第34章 探偵の悪者アジト調査記録
「恋、それ取ってくれないか」
「この本ですか?はいどうぞ」
山井探偵事務所。探偵の山井純と助手の川崎恋が2人で切り盛りしているここで、2人は仲睦まじく暮らしている。
ピンポーン
「おっと客か」
インターホンが鳴り、仕事モードへと切り替える2人。
「お父様!?」
「浅男さん」
来た客は知り合い。というか恋のお父さんで、恋がいるこの事務所にお金を出している川崎浅男。
「恋。安心したよちゃんとしてて。恋ももっと帰ってきていいんだよ。妻も使用人も皆、無事な顔を見たいと思っているんだ」
「気が向いたら帰るよ。帰ったら皆拘束してきて億劫で。嫌ってほどじゃないから安心して」
親子間の仲は全く悪くない。ちゃんと幸せな家族だ。
「恋、たまの家族の再会だ。私は席を外すから、積もった話でもしなよ」
「いや、恋が目的というわけではないんだ。れっきと探偵に依頼をしにここに来た。だから、2人でいてくれると助かる」
客かと思ったらお父さんで仕事モードからいつものモードへと戻っていたが、仕事であることを聞き仕事モードへと変わる2人。
ソファに案内し、依頼の内容を聞いていく。
「私のグループ会社が岐阜の山奥で、開発した製品のテストをやっていたらしいんだが、その時何やら不気味な大きな音を聞いたらしい。しかもそれが断続的に鳴るといっていた。その会社の社長は知り合いなのだが大のホラー嫌いでね、怯えてしまっていてその製品のテストが全くといって進められないようなんだ」
「野生動物とか、天気の音とは違った」
「と言っていたよ。この世では聞いたこともないような音がでていたらしい。専門家に尋ねてみたはいいものの、音の情報が不足していて調べることができないらしい」
調べることができないと言っても、専門家にとってメジャーなやつなら流石に分かる気もする。そういうことは根本的に違う音。
「そこで依頼したいのが、今音がでているかを調べてほしい。出てないのならそれを伝えて安心して貰う。出てるのなら、その原因まで突き止められたら嬉しいが、専門性あるだろうからそこまではいい。その音を取ってきてほしい。そしたら専門家に調べてもらえる」
「なるほど。それなら私達がお受けしましょう」
「それにしても、お父様はわざわざこんな依頼を?話聞いた限り、お父様が依頼しないといけないってのには見えないけど」
「その製品のテストと言うのが私の事業とも深く関わっているから。というのはあるが、彼を何とかしたいというのが一番大きいのかな。私も彼には昔世話になっていてね。返したいんだ恩を」
「お父様らしい」
「恋からそう言われるのは、嬉しいものだな」
父親のことを良い様に見ている娘がいたら、そりゃ嬉しいだろう。
「ああそうだ。依頼料だが、これでよいか?移動の費用なども踏まえて考えたが、不足があったら伝えてほしい」
「うぉっ!?不足だなんてそんな。むしろ相場の倍はありますよ」
「そうか。まあ今回の任務はなかなかにきついものだろうよ。その分としてくれればいい。それでも受け取れないなら、娘への小遣いとして余りを恋に送ってやってくれ」
「私だけがそうなるなんてそんなこと!純様が受け取ってくださいこの事務所の資金として」
「問題がないのならこれで契約といきますが、大丈夫ということでいいですね」
「もちろん」
書面が交わされ、この依頼を受けることになった。その後詳しい場所などを聞いて、そして帰ろうとした頃。
「ああそうだ。恋、写真を撮ってもよいか?恋の様子を伝えてあげたい」
「いいよ。なら純様も入りましょう。その方が今を伝えられますから」
「私が入らなくとも、恋の健康な身体を見せてあげればいいと思うぞ」
「撮りますね。こっち来てください」
「聞いてないな」
なんだかんだいいつつ、恋のもとに行き、仲良さそうな写真を撮る2人だった。
事務所内、見送った後に依頼について話し合う2人。
「不思議な、しかもこの世で聞いたこともない音って、どういうことなんでしょうね」
「割と自然現象でもそういうものは起きるらしいんだが、専門家も不明と来たか。そういうのだったらたとえ音源が無くてあやふやだろうが、確証は無いにしろ目星は立てられそうではあるが」
「尋ねる専門家も分からないとかですかね。専門家と言っても色々ありますから。どの分野かも不明だったんでしょうし」
「後は、音を聞いたところで専門家にも分からないもの。例えば個人が勝手にやったものだとか」
「魔族関係だとか」
「そう。それがありえない話で無いから困っている」
異少課の協力者としてやっているから、起きる事件数はおおよそわかる。割とあるんだよなこれが。特に山奥なんかだと、数年前に来て棲み着いたのが今になって見つかって通報されたとかもあるから。
「お父様は音の原因は突き止められなくても良いと言ってましたが、そこまできちんとやってあげたいです。魔族関係なら、音を取っただけじゃ解決しませんから」
「恋のことももっともだから取り組み自体はする。だが関係ない専門性が求められる可能性もある。日時の関係もあって、絶対に最後までやり遂げるわけではない。それで良いか?」
「はい!やっぱり純様は純様です」
「恋から投げてきたんだから恋が誇れ。私はそれに乗っただけだ」
「まあまあ」
「だが、魔族関係の場合倒すもしくは和解するまでする。情報だけ伝えて後異少課にやらせるのも考えたが、その場で倒したいな。あちらから攻撃を売ってくる可能性もある」
「私の出番ってことですね!」
「いや、恋の武器の力の反動で一定時間動けなくなるだろう?安全性が確保されてるならともかく、山奥という普通の獣がいるような場所だと恋一人にはやらしたくない。あと山奥で長居をするのはそもそも危険だから、反動回復の時間をそもそも設けたくない」
これまで恋が力を使った場所は町中ばかり、安全が確保されていた。でも危険な場所で恋が動けないと、戦闘能力皆無の純には守れない。
「誰か呼ぼうか」
魔族相手だとそもそも私達は専門家じゃない。魔族相手の専門家を呼ぼう。
「もしもし」
山井さんが電話した先は岐阜県異少課の上司飛田箕乃。異少課スパイを一緒に探そうの件で連絡先の交換をしてた。
「あ、山井さん。なんか久しぶりだね。何かあった?もしかして、スパイ関連の大事な話?」
「いえ、それとは全く関係がなくて。お宅の異少課を貸してもらうことってできます?お金なら出せる範囲で出せます」
「今すぐってこと?」
「そうです」
「私は貸して上げたくて、玲夢はともかく沖も多分乗り気になると思うのね。なんだけど、ごめんね。こっちの異少課がでかい案件にぶつかってるところで、それが終わるまでは貸してあげられないかな。従来の任務にも取り組みながらだから……短くても1週間。長いと1ヶ月ほどは無理だね。それでもよければ頼んでみるけど、別のところに当たって欲しいかな」
「なら良いです。じゃあまた」
「スパイの件でもよろしくね」
それを最後に受話器は切れた。電話を元の場所に戻して純は恋の方向に振り返る。
「駄目そうですか?」
「だな。こればっかりは仕方ない。別のところ頼ろうか」
「富山県の方ですね」
受話器をまた取り、電話番号を打ち込んで電話をかけた。
「うん?あぁ、お前らか。珍しいなわざわざ電話するとは」
「実はかくかくしかじかで」
「あーなる。こいつら全員連れてっていいぞ」
許可も取らず勝手に答えるそれが上司。流石にこんな感じで出されると戸惑う純。
「大丈夫か?いいのならありがたくもらうが」
「どうせ暇だよ。最近平和なんだから」
「それでいいのか。ま、じゃあ今すぐそっち行く。詳しい話はそっちで」
なんだかんだありつつ、とりあえず受けてくれるってことにはなった。
「恋、準備して出るよ。受けてくれると」
「良かったですね純様。受けてくれるとこ探しに右往左往しなくて」
「あ、そうだ場所。ちょっとあいつにでも聞いてみようか」
「純様?」
「いや、よくよく考えたら場所良く知らないし、そこまでの道も分からないだろ?詳しい人にでも聞いてみようと思ってな」
出かけの準備をしながら、スマホのメッセージアプリで質問していた。質問先は岐阜県関係者、でも異少課関係者は忙しそうなので、暇そうなあの人。
岐阜県異少課の協力者である、あの探偵達。
富山県警察署にたどり着いた探偵2人。そして異少課の部屋へと移動する。そのまま入って、皆とは反対側に座って話を始めた。
「それで、頼みたいことは簡単に言えばまあ、とある依頼の護衛及び魔族の鎮圧だろうか。詳しく話すよ」
この前考えた、依頼の不思議な音に魔族が関わってるかもしれないから、戦力的な問題で一緒についてきて欲しいこと。そしてその他細かいところなどを逐一伝えていった。
「岐阜県ですけど、私達が倒して私達で処理しちゃって良いんですかね?」
「倒したあとは岐阜県の方に任せる予定。まあそこは私達には何にもできないからそこまで考えなくても良い」
「いないかもしれないんですよね。絶対いるんじゃなくて」
「今の情報だけじゃいることもいないことも否定できないからな。それは確かにそうだ。どちらにせよ、拘束した時間分のお金は払うよ。ただ働きなんてことにはしない」
「分かりました。俺は全然問題ない」
「師匠に続いて、ここでゴロゴロ過ごすだけよりは」
「やりましょうか」
特に問題なく、手伝い人の確保ができた。これでようやく準備が終えられた。
一方その頃。
「風かわ〜」
「鬱陶しいやめろ髪いじんな!」
岐阜県にある幸と風の探偵事務所。今はお客さんもいなく仕事もなく、2人で……多分いちゃついてる。
幸が風の髪の毛をワシャワシャして癒されて、そして風が嫌そうな顔している。
トゥルン
「ん、ほい。依頼か?」
スマホが鳴ったので近くにおいてあった幸のスマホを取って渡す風。そして内容を確認する幸。
「えーっと、あっ!見てみて風ほらこれ」
「山井って、あれか富山県の」
