背負うはめになっていただろう。
場合によっては、魔王軍との戦闘で命を落としていたかもしれない。
だから――
「今度は俺がおまえを助ける番だよな」
俺の言に、梢は顔を上げてこちらを見上げる。
「本当にいいの?」
「ああ。むしろこっちから頼みたいぐらいだ。俺のせいで失っちまったおまえの青春を取り戻すための手伝いをさせてくれよ」
その言葉を聞いた瞬間、切れ長の瞳に玉のような涙を浮かべ、梢はさらに強く俺にしがみついた。
「たーくん、たーくん、たーくん――」
「わかったから、とりあえず落ち着こうぜ? まず、転入先の学校名を――」
――ピンポーン
ふいに玄関のチャイムが鳴った。
「
叫び声と同時に扉をドンドン叩く音が響いてくる。
「あら、鍵が開いてる?」
がちゃ、とドアが開いた。
「あ」
梢がいまだに俺の腰にしがみついたまま、声をもらす。
「忘れていた」
「なにを?」
そこはかとなく嫌な予感をおぼえて聞き返す俺。
「そういえば、昨晩部屋に入る時に、扉の鍵を破壊したままだった」
「だから、さらりと犯罪行為をカミングアウトするなや!?」
ドアの向こうには、この賃貸のオーナーである中年女性が立っていた。
「木島さん、朝からうるさいって、苦情がきてますよ。あと、なんか部屋から煙が――」
大家の言葉が途絶えた。
ぎょっとした眼差しをこちらへ向けてくる。
「誰なのあんた!?」
そういえば、今の自分は若返った10代の姿だった。
「なんで若い男がこの部屋にいるの? 木島さんは?」
「い、いやちょっと事情があって――」
「しかも、若い女の子を連れこんでる!?」
「い、いや、彼女はこう見えても30代――」
「い、イメクラとかいうやつ!? 不潔よ! っていうか、本当に木島さんはどこなの!?」
「いやだから――」
ふいに大家が目を丸くして固まった。
俺は首をぎぎぎぎっと回して、彼女の視線の先を追う。
大家は居室の中央にデーンと据えられた例の囲炉裏を見つめていた。
「はぁぁぁぁ!?」
いまだに元気よく煙を出し続けている囲炉裏を見て、驚愕の声を上げる大家。
タイミングを見計らったように、遠くから消防車のサイレンの音が聞こえてくる。
どうやら煙を見た近隣の誰かが火事と勘違いして通報したらしい。
「……梢」
「なに」
顔を上げてこちらを見る幼なじみに、俺は静かに告げた。
「学校に行く前に、今日はとりあえずこの部屋から脱出するのが難しそうだ……」
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