07●戦闘バイクはセックスシンボル!

07●戦闘バイクはセックスシンボル!


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 で、『ヴイナス戦記』のメカの傑作中の傑作は、やはり戦闘用モノバイ。

 原作漫画と異なり、思い切って一輪を採用した英断に拍手!


 というのも、一輪で闘うバイク、という技術的発想が、おそらく唯一、『ヴイナス戦記』をSFたらしめている要素なんですね(監督、ごめんなさい!)。未来ならではの高度なジャイロスタビライザーのシステムに加えて、一輪で柔軟に走行するためAIも駆使していることでしょう。

 ただでさえ「なぜ金星にしたのかわからない」設定です。人が暮らせる大気と気温があれば、火星だってイオだってガニメデでもタイタンでも(木星を太陽化して周囲をぬくめれば)成立するお話でしょう(監督、ごめんなさい!)。

 これで二輪で走っていたら、戦前の満州にソ連の多砲塔戦車が攻め込んだという筋書きでもイケるのではないでしょうか(監督、本当にごめんなさい!〈土下座〉)。


 だから、一輪のモノバイはマストアイテム。

 戦闘用モノバイは、冒頭のレースに出てくる競技用モノバイと異なり、エンジンを車体前半部のフロントに持ってきています。

 これにはおおいに納得。エンジンを前に置くことで、正面の防弾を考慮しているのです。戦車で言えばメルカバ方式ですね。フロントガラスも分厚い防弾仕様として、ドライバーを守っています。

 そして後面には、おそらく座席の背もたれとヘッドレストの裏に防弾板(金属でなくセラミック系かもしれませんが)を設置、背面からの敵弾に対して、最低限の防御をはかっています。

 つまり「敵に対して前を向いて突撃、次いで敵に背中を向けて一目散に逃げる」という、典型的な一撃離脱戦法に特化した戦闘マシン。

 左右は生身の肉体がむき出しなので、一発でも喰らったらお陀仏です。

 つまり、戦場では高速かつ俊敏に機動して、「敵に側面をさらさずに戦え」という、ほぼほぼ特攻兵器。

 ドライバーもメカも消耗品であることを前提にしている……と作中で公言される、トンデモな無責任兵器でもあります。まったく、後方で指揮する上官はいい気なもんだよ……と、隊員のみんなが内心ではボヤいているのでは。


 で、大切なのはモノバイの機動力。

 一輪となれば前後の傾きの安定に欠けるので、高性能のジャイロ機構を内蔵し、たぶんAI制御で重心を一定に保っておくのでしょう。冒頭のレースシーンでガリー氏が「ジャイロ」の用語を使っていました。高速回転する“地球ゴマ”みたいな仕組みを内蔵しているのかもしれませんが、詳細は不明です。

 とはいえ、一輪で走るということは、車輛として究極的に俊敏な運動を可能にするというメリットがあります。

 二輪なら方向転換のさいに内輪差や外輪差を考慮して転回しなくてはなりませんが、一輪ですと接地箇所が一点のみ。ジャイロの運動エネルギーとドライバーの体重移動を組み合わせて、その場でクルッと180度のクイックターンを決められるのではありませんか。

 まるでスケーター、この俊敏さこそ、戦闘モノバイの生命線。

 前後は防弾装備があっても、左右側面は生身の肉体が露出しているのですから、状況に応じてパッとクイックターンして、常に敵には前面か後面を向けなくてはなりません。でなければたちまち、あの世行き。

 生きた心地のしないメカです。これに喜んで乗ったウィル君の心境はいかばかりやら……。


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 モノバイについて、気になる謎。

 冒頭のレースシーンではピットインして分解したレース用モノバイのタイヤが映り、そのホイールの中心に車軸を通す穴が貫通しています。

 しかし、ヒロとカーツの“峡谷の決闘”の直後、コロコロと転げていくタイヤを見ると、車軸の穴が開いておらず、のっぺりとした円形のドラムになっています。

 車輪の駆動メカニズムに、何らかの違いがありそうです。

 勝手に想像するに……

 レース用モノバイは、車輪の中心に回転軸を通して固定するシンプルな方式。

 一方、戦闘用モノバイでは、とてもデリケートで高級なシステムを採用。

 つまり、車輪のドラムを、左右から回転する電磁石ドラムでピッチリと、分子レベルで隙間なく挟みつけて回しているのではないかと……

 そうすることで、必要に応じて車輪の回転軸を微妙にずらして、車体を不自然にジャンプさせたり空中でひねりをかけたりと、敵の意表を突くランダムな駆動を可能にして、弾雨をかいくぐって突進するのでは……

 細かなことですが、そんなことを想像する余地があるということも、この作品ならではの「面白さ」だと思うのです。

 いや本当に、モノバイはよく動いていました。その映像だけでも国宝級ですよ!


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 戦闘モノバイには、もうひとつ、隠れたデザイン上の特色があります。

 作中で、モノバイの上にまたがって、両足をふしだらにおっぴろげたクリス君、いみじくものたまっていましたね。

「セクスィー……たまんないわ」と。

 見ればわかる、そういうことか。

 戦闘モノバイの、先端を丸めた焼き芋のごときフォルムは……

 男性の〇〇〇だったのだ。

 この象徴的な意味合いは、さすが。

 戦闘モノバイは、マシンも乗員も消耗品。

 なるほど、精子ちゃんも99.999……%は消耗品だよね。

 戦闘モノバイの部隊は、徹頭徹尾「生臭い男の生殖世界である」という暗喩が窺われるのです。

 なるほど、バイクゲームのクイーンを務めていたミランダ嬢が、もう、キモすぎてヘドが出そう……なほどイヤな顔をして、こいつに乗るのを避けていた理由、明白ですね。

 こいつにまたがるなんて、クイーンたる自分の“聖なる女”が凌辱される気分だったのではないでしょうか。


 もっと可哀そうなのは、クリス君の運命。

 戦闘モノバイの性的な正体を観客に暗示するためにだけ出演して、たちまち昇天なさってしまいました……エイメン。




   【次章へ続きます】


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