「私たまに話振ってるんだけど、逆に私に話してくれることなくて。私頼ってくれるんだって嬉しくなっちゃった」
「良かったじゃん。で、それで場所は……ここなら知ってるな」
「うん。あそこだなって分かるよ。良かった教えられる。手助けできるっ!」
嬉しさでテンション高い。
「それにしても、こっちまで来るって、大きい仕事なんだろうな。こういう大きい仕事、結構入るようにしたいな」
「大きい仕事……そうだ風!」
バンと机を叩いて風の近くに急に詰め寄る。あまりの近さにたじろぐ風。
「近い近い。それで?」
「私達も手伝おうよ〜。いいでしょどうせ依頼来ないし。人なんて多いほうがいいよね」
「うん……迷惑かからない?」
「大丈夫。私が何とかする。ねね、風も一緒にしよーよ」
山井さん達に会いたい。一緒に仕事したいという願望を叶えるためのやり方。まだ現実的に行えそうなのがそれだった。
「ま、やってみれば」
「ありがときてくれて。そうだこのこと伝えないと。行く準備もしないと行くよっ!」
「はいはい」
なんだかんだいいつつも、話を聞いて付き合ってくれる風。それは山井さん達を助けたいと言うよりは、幸がやりたいならといったのが正しかった。
「じゃあとっ!つぅ……」
「風ー!」
そして立ち上がろうとした途端足をぶつけて痛める不幸な風だった。
富山県異少課。今から依頼の場所へ行くところ。探偵2人は行く準備をしている異少課メンバーを待っていたところだった。
「そういや、おっ来てる来て……」
「ん?あぁ……まさかこうなるとは、予想外でしたねどうします?」
スマホを開くと先ほど岐阜県の探偵達に送った行き方を尋ねたメッセージが返信されていることに気がついた。ただ、その内容はちょっと予想していたのとは違うもの。
『私達も暇だから着いてく。直に教えるよ。警察署で待ってるから』
「何勝手に決めてんだ」
予定を普通に崩してくるあちら。こういう予想外のことをしてくる存在に純は頭を抱え、恋は苦笑いしてた。
「一旦直に話すか。どうせ警察署に来るんだ」
「道教えてくれるのはありがたいですけれどね」
倉庫のワープする扉を使って岐阜県警察署までやってきた。本来ならここから今回の場所までもう移動するが、さっきの岐阜県の運ゲー探偵のせいで予定は狂った。
すでに着いてるらしい2人がいる場所まで移動。そして見つけた。
「あ~久しぶりー」
「急ですみません」
笑顔で手を大きく振ってる幸と、その隣で軽く頭を下げている風。
「えーっと確かあなた達は、誰だったっけ?あったことはある覚えてるよ。ごめん名前覚えてなくて」
「確か、富山県の異少課の方達。ほら、交通標語のとき会った」
岐阜県探偵達と富山県異少課との関係性は前、スパイを探すための調査として交通標語を考えるという名目で一緒になったとき以来。絡みは実質無いに等しい。
「こっちも、あんまり思い出せないなー」
富山県側もそのためちゃんとどんな人だったかをちゃんと覚えてはいなさそう。
「岐阜県異少課の協力者。山井さんのポジションって言ったら分かりやすい?それで私が運ゲー探偵福野幸。それでこっちが助手の日方風。助手って言っても風は私より推理力あって凄いんだよ〜」
覚えてなさそうだったので一旦自己紹介。岐阜県組が自己紹介したので富山県組も続いて自己紹介。そして
「それで、話しそれたがどういうことだ?場所を尋ねただけなのに一緒に来てもいいかって。教えてくれるだけで良かったんだが」
「まあまあまあまあ、だって道案内なら直でするほうが的確でしょ?それに、私山井さんに憧れてるもの。一緒にしたいな〜って思った!」
「風は良くも悪くも個性派だから、正当派で能力の高い山井さんに憧れてるんです」
「そうそう。運ゲー探偵って肩書は気に入ってるけど、それはそれ。運前提でしてること運関係無くしてたら凄いよ」
「そうそう。純様ってやっぱりすごいんだよね〜私純様の助手やれて幸せだよ〜」
幸達による純褒めに乗っかって純様を褒める恋。純のことを気に入ってる3人で話が勝手に盛り上がってる。
「おーい、話逸れてる話させろ。恋も、その話は終わりはいっ」
「でも、私が一緒に行きたい理由さっき言ったので全部だよ。あ、風は私に着いてきてるだけ。」
「いや勝手に着いて行きたいと言われてもな」
「お金とか取らないし、もちろん交通費も自費で出すから。それでいい?少なくとも連れて行くメリットはあってもデメリット無いんじゃないかな」
「いや、そこまでして着いていきたいのか?友達がこの県に観光行くからじゃあ案内するわのノリじゃないんだぞ。私達は仕事しに行くこと理解してるか?」
たとえ好きだとして、仕事しに行くのに付き合える。純には理解ができなかった。
「分かってるよ。でもさ、共同作業って、良くない?」
「思っている以上に幸は山井さんに憧れてますよ。たまに会話に出してきます」
「私もさっき話してて、そう思いましたよ」
「えー……」
単純に幸の考え方が純の想像を超えていただけであった。
「それでどう?」
「俺からもどうか、よろしくお願いします」
「いや、連れてくことに問題があるわけじゃないし、人数の問題も7人が9人になるぐらいなら今更感もある。だけどさ、よくやるよ」
「これって褒められたってこと!?あの山井さんに?」
「流石に微妙では」
「まあいいさ。ちゃんと仕事手伝ってくれるのなら着いてきてもいいよ。半分お金出す」
正直なところ、断る理由が無い。少数精鋭がいいと言うわけではないし、邪魔になるわけでもない。それに対し戦力は増加する、探し物の効率が良くなると、メリットだけはある。
ここまでの理由と、あとさすがのクールな純でもここまで慕われると嬉しくなったのもある。
「「やったー!」」
「仲いいな」
ついてきても良いとわかってハイタッチ。仲いいなこいつら。
「というわけで、こいつらが着いてくるんだと」
「目の前で見たわちゃわちゃ楽しかったです」
わちゃわちゃか。
案内されるがまま、バスを使って目的地付近までたどり着いた。
そのまんま、山道を登っていく。世間話しながら登って途中休憩入れて。そして登っていた最中。
「それでさ〜」
ぐわぁー……うぅーん。
「今の声!」
「私達も聞こえたよ」
「すみません純様。準備ができてなくて」
登ってる最中、聞こえてきた不気味に響く謎の声。それは少しの間聞こえて、そして聞こえなくなった。
「聞き間違いとかじゃなくて、本当に不思議な謎の声があったんですね」
「今の、何の音だと思う?」
「分かんないなぁ。風の音とか木々が倒れる音とか、そんな簡単な音とは違いそうな震え具合と伸びだったから」
その音は一瞬ドンと聞こえる感じではなく、伸びて震えて短時間ずっと聞こえてた。自然現象の音にしてはやっぱり違うような感じ。
「やっぱり、何かの動物」
「だと思うかな。鳴き声とか、そんな感じに聞こえたよ」
「もう一度聞けたらいいが、まあいい。とりあえず私達がやることは音の調査だ。恋は音がいつ来てもいいように録音の準備。他の皆、特に君達は武器をすぐ取り出せるように。魔族か凶暴な動物。ありえない話じゃない」
「とりあえず、音の聞こえた方に調査に行こうか」
「道に迷っても、最悪私の瞬間移動で元いた場所まで戻せます」
「聞こえてきた方向は、多分あっちだろうが」
とりあえず、音の聞こえた方向へ。道を外れて進んでく。
ここらの木が大きくて葉が日を遮る。その結果森が薄暗くなり不気味さにより一層拍車をかけていた。
ぐわぁー……うぅーん。
「今の取れた!?」
「バッチリです」
また聞こえた音。純に聞かれて親指を立てる恋。
「とりあえずこれで一応は依頼完了というわけだが」
「最低でも音がどこから鳴ってるかは確認したいし、原因が突き止められるなら突き止めたいな」
「探偵だもんね」
依頼自体は音さえ取れればそれで良いみたいなやつだったけど、流石にここでじゃあ帰りますかとUターンするような子たちじゃない。
「予想はしてたが、長くなるかもな」
「私達は心配しなくても」
「帰ったところであの部屋でダラダラしてるだけなので」
「そうそう。それならこういうことシておきたいという」
異少課の子達ももちろんそれに乗っかる。
「ありがt」
「くぁっ!」
「風、大丈夫!?」
「ったぁ……」
お礼を言おうとしたタイミングで風の不幸により足滑らして風がこけた。いまいち閉まらない。
「これは……」
「明らかに近づいてそう?」
「何かいますって言ってるようなもんだね」
そして進んでいくと、あるところから奇妙なことになっていた。少しずつ、地面に生えている草が荒れていき、落ち葉がグッシャリとしていたり、木々が一部倒れていたり。
それがだんだんと進行していくもんだから、たまたまそうだったっていうのを否定する。
そして
「これ見てよ!」
「魔族説が濃厚かな」
「これはそうですよね」
「この爪の大きさ。大体付けたものの大きさ分かるけどでかそう」
幸がたまたま何となく振り向いたときに木についた爪痕を見つけた。間違いなく何かがいる。
爪痕から見て独特な爪を持っているはず。知らないだけの大型動物とも考えられるが、魔族関係な気がしてならない。
「私達は魔族と戦うことはほぼないといって良いんだけど、山井さ。あ、そうだ本職がいるじゃん。これぐらいの大きさだとして、魔族としては普通なの?」
「会った魔族の中では大型ですねこれ」
「魔族といってもピンからキリまでだけど、よく戦うのは身長の少し上ぐらいのだから、これぐらいだとね」
「もっとでっかいのと戦った事自体はあるから。だからま、これも大丈夫」
この爪がある高さは地面から2.5mほどの高さ。魔族として見てもこれぐらいの大きさならでかいほう。
温厚な平和的解決を図れるタイプなら問題ないけど、戦いになったら苦戦するかも。
「構えて。あの奥」
先頭を歩いていた恋が急に立ち止まり、皆を止める。そして奥に見えるものを指さした。
「あれは……」
「魔族だね」
「私も何となくそっかなーとは思ってたけど。やっぱりあれ魔族なんだ」
奥にいたのは予想通り魔族。大きな体をしている。
「ちょっと、怖いかな」
「私もだけど。でも私達前の強い幽霊だって倒せたから。ね、風」
戦い慣れている富山県の探偵達とは違い、岐阜県の探偵達は一般的な探偵。
異少課の協力者をやってるとはいえ、前線には全く出ていかず、戦いなんて慣れてもいない。前の幽霊の件ぐらい。
しかも、2人にとって初めて生で魔族を見た。協力者である以上知識やらはあるけど、生のを見たのはこれが初めて。
むしろ、探偵としてやってるくせに戦いまくって場馴れしている富山県の2人がおかしい。
「とりあえずは、アレが人類に害があるかどうかを調べてからだな」
「アレが原因だとして、それで終了は駄目ですよね?」
「流石にそこは調べておきたい。少し離れてるとはいえ、戻ってきたどっかの企業の方を襲う可能性がなくはない。もちろん無害ならそれでいいが。危険かを調べて、危険なら無力化する。そこまではな。恋もそうしたいだろうよ」
「分かっちゃいます?この依頼は中途半端に終わらせたくないから。ちゃんとやること全部やって完遂したいの」
これの依頼人がお父さんだったから、それでいつもよりこの依頼に入れ込んでいる。ちゃんとしたいという気持ちにかられている。
でもそれが悪いことじゃないから、純はそれを容認してちゃんとできるよう進めていた。
「バレないように一旦近づこう」
「ね、いこっか風」
「戻ったか」
魔族だと知ってちょっと緊張していた幸だけど、いつの間にかそれは解けていたみたい。今の目は依頼をきちんと遂行しようとする探偵の目だった。
木を使って、あの魔族に気づかれずに近づいていく。
「アレって……んー……」
「気になるものでもあったか?」
「ありはしましたけど、近づいてみないとよく分かりません。遠くてくっきりと見えなくて」
恋がなんか気づいたみたいだが、それが何なのかが恋を含めてその時点では誰にもわかってない。一旦それは流してそのまま近づく。
「ここは人里離れた場所だから、こんなことになるはずがないんだが。誰かいるっぽいか」
近づいてみると色々と分かった。まず気性が荒いのかなんか、結構激しく動いてる。
そんなのよりも何も気になったのは足。前の右足になんと矢が突き刺さっていたのだ。
「誰かが狩ろうとしたってこと、私達みたいに」
「あるとしたら魔族同士の対決かもな。こんなところ狩人だって遠すぎて踏み入れない。そんなところに弓を使える人間がいると考えるよりは、ここらに出てここで暮らしている弓を使う魔族がいると考えたほうが現実味がある」
「そっか。魔族だからってあぁいう獣みたいな見た目ばっかりじゃなくて、それこそ人間みたいな感じのもあるんだった」
「そもそも幸とかが使ってる武器も魔族由来だし、弓という武器を使ってても違和感ないか。その着眼点無かった」
「助けに、行きますか?」
「痛そうだよね。矢が刺さって血も出てて……」
「繁や愛香が言いたいのも分かるけど、善悪がまだ分かってないのに、迂闊に近づくのは危険だよ。ただでさえ強そうなのに」
「獣とかが怪我してると、自己防衛本能とかが働いて気性が荒くなり見境なしに襲うなんてことはざらにあるんだ。麓の村に襲いかかって危害を加えたり。まあまあ見てきたよ」
「まあ……うん」
ちょっと今すぐ近づくのはあまり褒められた行動じゃない。今激しく動いてるのを見るとなおさら。
茂みを利用して、魔族に気づかれないようにできるだけ近づいてみた。
「これ以上は厳しいけど、ここまで近づけたら大丈夫かな」
「それにしても暴れてますね。大丈夫ですかね私達のとこに突ってきたりしてもおかしくないですよ」
「私の幸運で、防げるんじゃないかな。そんな不幸起こさせないよ」
「あてにしていいぐらいの幸運の力だから、そこは心配しないで良いです。俺の不幸も幸の前ではほぼ打ち消されますから」
暴れてて次どこ行くかの予測が立てられない。ここに突っ込まれると色々と面倒くさいことになるなと思ってたけど、幸のおかげで大丈夫そうな感じ。
「あの暴れようだと、和解ってのは厳しいかもな」
「私達の言葉を聞けなさそう。もし和解できたとしても、一旦戦って暴れてるのを落ち着けてからじゃないと」
「行く準備私はできてます。行きますか?」
「相手の背後から行こ」
「これだと仕方なさそうかな。あっちの指示に従うとはいえ」
まだ何もしてないとはいえ、してきそうな雰囲気。そもそも木に爪つけまくってる時点で凶暴な感じ。戦って勝つルートしかない。
「いたっ!」
「一斉に射ろ!撃て!逃がすな仕留めろ!これ以上の被害を出させんじゃねぇ!」
「はい!はぁっ!」
様子を伺って、いつ出るかの機を伺っていたその時。声が聞こえたと思ったら数人の人が魔族に対峙していた。
弓やら銃やら。全員が武器を持って構え、そして魔族に向かって撃ち込む。
ぐわぁー……うぅーん。
そんなことされたら魔族だって叫びをあげて、身体を回転させてそいつらに襲いかかろうとした。
こっちの全員はその急な状況に頭を追いつかせるだけでいっぱい。そこでその様子をずっとぽかんと眺めているだけだった。
「怯むな!奴の体力は低い!一気に攻めれば倒せる!絶対仕留めろ!これ以上被害を出させるな!」
「っ、はいっ!」
リーダーみたいな人の宣言に、部下のような人達が呼応する。凄い団結力。
そして
うぅー……ん。
蜂の巣にされた魔族は、襲いかかる途中で倒れてやられた。
「やりました!」
「まだだ。念の為心臓を破壊する。徹底的に殺せ。守るためにも」
リーダー格の男は倒れた魔族に近づき、自分の武器を魔族の死体に対して発射させる。
「これでいい。お疲れ様だな。被害は最少で食い止められた」
「ほんとです。ただ、屋良礼が……」
「気を病むな。仕方なかったんだ。丁重に弔おう」
そして、ぞろぞろと帰っていった。残されたのは魔族の死体だけだった。
「何だったんだ。今のは?」
「私達のことには気づかずに帰っていったみたいだけど……」
目の前でおきたことを呆然と眺めていた皆は、しばらくして茂みに隠れる必要もなくなり、立ち上がって話し始めた。
「あの刺さってた矢。間違いなくあいつらのだろうな。逃げられて追いかけて仕留めたといった感じか」
「でも聞いた感じ、あの魔族により結構被害でてて、なんなら死者まで出てたみたい?だったら、倒すのも仕方ないかなとは思うかな」
「それがだめだと言われたら、私達の立場が無くなる」
「うん。そうだね」
気にはなる連中だったけど、魔族をいたぶってるというよりはあの魔族により被害を出され、これ以上の被害を防ぐために倒しているようだった。ここで嘘なんてつく必要もないし、何より弔おうとしているのは演技でもなんでもなかった。
「それでどうするか?この魔族が音の犯人だろう。ならもうこの時点で、音事件の方は解決ってことになるが」
「確かに風!え、じゃあ帰り?」
「だったら私達、必要なかったね」
「倒してくれたあの人達にお礼言わなきゃ。もう、どっか行っちゃったけど」
「なら言いいに行くか?帰っていった方向追いかけに」
「え?わざわざそこまでしてもらうわけには。だって流石にこれで終わりなんですよね。なら帰って依頼完了を伝えにいってもらわないと」
「依頼完了の報告自体はあっちの都合もあるだろうから遅れて良いんだ。それより、なんか気になるんだあいつらが」
「まあ、そうですよね。だってここ……」
「この近くに集落なんてない。そして討伐のためわざわざここまで来たと考えてもあの魔族が麓で襲ってからここまで来たとは考えづらい。そもそもあいつらただ武器拾っただけの一般人じゃないなぜなら戦いの統率が取れすぎている。なんかキナ臭い匂いしないか?」
「まさか、あくどいことを生業にしているとか!?」
「元に異少課が前戦ったどっかの実験施設は、山奥に隠されて存在がバレないようしていたみたいだからな」
異少課の男子達が攻めたあの実験施設。
「もちろん勘だが、調べる価値はあると思うんだ。この魔族の方はあとに回す。どっちにしろ今すぐ処理はできない」
というわけで依頼とは別のことを始める皆だった。
そのまま進んでいくと
「開けてきた」
「うわー……えー……なにこれ」
「山奥にこんな建物構えてるなんて」
森が開けたと思ったらそこには立派な建物が構えられていた。3,4階はあり、横幅も広い。割と規模が大きい会社ぐらいの大きさ。
しかも廃墟とかではなくちゃんと使われてる。電気だって灯ってる。
「さっき戦っていた人数からしてそこそこでかそうなのは予想していたけど、まさかここまでの大きさとは」
「建物の名前は、書いてない?」
「入口付近に書いてあるようにも見えるけど、無理だなぁ」
「あの街灯邪魔だ」
建物について知るなら建物の名前を知るのが簡単だと思ったが、障害物の関係で知ることもできなさそうだ。
「調べてみたけど、地図アプリに建物が載ってない。いくらなんでもこの大きさなら大抵は乗るはずだから、秘密にしてあるっぽいか」
「やっぱりなんかきな臭いですね」
「でも、それこそ異少課みたいな正義側の秘密だってあるわけなんだから、まだ決め打ちするのは早いよね」
まあとりあえず、これから先は慎重に進まざるを得ない。どっち側だとしても、秘密にしてあることならそれがバレたなんてことになるのはあまり良くないことだ特に悪い奴らならどうしてくるか予想もつかない。
建物の周りを回っていると。
「うわぁ……」
「酷いことになってますね」
「これは本当に」
建物の一角の壁がえぐられており、そしてそこに赤い血が地面壁に大量に付いていた。
そしてそこにいたのはさっき会った人たち。
「屋良礼」
複数人で手を合わせて祈ってる。多分ここが屋良礼という人がやられた場所なんだろう。
「魔族の被害、これはもう。あそこまで恨んでてもおかしくない」
「こんなのにまたならないために、さっき死んだあと心臓を破壊してちゃんと……」
よく見てみると、地面に弓が落ちていたのが見えた。
「あの足の矢を、だったんだろうかな」
「こういうのを直で見てしまうと、やっぱりくってなる」
「うん。私も風と同じ気持ち」
そのまま見てると、長身の男が手を合わせて祈っているところにズカズカと入り込んでくる。祈っている人達を見下すように見下ろして。それに気づいたリーダー格の男が祈るのをやめて男を睨んでいた。
「退治できましたか。そんなところで何もせず何してんですか。終わったらまず報告。社会人の基本でしょうに」
「おいてめぇ。お前らが安全確認怠ったから脱走されてこんなことなったじゃねぇか。よく言えんなそんなこと」
「はぁ……全く。これだから脳内筋肉質は。ほんと頭に血が湧いて。暴力でしか解決策を知らない」
とりあえずバチバチにやり合ってることだけは分かる。
「こちとらお前らの起こしたせいで屋良礼が一人惨たらしく殺されたんだが」
「屋良礼ですか。聞いたこともない名前ですね。まあ私だって反省はしてますよ。こんな被害を出して、本部の人からどれだけ怒られたと思ってるんです」
「屋良礼は二ヶ月前ここに着いた新人のやつだ。警護のかたわら、お前ら研究者の雑用も好んでやってた変わったやつだよ。てめぇが知らないとは言わせねぇぞ」
「ああ。少しばかり役に立ってたあの子ですか。亡くなるとそれは残念ですね。後任を誰か用意してください。どうせあなた方、有事の際以外は何もしてないじゃないですか。ついさっきもネズミを見逃したんです。ネウス神から見放されても知りませんよ」
「けっ。てめぇがネウス神の何を知ってんだ。こちとら教典ばっちり読んでんだ。神を騙ろうだなんて、てめぇの方が見放されるんじゃねぇのか?」
「愚問ですね。ここまでアンダス団に貢献している私が、神に見放される?私のお陰でアンダス団は化け物の魔族を使えてるんですけどね。もっと考えたらどうですかあはは」
悪役みたいな高笑いをする男。
「まあ良いです。無駄な時間を過ごされました。さっさと死体を回収してきてください。死体だって今後の研究に役立つんですから」
「てめぇがアンダス団に貢献してようがなんだろうが、俺はてめぇのこと大嫌いだわ。研究ミスってぽっくり亡くなっちまえ」
「そうですか。何も考えられない脳内筋肉質に、なんと思われてようがいいですよ」
「チッ……。てめぇら祈りは終わりだ行くぞ」
言い争いは終わり、ぞろぞろと祈っていた人達がさっき戦い、魔族の死体がある場所へと歩いていく。そして言い争っていた長身の男は建物の中へと帰っていった。
「こりゃまた」
「なんか、凄いの見つけちゃった」
「アンダス団……」
前で起きてた喧嘩の内容を盗み聞きしたら、まさかの出来事。喧嘩してるっていう大枠の内容は正直いまどうでもいい。でも、途中で聞こえてきたのがこの言葉。ネウス神、そしてアンダス団。
これまで異少課が色々と起こした事件を解決するために動いた、異少課とは因縁がものすごく深い組織。
探偵達にとっても、岐阜県異少課から依頼されて、この組織から入り込んだ異少課のスパイを探してる関係で、間接的に関わっている組織。
そして、新にとっては親友を殺され、異少課に入るきっかけとなった仇。
ここにいる誰もの敵。それが潰すべきアンダス団。
「今度こそ制圧して、アンダス団に関する情報を手に入れて、絶対に潰してやる」
「師匠のためにも。手助けするよ」
「私達も、そりゃあね」
「魔族で弄んでるようで、全然好かない」
「私だって、悪が蔓延るのは嫌だから」
異少課組はこのまさかの出会いに絶対潰すと意気込んでいる。ただ、それに対して冷静に判断する探偵達。
「盛り上がっている所悪いが、そうやすやす簡単に潜入なんて駄目だ」
「この編成はちょっとした魔族対策で作成したものであって、こんな潜入を目標にして作ってないの。私はともかくとしても、私以外のみんなは戦えないか戦いに慣れてない。人数を考えたら突っ込むのはあまり良くないよ」
「この施設自体は大事だから、いつか潜入したりする任務が起きるはず。だけど、それをするのはもっと人を集めてからのほうが良い。聞いた話だけど、別の施設攻めるときは色んなところから複数集めたって聞いたから」
今のままここを攻めるにしては戦闘力不足が否めない。
「でもさ、今さっきの話聞いた感じ、警護の人達が今ちょうど死体回収でいないんでしょ?今行くのもありなんじゃないかな?」
「もしものことがあったら、瞬間移動で皆逃がせますから」
「だがな……恋はどう思う?私はそこらには詳しくないから、決めてくれ」
「純様……。私としては……」
「お願いします。ここは研究施設。早くしないと研究が完成して、もっと大きな被害が出るかもしれないんです」
恋のもとに頭を下げて頼み込む異少課達。こういうのに恋は弱い。
「私がそれなりに頑張るから、行こう。でも、私が退却すべきと思ったらそれで帰る。それは守って」
「分かった」
「甘いね」
「こういう裁定はあんま良くないんだろうけど、まあいいか。俺達も気合いを入れないと」
「うん。そうだね」
「とはいえ、正面からは避けたいかな。山奥にわざわざ作ってしかも警護の人もあんだけいて。こんだけセキュリティ意識高いとなると、防犯用システムだってあるよ」
「じゃあどこかの窓とかから入りません?」
「あ、あそこどうです?あの左側の方にある開いてる窓。そこからならその近く見えるし、何より近くの木に隠れられるから」
良い場所が見つかったのでその場所まで行き、中の様子を見る。
「大丈夫そうかな。少なくとも見える範囲に人はいないし、監視カメラとかも見つからないな」
「倉庫なのかな。ここは」
「そうっぽいね。いいじゃん。倉庫なんて人の出入りそんな多くないよ」
「よし、じゃあ行こうか」
窓に足をかけて中のほうに入っていった。
「うーん……あー……」
「ここの倉庫は、大したもんない。使えそうな情報も、何にもなかったですね」
「やっぱりこの奥か」
ドアノブに手をかけて、皆を集める純だった。
「っ、ノブが」
「皆隠れ、いやこんな時間じゃ無理」
ドアノブに手をかけたそのとき、そのドアノブに純は力を加えてないにも関わらずくるっと回転した。
つまり、誰かがドアノブをこの倉庫の外から回転させて、入ってこようとしていること。
それに気づいてもとき遅し。せめてもの抵抗として逆側に回そうとしても、ドアが開くのを止めることができなかった。
「うぁっ?」
「っ……」
中に入ってきたのは白衣に身を包んだ若い女性。その女性と目止めが合う。
純は一歩引き、その隣で恋は武器を取り出してどう動こうか模索している。悲鳴とかをあげられる前にとりあえず仕留めるかと。
「あなたたち、ここの人じゃないわね。さっき来た人を助けに来た人?」
「っ……」
「ちょっと待って。あなたたちが何者かは分からないけど、ひとまずは話し合いで終わらせましょ?目的が何かは知らないけど、私が悲鳴をあげてバレるの、あまりしたくないでしょ?」
恋が気を失わせようとしていたけど、それに対して逃げたり悲鳴をあげたりもせず、ただ対話をしようとする女性。その感じを見て一応武器をしまう。
「それじゃあ、話しましょう。あなたたちが何をしようとしてたのか、教えて。そう、この倉庫はめったに人は来ないから大丈夫よ。私が来たのも、物が見つからなくてもしかしたらで訪れただけだから」
「私達はむうぅ」
幸が正直に話そうとしていたけど、風に止められる。
「まあどうせ、ここを狙ってるのでしょ?さっき来てて捕まったらしい子達を助けに来たの?」
「それは……」
さっきの喧嘩のシーンでも言ってたネズミがどうのとやらだろうか。
「あら、知らなさそう。たまたま違うのが被ったってことなの?珍しいわね」
終始優しい口調で話してくる女性。その話し方に、段々と警戒心は薄れていった。
「言いたくないのならいいけどその装備、ただの子達じゃないわね。正直私はここ潰そうとしてていいわ。むしろそうして欲しいかも」
「うん?ここで働いてるんじゃ?」
「そうよ。自己紹介がまだだったわね。私は品見夜霧。ここの研究員として働いてるわ。よろしく」
「んー……んー……こんだけ話してるのに、誰かが来てるって気配はなし。一応は信じてもいいのかも」
「私は勘だけど、ここで信じなくてうんぬんとかよりは、話聞いたほうが良いんじゃないかって思ったよ」
他の人が来るまでの足止めといったわけでも無いみたい。ずっと見てたけど不審な動作もしてこなかったし、全面的でなくても信用はしていいかも。
「まぁ、さっきの感じ予想はついていたんだろうが、アンダス団と聞いて潜入して、場合によってはこの場で潰すといった感じだ。それで、潰そうとして欲しいと言っていたが、それなら協力してほしい」
予想されていたのもある。これを言ってもいいだろう。それに内部の協力が得られたら心強い。
「あぁ……やっぱりそうよね。アンダス団色々とやりすぎちゃってるもの。私も碌でもない研究の手伝い強制されてるのよ」
「自分の働くところなのに、よくそんなボロボロに」
「そりゃね。私仕方なくここいるだけだしね。なんならアンダス団自体あんまり好いてないし、あそこ終わった人ばかりだし。職場色々と終わってるからなんとか逃げられないかなって思ったのよ」
「そんな感じで」
「そうそう。協力ね、するわよもちろん。とはいってもできることだけになるけど。戦いとかはそちらにお任せするよ。私ができるのは……情報出すぐらい?」
「それでもいい。なかなか戦いに慣れてない人を出すのは酷だろう」
「その人数なら、勝機はあるかな」
「そうそう。私武器の力で、こんな感じ。透明になれるから、近くで見たり教えたりするわ」
「岐阜県の観音さんのみたいな」
女性が目の前で消えたり見えるようになる。透明になっているというのは観音玲夢の力にそっくり。
「あらそうなの?知り合いにそんなのがいるの。武器の中にはあっちで量産されているものなんかもあるらしいの。だからかしら」
「見えてないでしょ?どう?」
「おーこれはいけるな」
目の前で透明になるのを見て、これは強いと確信する皆。
「それじゃあ、警備の人どっか行ったのね」
「さっき脱走した魔族の死体回収行ってました」
「アレね。でも結構好都合よこっちにしては。正直ここは研究所だから、ここにいるのも研究員がほとんど。戦闘能力どころか武器を持っている人だって少ないわ。私はたまたま手に入れてこれ持ってるけど、でも戦えはしないわね」
「人数の割には楽と」
「うん。それでここをつぶすのなら所長を倒せばいいわ。ここの一番トップ。強さ的にもこれさえ倒せば後は何とかなるわ」
子分とひたすら戦って消耗するぐらいなら、親玉潰して終わりにしたほうがよい。そんなこと。
「私はこれが使えると言っても、戦うこと自体はできないから、そこはあなたたちに任せることになるわね」
「まあそこはまあ。こちらに任せてくれれば」
武器持ってるからって戦えるとは限らないのは当たり前。戦うことが必須の環境にいないとそりゃできない。幸とかと同じように。
「それじゃあ行くわ……そうだ。まだ名前聞いてなかったわね」
「うん。皆言おうか。上の名前だけでいいから」
「なるほどね。うん覚えたよ。それじゃあ、行こうか。そこまでの場所は私が案内するわね。小さな声で伝えるわ」
というわけで、ここを潰すための協力体制ができあがった。そして今度こそドアノブを回し、この倉庫から外に出た。
「そう言えば、あのとき話してたさっき来てて捕まった子って?」
「確かあの警備の人達の話でネズミがどうのこうのって言ってたけど、それかな」
研究員の場所のせいで部屋の中に留まってる。できることもないので気になることを聞いてみた。
「ついさっき、1時間ほど前にあなた達みたいなのが来てたの。警備の人をすり抜けて中に入ってきたけど、部長に見つかって研究した魔族を入れる牢屋に入れられたって聞いたわ。あなた達とは関係ないのよね?」
「それは本当に関係ないけど、大丈夫なんです魔族を入れる牢屋って」
「多分まだ大丈夫のはずよ。殺す気ならその場でやってるから牢屋に入れられたってことで、まだ利用価値があるからと殺してないはずよ」
入れられた牢屋は魔族がいるところとは違う別の場所。とりあえず死の危険はその人たちに起きてないよう。
「じゃあそれも助けなきゃ」
「それもそうなのだけど、優先的なのはそれより所長を倒すことね。倒さないと難易度さらに高くなってくわ。所長室と同じく電子式だからついでで電力室で開けることはできるけど、あんまり直接会いに行くのは避けたほうがいいわよ」
「そいつらを助けたいというのはあるが、流石にこの状況で助けにいけるほど簡単ではないだろうな。後回しでも問題はななそうだし、電力室で開けるだけに留めておこう。所長とやらを倒してから何とかしようか」
「そうですよね純様。バレちゃったら元も子もないですもん」
仕方ないといった諦めを含んだ感情で話す純。何してもいいのなら助けに行くのだが、今の状況じゃ仕方ないから。
「で、そこ右に電力室あるよ」
廊下を道なりに進み、ついに電力室までたどり着いた。
扉を開け、中へと入る。中には電気の配電盤があり、そこにスイッチがいくつも付いている。
「どれだ」
「違うやつ切ったら気付かれるよね。復旧のためにここ来ちゃうだろうし」
「そこの一番上が所長室の鍵。右斜下にあるのは牢屋の。後切っといたほうがいいのはあれかな。そこの右一帯にある監視カメラの。これで少しは動きやすくなるから」
「これと、これと。よし完了」
電力室での用事は終わり、これで所長室へと向かう。
電力室でいじり、そして所長室へと向かうとき。
「くそなんだ。今日なんだ色々と。何が原因だよ」
「それでどうするあいつら。今部長が対応してるとはいえ、人数的にもうちょっと出したほうがいいんじゃねぇか?所長は所長で今手が離せないとか言ってるし」
「警備の奴らはあんなんだし。ってかあの品見の奴の呼ぼうぜ。あいつ珍しく武器持ちなら何とかなるんじゃねぇか?」
「品見は……」
廊下で話してる研究者達。そしてその話に出て来た、ここにいる品見さん。
「あー……私ちょっと話してくるわね。私がどっか失踪したーなんて、そういうことに気づかれてほしくないでしょ?」
「まあ分かるが」
「大丈夫。わざわざここまでして、このことを話に行くなんて思ってないでしょ?あなたならなおさら」
面倒くさい別件が起きないことに越したことはない。
「何か話してた?」
「ちょうど品見の話してた。結局倉庫に無かったのかその感じ?」
「あー……探してる途中だったのだけど、ちょっとお手洗いにね」
元々倉庫に物を取りに来て皆と会っていた。そしてから皆と一緒に行動してるから元々のはもちろんほっぽりだしてた。とりあえず言い訳してここは乗り切っておく。
「まあそれは一旦後で良くて、それより重大な事件が起きてて、今朝に見つけて牢屋に入れてたネズミがいつの間にか出てたらしくて、部長が今対応で行ってんだ。でも流石に部長単騎は危ないから品見も行っとけ。持ってんだろ武器。あのネズミ始末しないと危険だかんな」
「いやいや。私の能力透明になるのだし、武器といっても全然殺傷能力ないやつだよ?ほぼないと同じじゃない?」
「いやでも何も持たない俺達よりはマシだろ。頼むよこれで活躍したら給料増やしてもらう交渉できるかもよ。こっちからも上手くつけるから」
「まあ、潰されないに越したことはないなら。俺もできることなら手伝うよ。透明なら気づかれずに妨害ぐらいならできるでしょ」
「じゃあ……やってくる?こんな感じで」
実演というわけで研究員の前で透明になってみせる品見。
「おー……あんま見たことなかったけどこれならいけるな。よし早く助けに。行ってこーい!」
「じゃあ行ってくるよ。音出さないから気をつけてねー」
「よし終わったよ」
「さっきやってもうこうなったか。知らんやつらだけど脱獄はできたみたいで何より」
「それで、捕まえに行くんです?」
「行くわけないでしょでまかせ。こうしたら透明になってるからで堂々といなくできるじゃない。ね?」
「さて、あんまり長話してないで進むか。目の前の研究員もどっか行ったみたいだし」
「着いたよ。この奥が所長室。どうせここにいるわ」
所長室のドアの前。ようやくたどり着いた。
「さあてここの元締めしばくか」
「みんな武器持った?大丈夫?」
「大丈夫です。そう言えば、山井さんとか福野さんとか、結局一緒に戦うんです?」
なんだかんだなあなあになっていたそこ。探偵組4人はどうするか。
恋はそもそも今までの経験的に戦うのに問題はない。問題があるのは他3人。
武器は持つものの戦いに全く慣れてない幸。そして戦う術をそもそも持っていない純と風。
「私はもちろん戦うけど、皆さんはどうします?」
「私的には前の山で戦った武士の霊みたいなやつのときみたいに後ろで下がっておくべきかなとは思うが。戦えないものがいても邪魔にしかならない。そんな気がしてな」
「うーん……私は……うーん……」
「幸。行きたいなら行きたいって言ったほうがいいと思う。言う分にはただだぞ」
悩んで髪の毛を指でいじりだす幸を見て、悩みの内容を的確に当てた上推してあげる風。長い付き合いのお陰でできること。
「ちょっと怖いし、あのときと違って私がやらなくても良いんじゃないかとは思うよ。でも、やっぱり何も動かずじっと待ってばかりってのは、私に合わない気がして。微力だけど、お手伝いさせて。一応、戦いの経験者ではあるから」
悩んでいたことに答えを出し、ちゃんと真面目に答える幸。前と違って他の人達が何とかできる今でも、やりたいと思ってる。勝手に純の仕事に着いてきた幸らしい回答だった。
「良いんじゃないかな。私はそう思うよ。皆的にも、良いんじゃない?」
「初めて会う未知数の人と一緒に戦うなんてのは、色々とやってますから。それに、絶対潰さなきゃ勝たなきゃなので。戦力が増える分に越したことはないです」
「はい決まり」
皆全く反対をしなかったので、幸も一緒に戦うことで決まった。
「良かったな幸。頑張ってこい。それじゃあ俺は外で待ってるから」
「風は来ないの?」
「幸と違って武器も何もない時点で」
「戦いに参加しろなんて言わないけど、いる分にはいいよ。多少自衛はしてもらうかもだけど。後ろ側で固まってもらえば全然守れるし。それに、私純様にはどっちにしろいてほしいんですよね。純様頭の良さで戦いどうすれば有利に進められるか気づいてくれますから。いたほうがいいです」
「意外とそうだったか。なら私はいるが、どうする?どっちにしろ私がいる時点でいてもいなくてもほぼかかる迷惑は変わらんが」
「じゃ、じゃあ。せめてその場にはいたい。幸のこと、ちゃんと見ておきたい。行かせてください」
「結局皆で。よし、行こうか」
戦いは誰も欠けず、皆で。やっぱりこの子達らしい結論。
「それじゃあ、私はここで待ってるよ」
「流石に戦いに着いてはこないと。分かりました」
「私は透明になれるけどそれだけだからね。非力パンチだよ最強技。それじゃあ、頑張ってきて」
品見さんから見送られながら、その扉を開けた。
「どうなるかなぁ。まあ勝ってほしいかな。一応、どっちになってもいいよう考えておこう」
「誰だ。私は忙しい。用件があるなら手短にしろ」
所長室。奥の椅子にふんぞり返って、PCに向き合ってる男。
「あなた達がやってること、とても看過できるものではありません。アンダス団のことを抜きにしても、危険な魔族の改造等。抵抗せず、投降してください」
「ふふっ。なるほどなるほど。異少課か。よくこんなどこまで来たもんだ」
笑みを浮かべながら、さながらRPGの魔王みたいな喋り方をしている。さっきまで使っていたPCも、畳んでスリープモードにした。
「さて、それが嫌だと言ったら?」
「それなら力づくでやるまで」
「随分野蛮なこった。でもいい。ああ、久しぶりにこれが役に立つ」
ゴツいイカつい大きな剣を取り出して、両手で構える。
「自己紹介がまだだった。私はここのアンダス団の研究所所長。秋野狩隅だ。話があるなら名前で呼ぶがいい。それでは始めようか」
「消え失せろ」
「ぐっ……ったぁっ……」
秋野が剣を持ち一振りすると、衝撃波のような黒い波が現れて押し寄せた。その波は段々と広がりそして皆に直撃。ダメージを与えた。
「流石にこの黒波だけで倒せるような、やつらではないな。拍子抜けしなくて安心した」
「純様とあなたは後ろに」
「よし。絶対見破る。効率的な作戦を見つける」
純と風が後ろ下がったところで、こちらも反撃と行く。
「瞬間移動、からのっ!」
「なるほど。素早さ全振りか。そいつは、ちょっと苦戦しそうだな」
愛香が瞬間移動で間合いを急速に詰め、一撃与えた。それに対し秋野は落ち着いたまま、冷静に愛香の瞬間移動を分析している。相手の能力をできる限り把握して、読み切ってやろうと。
「っぐっ!?」
「はぁっ!」
「なるほど。お前のがこれか。だが、足が止められたぐらいどうだってない。戻れ」
続いて新が電磁の力で痺れさせる。ちゃんと電磁は効いて足が動けなくなった。だけど、動かせる手を使い、持ってる剣でカキンカキンと攻撃を防ぐ。
「こいつ、強敵だ」
「やっぱり、さすがアンダス団の研究所の所長をしてるだけはあります。それに見合った強さ」
「簡単に終われるなんて甘い幻想は捨てたほうが良い。長期戦は覚悟だな」
だんだんとこいつの強さに気づく。武器の力の黒波の強さもさることながら、単純に素が強い。剣裁きやら移動速度やら。
「敵でも強いと褒められるのは嬉しいものだな。伊達に修羅場は潜ってない。簡単に勝てる甘い幻想は捨ててみろ。死に物狂いで戦えば、あり得ない話じゃないだろう」
「お言葉ありがとさん」
「さて、そろそろこちらからもいかせてもらおう。行くぞ」
「なる、ほどね……」
「と、飛べ!空気球!」
秋野の攻撃は一気に移動して、振りかぶって剣で一撃。それを狙われた恋は、持っていた槍でなんとか間一髪受け止めてみせた。
そして翔は持ち前の空気球で吹き飛ばして離す。
「ほう。その槍でこの剣を受けるか。さてはそちらもなかなか強いな。気に入った。だからこそ勝たせてもらおう」
「私も、あなたのことかっこいいとか、そういう良い感情。少しだけはあるよ。ほんと、アンダス団になんかなんで入って、アンダス団なんかのために動いてるの」
「正義が異なるというだけだろう。ただそれだけだ」
「もう!」
分かり合うことなんてやっぱりできない。ならやっぱり戦って白黒決着付けるだけ。
「この場所じゃ火のほうは駄目だから……氷のほうを、えいっ!」
「新達、これ飲んで。さっきの間で作っていた。身体能力上げられる薬」
繁や凪も、他の人達と同様に自分にできることをやって戦いに貢献している。
「わ、私も。ここまで来たんだから、我儘行って来たんだから、行くよ!」
そんな前で起きる戦いの様子を眺めているだけで、まだ動いてなかった幸はようやく戦い始めた。
「一人だけ慣れてないのか。ままならない持ち方だな。ふっ!」
「あたっ!」
「何……!?場違いな初心者かと思ったが、意外とやるのか」
幸が攻撃しようとすると途中で靴を踏んでコケてしまった。でもそのタイミングで相手は攻撃してきて、たまたま運良く転んだことによりその攻撃をかわすことができた。
戦いに慣れてないと見抜いていた秋野も、これを見て実は本来の力を隠してたのではないかと疑ってる。たまたま都合よく勘違いしてくれてる。
「今の隙、いいですよ!」
その隙を狙って攻撃を入れた恋。武器の力無しでも強い彼女の、大きな一撃。
「あ、良かった…!」
事故っちゃったけどなんか良い感じに運良くなったので幸は胸を撫で下ろした。
「アレが武器の力だろうから、攻撃系だね。武器の力が実は違うとかは無くはないけど」
一方、こちらは後ろ側の非戦闘員純と風。戦いの様子を見ながら作戦を考えている。
わざわざここにいるのはその推理力を活かして良い作戦を立てるため。そのため2人は話合っていた。
「まあアレだけとして、変な活用法が無いってのはこっちにとっていいけど」
「でも、ただの攻撃系のって、対策とか取りづらい気はする」
特殊系は割と穴がありがちでそこを突く作戦を立てられる。それに対し攻撃系はただの技みたいなもの。純粋に殴ってきて対策を立てづらい。
「痺れさせるやつ。素早く移動するやつ。
風を出すやつ。なんか作ってるやつ。氷の技を使うやつ。これで5人の能力は判明した。そこの女2人はまだ分からないから要注意。あの後ろのやつらは多分無視でいい。といったところか」
秋野にこちらの武器の力はほぼもうバレている。バレてないのは恋と幸の。使うと反動がでかすぎて使えないのと、幸運という見ただけではわからないの。
「数が多いというのはやはり不利だな。皆消え失せろ」
「ったぁ……」
「これ、強いんだよ」
「あの対策で基本的には盾の後ろにいません?」
黒い波攻撃がやはり強い。翔が盾でどうにかしようにも放射状に来るから範囲が広すぎて受け止められない。
「瞬間移動!」
「またか。見切った程ではないが、対策が取れないほどでもない。やってみればいい。反撃を加えよう」
「っあったぁ!」
「愛香!」
瞬間移動で近づいて攻撃を加えようとする愛香。あの強さに対抗するなら、瞬間移動なんてそもそも規格外な力で戦えばいいと。
ただ、秋野は強かった。予想以上に。愛香の瞬間移動を感じて、攻撃はされてもそれに反撃して剣でぶっ倒した。そして飛ばされた愛香。
「愛香、これを」
倒れた愛香を回収して、凪は回復薬を飲まして手当をしている。その様子を見て、凪が回復役であることに気がついた秋野。
「抗うな。倒しても倒しても戻ってくるな。見苦しい」
「だからなんだよ。勝手になんか説いてんなよ」
敵に復活されるのを防ぐため、まずはと凪に狙いを定めて攻撃してきた秋野。それを防ぐのは前にいた翔の盾。この盾を無理にどかすとその間攻撃されまくりであまり良くないということで、元の場所へと戻っていく。
「そうか。そう考えてるならそれでいい。間違いというほどでもない。ただ、そんなことされようとも、私が勝てばいい」
「そのセリフ、そっくりそのまま返したいけど」
お互い一歩も譲らない攻防は続く。
「恋の切り札、アレで行けるかというと、うーん……」
後ろ側、非戦闘員達の作戦会議。
「切り札の強さ分かんないですけどどんなぐらいです?」
「一回使ったら恋本人がその戦いには出せないぐらい長い間使えなくなるから、それに見合った火力は出る。今までもいくつか、他の方法じゃどうにもならないからって時にトドメをそれでさしてきた。だが……」
「いくら火力が出るからって、倒れてしまう以上使うのは慎重にならざるを得ない」
「それがでかい。後敵の情報がこっちからじゃ分からん以上、考えなしに使ってトドメさせないと一気に不利になる」
ほんと恋の武器の力は、反動があるタイプで使いづらい。その分の強さでいくつも助けられてきたけれど。
「結局恋がトドメさせると思ったときに自力で使わせてる。それが一番確実だ」
「うむ。流石に時間をかけすぎるのは良くない。仕事も溜まっている。私個人としては敬意を持ってゆっくりと戦いたいものだが、立場というものがあるとなかなか思い通りには行かないものだ」
「あの波強い。何とかもうならないの?」
「運良く何か、良い感じのこと起きない?」
「そんな都合が……あり得ますね」
単純に戦闘能力が高く、対策の取りようがあるものじゃないから純粋に削られていく皆。人数差があるのに、あの波が全員にダメージを与えるから割ときつい。
「考えたとこで、ってタイプっぽいな。一気にタイミング合わせて攻めてみる?」
「ぎゅうぎゅう詰めからのフレンドリーファイヤで事故りそう」
「少なくとも私のはそうなっちゃいますね。氷の範囲広いので」
「そもそもそうしたらあの剣で皆切られて終わりますよきっと。密集地なんて格好の的のはずですから」
あの剣じゃあそうなるきっと。あれだけ使いこなせてるならそれぐらいお茶の子さいさいでしてくる。
「この瞬間移動に着いてこれるって、ほんとなんでそんなに」
「電気効いてはいるんだよ。足は止められてる。それだけなのがな」
「私の氷も、あんまり効いてないですね。先輩と同じような感じで」
他のやつらには効くものが、特別な理由もなくただ戦闘能力の高さで効かない強敵。ほんとに一筋縄ではいかない。
「純様、このこれ使います?」
「増強か。さっきこっちでも話題にしてたが、使うかどうかは恋に任せるよ。いつなら行けそうか、そういうのは私より恋のほうが分かってるはず。ただ、いつもより早くない?」
いつも恋が使うのはギリギリの状況になったとき。今は全くギリギリといった状況でなく、普通に戦えるレベル。今までの恋だなったら絶対まだ温存して戦ってた。
「私いつもこの前思ったんですけど、私は自分のこと過小評価しているような気がして。いつもよりもうちょっと前でやっても、あの技で倒せる気がするんです」
「でも一回だけで、しかも使ったらまともに戦えなくなるんですよね確か。賭けじゃないです?使うとしてももうちょっと後からのほうが。使ったら確実に倒せる確信を持ってからの方が」
「そういうのもあるけどね。でも、私が使うのを日和ってるせいで、もっと早く使ってたら負わなくてすんだ傷負わせちゃってたなって気づいたの。今すぐ使うかは考えるけど、早めに使おうかなって。皆のためにも」
「そうか分かった恋。見誤ってやられるんじゃないぞ」
恋のことをちゃんと案じつつ、恋の考えを応援する純様であった。
恋が決着をつけるために、武器の力を使おうと決意した。とはいったものの、1回しか使えないものをそうやすやすと使うほど考えなしではない。
「波よ来い」
「だからあれがっ!」
「無理やり瞬間移動であれを避けるのも、いやできませんね。そんなシュバッって出せないです」
「私の近くにいる?もしかしたら運良くで回避できちゃうかも。でも私自身ならともかく、周りに与えられるのはそんなに多くないから、ちょっと祈れるぐらいだけど」
「でも無いよりはましだね」
「ちょっと、お願いします」
皆あの波攻撃で段々疲弊している。早くしないと。
「ねえ、なんか使える薬。強化系の良さそうなの、ある?」
「ありはするけど、効果も効果時間もそんな多くないですよ」
「大丈夫。流石に回復薬が優先だけど、できるなら1つ作って」
まずは薬を作れる凪に頼んで、使えそうな薬を作ってもらった
「氷の技であの近く凍らせて動き鈍らせて、そして電気の力でも動けなくしてほしいの。私が合図したらそのときに」
「分かりました。必ずや当ててみせます」
「なんか、策があるんですね」
そして新と繁の武器の力でそれぞれ動きを封じておく。攻撃を当てやすくするために
「私はあの力を使おうと思うの。だから危なくなって私が合図したら瞬間移動で私を後ろに戻して」
「分かりました。使い切ったら動けなくなるんですよね。責任重大ですね」
「任せるよ」
「はい」
愛香には戦った後、もしものときの処理をお願いする。やられないためにも。
「空気球、当てたら目をくらませるぐらいの効果はあるよね。1回だけでいいから」
「1回だけ?それだけ?」
「私が戦ってるときに打ち込まれると巻き込まれちゃうから」
「確かに。そこまで精密にコントロールはできないか」
翔には、最初目くらまし要因として使ってもらう。そして
「私成功するよう祈ってるから。運良く成功、してね」
「なんだかんだ、そのちょっとの運が明暗を分けかねないかな」
「うん。私のは自分以外にはそこまでだけど、それでも風のあの不幸を打ち消すくらいには、自分の力あること知ってるんだよ」
幸から少しの幸運を受け取って、後はその時になれば合図して、スタート。脳内シュミレーションを巡らしている。勝つために。
「応援してるぞ」
「頑張ってください」
後ろの2人からも応援されてる。一致団結だ。
「これ、できましたよ。効果、2分もあるかといったものですけど」
「うんうん。全然それでも大丈夫だから。ありがと」
「倒れないよう、皆が支えますから」
「そうだね。だからこそ、私が倒すから。心配しないで」
凪に作ってもらうよう頼んでいた強化の薬が完成した。それを受け取って、また相手の様子を伺って探ってる恋。
色々とを冷静に分析して、いつ行ったら行けそうかを伺ってる。そして、そのときはもうすぐやってくる。
「よし、行くよ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「オッケー。成功するよ、きっとね」
みんなに伝えることは終わった。私自身の心も落ち着かせた。大丈夫。いつだっていける。
相手の行動をよく見て、そして今なら行けそうと思ったそのタイミング。そこで、恋が初めの合図を出した。
「全部凍って……!先輩はちょっと離れてて」
「うん。よし、撃ったところでこの電磁を!」
繁が凍らせ、新は電磁で痺れさせ、とりあえず足の自由は封じた。
「っ……やっぱり何か企んでいたみたいだが、どう来るか。何であれ、反撃をお見舞いしてやろうか」
もちろん敵の秋野だって何かしてこようとしてることに完全に気がついてないわけじゃない。今までも小声で話をつけていたのをみていたのだ。
「師匠、そこでいてくれます?行きますよ!」
「くっ……風か。何をっ」
そして翔が空気球を当てて目を少しくらます。
「じゃあ、今から行くよ皆」
「瞬間移動、準備オッケーです」
「運の良さも上がってるから、いけるよきっとね」
作って貰った強化薬を飲んで、全部の準備は終わった。愛香の万が一の時の瞬間移動の準備もできている。ここまでは完璧だ。
「増強の、力を!」
そして恋は武器の力を発動させた。もう戻れない。
発動させてステータスを上げたら、素早く秋野のところまで一気に詰め寄り、そして攻撃を加える。
「ふっ……なるほど。それがその武器の力ということか。ただ、今まで使っていなかったのをみると、デメリットが多いんだろう?何もなしなら最初からもっと使ってる」
秋野には結構色々と勘付かれてはいた。だとしてもこれで倒せばいい。
「早く倒す。私が倒れる前に!」
「今までとは目に見えて違うな」
素早くどんどんと攻撃を加えて、ごりごりと削っていく。桁違いの速さと火力にタジタジな秋野。
「素早さはまだいける。これで防ぐとっ」
「このっ!このっ!」
速さもおかしく、基本的には付いて来れないレベル。でも秋野はすごく強い。愛香の瞬間移動でさえ対応できたのだ。その素早さに喰らいつくこと自体はまだできるよう。
空気球の目くらまし効果はもう消えており、氷やら電磁やらは一応効いてはいるものの無いのと同じぐらいの対応ができていた。
「ここっ!そしてここっ!」
「これは本当に強い。負けるかもしれない。だからこそ突くんだ穴を。今まで使ってこなかった理由を」
素早い動きで武器に当たらないよう槍で突き刺す。
「これだ!波よ来い!」
対策として波を起こして一旦どけようとした。たとえ素早くても全体に当たるから行きようがないと。
「ざっ!ふっ!はぁっ!はぁっ!」
「波を通り抜けた、だと」
ただまさかの、恋は波にそのまんまぶつかって通り抜けた。ステータスが上がるのだからもちろん防御力も上がってる。それを踏まえて無理やりに通り抜けた。
そして少々休憩してまた始める。時間制限がきつい。
「なんとか、なんとか。考えてられる時間もない」
「まだっ!まだっ!ピンピンしてる」
あっちもなんとか対策しようにも考えてられずボコボコにされている。でも、ピンピンのまま。見せてないだけなのか本当にまだまだなのか。残りの量が分からなくて不安になってくる。
「時間がっ!こ!れ!で!いけっー!」
「うっ……うぐっ……はぁ……はぁ……。この、戦わないと。何とか終わらせてやる」
実際の所、あれだけくらっててかなり疲弊はしている。それでも見せずに、食らいついてきて、本当に強い。
「これを、入れっ……」
バタン
そんな中、急に恋が倒れた。
「恋!」
「川崎さん!」
皆が心配する。そして秋野も防御を解いて足を動かして恋の元に向かっている。まずそうなので愛香が瞬間移動で戻した。
「こっちに!瞬間移動で!大丈夫です?」
「終わったのか。あんなものは二度と味わいたくない。まさかこんなものを隠し持っていたとは。それを使っていけるのも、凄いことだ」
秋野も褒めているが、恋は何の反応も示さない。
「これってやっぱり……」
「見させて。うん。時間、経ってしまったみたいだな」
「本当に!?勝ちたいってあれほど……神様。恋に幸運をっ」
「幸、前をみろ。今の状況でもそっちがさき」
そう。倒しきれなかった。恋には。アレだけし、素早く翻弄してどんどんとダメージを積んでいったものの、それでも時間は無慈悲に過ぎて終わりを与えた。
「恋……」
倒れてしまった恋のことを、近くから眺める純だった。
「うっ……」
「恋、休んでろ。もうまともに動く気力すら無いだろ」
「これ、ここに腰掛ければ、少しは楽になれる」
「今作ってますから、回復薬を」
後方で最後まで決めれずに倒れてしまった恋を介抱している。恋はよく頑張った、あの選択も間違ってはいなかった。ただ少々相手が悪かっただけで。
「ふぅ……少し落ち着いた。もう少し長かったら……危ない所だった」
「でもあれだけ削ってくれた、体力も残りないきっと。皆、行こう!」
実際、敵の体力の多くを恋が削ってくれたから残り体力は少ない。だとしても、強さは相変わらずなのだが。
「波よ。そうだ一人ずつ……一人ずつ着実に」
「神代先輩2人で行きましょう。タゲ取りです」
「よし来た、愛香との今までの共同任務、合わせるのぐらいどうってことない」
「じゃあ一気に行きますよ!」
愛香の瞬間移動で近づいて、愛香と新の2人で近接攻撃を浴びせまくる作戦。1人じゃないからできること。相手と暗黙で合わせられるからできること。
「どちらも、近づくな!」
「うぁっ……」
「愛、ぐふっ……」
「全てを避けるか、躱すか、受け止めるか……負けられない」
それでも秋野は一気に振り回し2人を同時に攻撃して、全く近寄れないようしてくる。2人ともそれで全く攻撃できずにふっとばされた。
「わ、私だって!そりゃ、やられろ!やられろ!」
「っ……!ぐっ……!っ……!落ち着こう。大したダメージではない」
全うに近寄れないのもあって、あんまり考えず、手当たり次第にそこら辺にあった物を秋野に投げつける幸。ただこれは狙ってなかったのに、意外と役に立ってる。火力なんかどうでもよく、地味なこれに当たって気が逸れてる。集中を妨げれてる。
「皆さんどいて、今なら!」
そして繁は遠距離で確実に削っている。こればかりはまともに止められない。下手なことせず着々削っていく。それがここのやり口だ。
「私だって!」
「はぁっ!?えっ?いや、なんなんだこいつは。一番分からん」
そして出て来た幸。もちろん秋野も攻撃しようとしてくるけど、なんか運良く少し斬撃がズレたりとかでかすり傷で済んでる。明らかにそこがおかしすぎて、秋野も困惑中。
武器の力が見て分かるタイプと違い幸の幸運は見ただけじゃ分からない。しかも武器の力としては異質で考えて出せるようなやつじゃない。そのおかげで未だに幸だけは武器の力が分かってない。
「このままではジリ貧だな。愉しむのはいいが、それにかまけて負けてはならぬ。そろそろ終わらせようか」
残り体力が少ない状態でもしぶとく耐えていた。だけどもこちら側の攻撃は単純に量が多く、秋野が1回攻撃するまでに複数当ててくる。正直このまま続くのなら恋が削ってくれたのもあって多分こちらの勝率はかなり高い。
それを秋野は分かってる。だからこそ、多少無理してでも倒そうと思える。
「さあ、行こうか」
「空気が、変わった!?」
「師匠、凄い嫌な予感が……」
「だ、大丈夫……だよ、きっと」
武器を持って構える秋野。それに対して異少課の皆は口々に恐怖を語る。これから始まりそうな、秋野の攻撃に対する。
「とりあえず後ろに。俺がとりあえず防ぎきります」
「私も、うまいこと切り抜けれるよう祈るから」
翔の盾の後ろ。ただ突っ立ってるより格別に安全なその場所に避難して、これからの攻撃に備える。そしてこういう嫌なやつには運でどうしたほうがいいからと、幸運を祈る幸。
「勝つ!」
勢いよく秋野が飛び出して、翔の近くへと一気に詰めてきた。
「だぐっ……っ!ちょっと待っ!」
「翔が押されてる!?」
「結構きついです……」
翔の盾を破壊するかの勢いで攻めてくる秋野。翔はもう頑張って耐えれてるに過ぎない。
「瞬間移動、離れ、てっ!?」
「帰れ」
「っ、だぁっ!」
「愛香!」
瞬間移動して近寄り、一旦押されてるのを立て直そうとしていた愛香。でもその瞬間移動自体が読まれていたのか感じ取ったのか、愛香の攻撃よりも早く重い一撃を入れられ、簡単に愛香は吹き飛ばされた。
「これは考えずにいくとすぐ負けるやつか。なんかいい、打回策は……」
「幸、その幸運の力で、何とかできないか?」
「いや流石にそんなあやふやなものに頼っては」
「何も策がないなら、あやふやにでも頼ったほうがマシだから」
後方組の純と風も冷静に状況を分析。確度を求める純に対し、確度が大事なことを分かりつつも、絶対的な負けを回避するよう努めるべきとする風。どちらが間違ってどちらが正しいなんてない。
「先輩しゃがんで!斜線通します」
「分かった。じゃあ俺は逃げられないようにしとく!」
前線の方では近寄らずになんとかするため、繁の銃が火を吹いている。そして新は剣を剣として使わず、ただ電磁で動きを阻害するだけに留めていた。
「分かった、風。私やってみる!見ててよ」
「幸ならいけるよ」
「私としては、あんまりしてほしく無いけど……でも、行けるって思えてるのなら、ありなんじゃないかな」
他にできることがないのなら、たとえそれがどんなのでも取るべき。それは純だって理解していたことだ。恋が確実じゃなくても早く使うことを許したのは純だ。身内にだけ、許すなんていいわけはない。
「いけ、るよ。きっと」
「恋!無茶して喋ってないか休んでおけ」
「はい、ここに」
そしてその話を聞いていた恋も、行くことに賛同してみせた。皆が、その願いを託していた。
「託されたなら、私がやるしかないね」
相手への恐怖だとか、負けてしまうかもしれない絶望とか、幸には無い。必ず勝つという心意気だけだった。
「もしもがあれば、私が使いますから」
「うん。ありがと」
倒れていた愛香も、何かあった時のため幸を瞬間移動させる準備は整ってた。
そして、幸が動き出す。
「私が倒すから!」
「油断をするな。この強敵の目を見て、見つければ良い」
幸の幸運で思うように行かないのから、幸のことを強敵認定している。今の状態だと気をつけて負けないようやってきそうだからかえって不利な感じがする。
「今のうちに!」
「こっちもか」
それはそれとして、繁は遠距離で削っている。どちらにも対処しないといけない好都合。
「このっ!」
「おっとっと、はいこれでまずは一発!」
剣を振るもその剣のふるう軌跡が少しズレて、避けようと思ってしゃがんだ幸の上を斬る。そして攻撃を入れた幸。
「近寄らせますね」
「ばっちこーい」
「このっ、何だとお前もか」
そして先にと襲いかかる秋野。ただ今度は愛香が近寄らせるためにと瞬間移動させたタイミングと合わさってまた攻撃を避ける。そして後ろからの2度目の攻撃。
「これを、避けて、おりゃぁっ!」
「今だ、空気球!」
そしてタイミングを見計らって攻撃を入れる新や翔。前の幸を倒すことに集中してくれていたおかげで視野が狭くなってる。
「このっ!波よ!」
「わぷっ、ふぅっ……」
かといって、全部が全部幸運でなんとかなるほど、都合はよくない。そりゃ波攻撃なんてされたらくらってしまう。
「でもまだ、いけるから」
それでもたまたま攻撃をくらったときの姿勢が良くてあんまりダメージをくらわなかった幸は、また戦いに挑む。
「しゃがんで避けて!」
「おっとっと」
「これで近づけば」
「させない、電磁の力!」
「空気球!あぁ当たっちゃったどうしよ」
「へーき。それに、ないとくらってたから」
繁が攻撃を通すためにしゃがませると剣の振るいを避け、近づいて倒そうとしてきた秋野の足を新が痺れさせたことで免れて、間違えて幸に当たった空気球は幸を飛ばすから攻撃は当たらずに済む。
「こんなの、全部読めてるとしか考えられない。まさか」
全く読んだわけじゃない。ただの幸運ただそれだけ。でも、どんなものよりも、簡単に勝てるもの。ご都合主義みたいな明らかな幸運を味方にした幸に、勝てないものは無いのかもしれない。
「倒さ、れろ……」
「はい」
残りの力全部を使って放った剣は障害物に当たって止まり、そして幸の攻撃で、その場に秋野は倒れ込んだ。
「やったやった。倒したよ、風ー!」
「見てたよ。頑張ったな」
そして戦いに勝利した。こんな戦いもまた、あってもいいだろう。
「はぁ……ようやく終わった……」
「なんかもう、どっと疲れが出てきた」
「大丈夫?愛香?見た感じ大きな傷とか無さそうだけど」
なんだかんだあって、秋野を倒すことができた。ピリピリ張っていた戦慄した空気感がようやく終わったのもあり、皆ぐったりと座って疲れを癒していた。
「まだ警備帰ってないよね?」
「そうじゃないかな大事になってなさそ……でもこの部屋の中だから誰も気づいてなかったもあるか」
「最悪これだけでも捕まえたのなら後の構成員何人か取り逃したとしても何とかなる。トップだからな、色々と情報も得られる」
この研究所の証拠隠滅できるほどの時間はない。てことは。ここの情報、組織の中枢につながるような重要な情報もめちゃくちゃ得られる。これは大きなアドバンテージになる。
「そう言えば、品見さんに終わったこと伝えないと」
「あ、まだ待ってるのかな」
倉庫で見つかっても黙ってくれて、ここまで連れてきてくれた品見さん。この組織に否定的で秋野が倒れることを肯定していたし、伝えないのは明らかにおかしい。
重たいドアを開けて、キョロキョロとあたりを見渡した。
「あ、終わった?」
「はい」
肯定の意味を示して首を縦に振る。透明になっていた品見さんが姿を現して、近くへと来てくれた。あまりここで話すのも何なので、この部屋の中で話す。
「本当だ。勝ってほしいなとは思っていたけど、本当に倒しちゃうなんて、凄いねあなたたち」
「それほどでも」
「研究所の様子、どうです?」
「変わったことはないかな。まだ警備の人は帰ってきていないといったところ。別でも問題起きたらしくて、そっちの対応にあたふたしてた」
今警備と戦うことになるときつい勝負になってたから、それは良かった。まだ気づいてないなんて、そんなこともあるもんだな。
「ところで、警察なんでしょ?ここで働いてるのは皆捕まえるの?」
「警察に引き渡すよ。まあ各々の理由とかあったんだろうけど、やったことが……」
魔族の実験碌でもないことやりまくってただろうし、慈悲とか与えれない。そもそも管轄違うから。
「ふーん……予想していたけど、やっぱりそうなの?私とかも含めて?」
「助かったというのもあるし私達としても何とかしてみたいって思うけれどね、それ以前にそこら辺決定するの私達じゃないから。箕乃が担当してるしそこら辺便宜とか、測ってくれるとは思うよ」
「人が良さそうではあったからな。関係者が頼んできたら甘そう」
「箕乃はそうだからいいんだよね」
岐阜県異少課の上司の飛田箕乃。気さくないい人というのがまさに似合ういい人。事情とか話せばまあ罪を軽減してもらったりさせてもらえそう。
「あー……でもやっぱり警察に厄介にはなっちゃうか。ここで私が勝手にどっか行くってのは流石に許容できないよね?」
「流石にそうなる。こっちとしても致し方ないが」
これがもうちょっと別の事件とかだったらまだ何とかできるけど、これは明らかに異少課がよく対処するアンダス団に関わる事件。関係者である以上色々と情報は出してもらいたいというのが心情。
「そう。それじゃあっと」
そしたら急に透明化した。話の流れが見えず困惑する皆。
「私こんなところようやく逃げられるんだからそんな警察に捕まったりしたくないんだよね。ありがたいよ便宜図ってくれるの、でもね?どうにもなら無いならやっぱり駄目かな。じゃ、私逃げるから。透明になってるから探すの無理だと思うよ。じゃあね」
「うぇっ!ちょっと逃げるな!」
「ど、どうします?透明なの探すことなんてできませんよ」
「仕方ない。今すでに皆疲れてるだろ?まあいいよ。平の研究員だったから、まあ」
逃げられるのはこちらとしてはあんまり許容したくないものではある。だけど透明になってる逃げた人を捕まえることなんてそんなの普通できない。しかも、疲れてるこのときならなおさら。
「最初から、私達のこと利用してたのかな」
「ま、どうだろうな」
真意は私達が理解することなんてできない。
「警備の人が来る前に、トップだけでも瞬間移動で護送しよう」
「それじゃあ私瞬間移動使いますね。皆近づいててください」
いったんやることも終えたので、岐阜県の異少課に色々とあったことを伝えに行く。後はそっちに任せて壊滅させてもらおう。
「この部屋は」
「ん?ん……。なんでいるの。」
「ここ管轄岐阜のはずよな。確か富山の?と後は分からん」
「そうなんですか、あんまり分からなくて」
「えっ?」
瞬間移動しようとしたその時、後ろから声が聞こえてきた。振り返ってみると、そこには見覚えがある人物達。他県の異少課メンバーがそこにいた。
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